精神的な苦痛から逃れるために、薬を過剰摂取する「オーバードーズ=OD」。一歩間違えれば命を落とすほどの危険な行為だが、いま若者たちの間で広がっている。

■人間関係や心の傷をきっかけに「お酒の何倍かフワフワ…」ODに依存する若者たち

 名古屋・栄。夜になると、未成年を含む10代から20代前半の若者たちが、広場や路上に集まっていた。

【画像で見る】32錠持ち歩く20歳も…若者に広がる“市販薬オーバードーズ”の実態

いったい何のために集まっているのか、話を聞いた。

男性(19):
「いじめがあったりとか、人間関係とか、心に傷を持った子たちがここに集まって仲良くなっているっていう感じですかね」

家にも、学校にも居場所がない若者たち。みな、解消されない「心の悩み」を抱えていた。

リストカットがやめられない、21歳の女性。

記者:
「うわ…」

女性(21):
「自傷行為」

記者:
「根性焼きも?」

女性(21):
「そう。1人でホスト行きまくって、ホストにカケ作らされて、それで働かんといけんやん。風俗とかそっち系に落ちていって、体が限界でうつ病とかずっと持っとるから…。いま切らないように頑張ってしてるんだけど、この前OD(オーバードーズ)したときにまた切っちゃって…」

自らを傷つけても、癒えない心…。そして手を出してしまったのが、「オーバードーズ」だった。

彼女の友人で20歳の男性。オーバードーズに使う薬を、常に持ち歩いていた。

男性(20):
「僕はいつもこれでやってる」

記者:
「これで12(錠)ってことは、これ?」

男性(20):
「そうそう、もっと『飛びたい』ときはこれで」

カプセル12錠と錠剤20錠、あわせて32錠。

他にも…。

女性(16):
「これ1セットで飲んだり。アッパーとかダウナーっていって、気分が上がるのと下がるのがある」

これだけの量を一気に飲むと、気分が高まったりするという。

男性(20):
「要はお酒で酔う感覚あるじゃないですか。それの何倍かフワフワするんで。これ飲んで気分上げたりとか」

女性(16):
「楽しくなりたいし、辛くなくなる」

ただ、この薬はよく見てみると…。

男性(20):
「かぜ薬、簡単に言ったら。せき止め」

たいていの人は見たことがある「市販のかぜ薬」だ。

男性(20):
「その(風邪薬)中にある副作用」

女性(16):
「こういう瓶タイプだったら、中から30錠出したりとか。初めてやる人は15錠とかでダウンしちゃう」

若者たちの間で広がっていたのは、「市販薬」によるオーバードーズだった。

■市販薬乱用が一気に急増…背景の1つは「情報も薬も簡単に手に入る」

 薬物に依存し治療を受けた10代の患者が、どの薬物を使っていたのかを調査した結果では、2014年までは危険ドラッグなどが多く、市販薬を使用する若者はいなかった。しかし市販薬の割合は年々増え、2020年の調査では半数以上までになっていた。

<ネット上の投稿>
「もう1瓶入れたい」
「OD好きな人と語りたい」

情報はネットに氾濫していて、飲んだ量を自慢しあうような書き込みまであった。情報も薬も簡単に手に入ることが、若者たちに広がった背景の1つだ。

 1か月後。再び名古屋・栄の同じ場所を訪ね、話を聞いた。母親から逃げた、19歳の男性。市販薬を使ったオーバードーズに依存していた。

男性(19):
「お母さんが精神障害で、目の前でわーわー、『リスカするー、死ぬー』みたいにやったりしてて…。小学生の頃からそうされていて、家出した。家に帰ってないから、ずっと」

男性(19):
「みんなそういう市販薬。市販薬しかないよね。じゃないと違法になっちゃうし。みんなが買っちゃうから、買い占めちゃう。だから界隈民(ODをする若者)が『いいよ、売ってあげるよ』みたいな」

男性(19):
「副作用とか色々ある中、この薬はちょっとで飲んでキマるから楽とかあったりもするし。だからみんな、コスパのいいものだったり、量が多いのを(選ぶ)」

■医師「無残な亡くなり方する」…致死量飲んだ女性は一命をとりとめる

 市販薬とはいえ、大量摂取に危険は伴う。中川区にある名古屋掖済会病院の救命救急センターではオーバードーズの患者が、1日に3件運ばれてくることも少なくない。

医師は、「死に至ることもある」と警鐘を鳴らす。

名古屋掖済会病院の須網和也医師:
「本当に多量に飲むと、命に関わるケースも中にはあります。場合によっては中毒の量がすごく多くて、心臓が止まってしまったりとか、致死的な不整脈が出ることがある」

この日も、22歳の女性がオーバードーズで救急搬送されてきた。複数の錠剤をあわせて40錠飲み、部屋で倒れかけているところを家族に発見された。

飲んでいたのは、市販の薬だった。

小川健一朗医師(患者に):
「わかります?おうちでも吐きました?吐いてない?救急車の中が初めて?」

治療は、薬の成分が吸収されているかどうかで一刻を争う。この患者が飲んだ量は致死量で、すでに3時間も経過していて、このままだと肝臓の機能が低下し死に至る可能性があった。家族は「肝移植もしてでも助けて欲しい」と切実に願った。

左近真之医師:
「まだお腹にたまっとるならね、外に出した方がええんだわ。出すときは、お鼻から管入れて胃の中洗うんですけど。ちょっと1回だけやってもええ?苦しいのやだ?」

小川健一朗医師(患者に):
「本当に死ぬぐらい飲んでるんです。1週間ぐらいかけてだんだん悪くなって、すごく無残な亡くなり方をする、そういう薬なんですよ。それぐらい危ない薬なので今日、今しかできないから、ちょっと頑張ってください」

オーバードーズを「治す薬」はない。これ以上吸収されないよう、胃の中に残っている成分を回収する「胃洗浄」を行う。鼻から管を入れて、胃液を吸い上げ、水分をいれてまた吸い上げる。何度も繰り返して、胃の中をきれいにする。

左近真之医師(患者に):
「最近、何かで悩んでることあったんですか?家族と仲悪かったり…、そういうのではない?普段から飲んでる薬があるとか、それもない?何か嫌なことがあったんですか、今日は?なんかあった?あんまり話したくない?」

幸い、肝臓に影響は見られず、女性は無事退院した。

■医療だけで治すのは限界…医師が訴える「社会で背景を考える」システムの必要性

医師たちは、「症状がおさまってからが勝負」だという。

須網和也医師:
「OD(オーバードーズ)というのは、基本的に病気を治して済む問題ではないですよね。外傷とか交通事故だと、病気を治したら良くなりますけど。家族を巻き込んだ説明、家族がいない子とかは社会を巻き込んで、精神科の先生を頼ったり、心理士さんを頼ったり、その子の背景をみんなで考えていく」

ただ、病気を治す「医療」だけでは、限界を感じている。

須網医師:
「解決策として、病院が何かするのはいまのところなかなか難しいところがあるんですね。彼らは社会的な弱者になってくるので。隅から隅まで守るシステムは、なかなか難しいなというのが本音」

■命の危険を冒すODに若者「おっさんがタバコやめられないのと同じ」

 オーバードーズに依存する若者たち…。

男性(20):
「“死にたくなるのを止める薬”みたいな。(記者Qやめられそうですか?)いや、無理っすね」

女性(16):
「やめようと思えばやめられる。やめようと思わないだけ。でも、薬飲んで死にたくなる子とかもいるから、ほんと人それぞれ」

男性(19):
「OD(オーバードーズ)は、なんかもう何も考えたくなかったりとか…。みんな楽しく普通に生活してるんだろうけど、お金だったり、家のことだったり、友達だったり、何かしら悩みを抱えた子が来るんじゃないんですか。生きているおっさん方に、タバコいきなりやめろって言って逆にやめられますか?無理ですよね、それと同じですよ」

 命の危険を冒しながらも、依存から抜け出せない。その代償は計り知れない。