名古屋は、京都に次ぐ生菓子の出荷額を誇る「和菓子どころ」だ。しかし名古屋の和菓子は今、苦境に立たされている。「和菓子離れ」で消費量が落ち込んでいるのに加え、コロナで打撃を受け、廃業する店もある。和菓子文化を守ろうと、地元の「若旦那」たちが奮闘している。

■和菓子に接しない若者向けイベント…和菓子離れに危機感を覚える“若旦那”たち

 2022年8月、名古屋市中村区のホテル「ニッコースタイル名古屋」で“音楽イベント”が開かれた。和菓子店の店主がDJとなり、会場を盛り上げた。フロアの片隅では…。

亀屋芳広(かめやよしひろ)の花井芳太朗社長(42):
「いいです。ここで茶色のやつを使って…。あんこ、基本ちょっとかたくなっているので、必ずこうやってもんで。もむと柔らかくなって、使いやすくなります」

【動画で見る】和菓子離れに危機感…老舗和菓子店の若旦那たちの奮闘「抵抗あるけど時代の流れ」

上生菓子の練り切りづくりを体験する、ワークショップが行われていた。

青柳総本家の後藤稔貴副社長(33):
「普段、和菓子に接していない人たちに触れていただきたい」

亀屋芳広の花井社長:
「これで、和菓子屋さんにみんなが来るとは思えないんですけど、危機感がありますので。今、こうやって行動をしないと、本当に衰退の一途を辿るんじゃないかと思って」

進む「和菓子離れ」。薄皮の酒まんじゅうで名古屋土産の定番としても知られた老舗、「納屋橋饅頭」は、2022年1月に製造を中止。

昭和2年(1927年)創業で、鬼まんじゅうや動物をモチーフにしたまんじゅうが有名な「浪越軒(なみこしけん)」も、2022年2月に閉店した。和菓子業界は今、老舗の有名店や人気店でも安穏としていられない状況になっている。

■洋菓子は右肩上がりで和菓子は減少…「甘みが強いのが苦手」「SNS映えしにくい」との辛辣な声も

「和菓子離れ」は、どれくらい進んでいるのか。和菓子と洋菓子両方を扱っている三重県四日市市の「富寿家(とみすや)」に協力してもらい、どちらを買う人が多いのか観察すると、ある和菓子が売れていたが…。

富寿家の店主 早川賢(はやかわ・まさる 50)さん:
「今日は暑い日だったので『くずバー』という和菓子が売れた」

よく売れた和菓子は、葛とフルーツを合わせて凍らせた、「くずバー」のみだったという。

早川さん:
「(和菓子は)朝、お供えのお客さまが出ただけで、あとはあまり売れてなかったような気がします」

饅頭や草餅といった定番の和菓子は、ほとんど売れていなかった。

来店客に、和菓子への関心について聞いてみた。

男性客:
「甘すぎると…っていうのはあるので」

女性客:
「私はあんこが苦手やもんで」

別の女性客:
「若い子(娘の家族)と一緒に住んでいるし、若い子が和菓子って食べない。『洋菓子かわいい!』ってなるけど和菓子にかわいいってなかなかないで…」

「甘みが強いのが苦手」「SNS映えしにくい」という声が聞かれた。この店でも20年ほど前までは、和菓子の方が人気だったが、今では洋菓子の方が1.5倍ほど売れているという。

和菓子と洋菓子、それぞれにかけるお金を調べた総務省の調査結果を見ても、洋菓子は右肩上がりなのに対し、和菓子はジリジリと減少。支出額にして1万円以上の差が開いていた。

やはり「和菓子離れ」は進んでいるようだ。

■コロナの影響に加えて原材料高騰のWパンチ 和菓子店店主「とにかく今年が一番ひどい」

 名古屋市中川区で半世紀以上続く「舞雀(まいすずめ)」の2代目店主、大塚裕二(おおつか・ゆうじ 53)さんは、和菓子の世界に飛び込んで35年が経つが、今が一番苦しいという。

舞雀の店主・大塚裕二さん:
「一昨年(2020年)がコロナ禍でも、そんなには(売上は)減ってないんですけど、今年(2022年)のお盆は去年より悪いです。とにかく今年が一番ひどい」

大塚さん:
「コロナ1年目の時は、お使い物がゼロなんです。逆に、個人でお家で食べたい人が増えました。このお盆でもコロナ(感染者)が最多になったじゃないですか。外に(遊びに)出ているので逆にお使い物はない、家で食べるものもあまり買わずっていうのが、今年の現状ですね」

大塚さんは、上生菓子や練り切り、焼き菓子など、多い日には15種類のお菓子を1人で作っている。大変だが人は雇えない。

大塚さん:
「人を雇うと、その分年間の売上を1000万円は上げないと、人件費出ないもんで。だけどそこまでなかなかね。和菓子屋さん、儲からないから」

苦しい理由は、他にもある。

大塚さん:
「砂糖が大体1キロで100円、120円~130円ずつ上がっています。ずっと上がっています。3月に上がって7月に上がって、今度12月に上がります」

2022年の6月から7月の1か月間で、砂糖の卸値は1キロ120円、1袋2400円も上昇した。

加えて、和菓子に欠かせない米粉も、1キロ80円、1袋1600円も値上がりしている。さらに、冬にも値上げが予定されているという。

それでもこの店では、お菓子の値段はほぼ据え置きにしている。

大塚さん:
「(価格は)ちょこっとしか上げてないです。ギリギリに抑えながらやっていかないと、中川区のニーズに合わせて作らないと…」

ただでさえコロナでお土産需要が減っているところに、原材料の高騰でダブルパンチだ。

大塚さん:
「苦しいですね、苦しいです」

■「ビーガン」「グルテンフリー」「低糖質」… トレンドに合わせた和菓子で復活を目指す店も

 新しいアイデアで、和菓子の“復活”をめざす若旦那もいる。1716年創業。三重県鈴鹿市にある、「大徳屋長久(だいとくやちょうきゅう)」。

看板商品は、薄いクレープ状の生地に北海道産の大納言小豆を包んだ「小原木(おはらぎ)」(1個119円)。300年以上、製法や材料を変えていない。

この老舗が、2022年7月から販売を始めたのが、ヘルシーな和菓子や、子供をターゲットにした商品だ。

大徳屋長久 店主の竹口久嗣(たけぐち・ひさつぐ 42)さん:
「これは普通のどら焼きじゃなくて、ビーガン、グルテンフリー、低糖質のどら焼きになります。小麦粉の代わりに全部米粉、卵は使わず豆乳で作っています。あんこも砂糖も全部、てんさい糖を使っていて、ビーガンの方でも食べられるどら焼きです」

ビーガンやグルテンフリーなど、健康に気を使っている人でも食べられる、ヘルシーなどら焼き「本気のどら焼き」(3種5個入2980円 ※ネット販売限定)だ。

 子供をターゲットにしたのは、練り切りの体験キットと絵本がセットになった「さわってつくってたべる絵本」(ねりきり2個入り3980円 ※ネット販売限定)。

竹口さん:
「体験型の絵本なんですけど、絵本を読み聞かせしながらその後一緒に(子供と)和菓子を作るという」

子供のうちから和菓子に親しんで、好きになってほしいとの思いが込められている。

竹口さん:
「一言で言うと危機感なんですよね。“和菓子離れ”を自分も実感していたので。一昔前のことをずっと今当たり前にやることも大切なんですけど、今のライフスタイルに合わせて和菓子も変化させていかないといけないと思うので」

■「本当は作りたくないが時代の流れ」…“Wパンチ”に苦しむ店は生クリームを使った大福に挑戦

 新たな試みで次世代の和菓子ファンを。「今が一番つらい」と言っていた、名古屋の和菓子店「舞雀(まいすずめ)」でも、SNSを開設し、若者からの関心を集めようとしていた。

大塚さん:
「インスタグラムに上げます。娘が朝、会社行く前に撮って…。美味しく見えるように、なるべく若い子目線で撮った方がいいかなと思って」

少しでも多くの人に見てもらえるよう、投稿する時間も工夫している。

大塚さん:
「なるべく午前中には上げるようにはしています。朝の通勤時間帯に見られるように、お昼休憩で見られるように、帰りの電車の中で見られるように」

そして、新商品も開発していた。

大塚さん:
「今、試作中の冷凍の『カフェオレ大福』で…濃いコーヒーに純生の生クリームと一緒に食べると、口の中でカフェオレのような味がする」

初めて、生クリームを使った商品に挑戦したという。

大塚さん:
「本当は作りたくないんですけど、時代の流れなので…。正直、抵抗ありますけど、そんなこと言っていられないので。美味しければいいかなって」

老舗だからこそ守らなければならない伝統。老舗だからこそ取り入れなければならない新しい流れ…。

常連の女性客:
「明日4つ、4人分持って行きたいものがあるんだけど」

大塚さん:
「生菓子?4人分?」

常連の女性客:
「明日、持って行けるものがいいんだけど」

大塚さん:
「ぽてとは?」

常連の女性客:
「そしたらそうしようかな」

常連客からの期待に応えるためにも、守り続けたい…。

常連客の女性:
「しょっちゅうここに買いに来ます。何があっても、和菓子はここでお願いするので、残ってほしいとは思いますよね」

大塚さん:
「3代目がおるから頑張れるかなっていうのが…。息子が今、和菓子の勉強しに行っていますので、土壌だけは作っとかなダメかなっていうのはあります。ちょっと心配ですよ、大丈夫かと。(息子が)自分で計画を立てて、『この商品を増やそう』『こういうヤツ(商品)はアカンからこのまま残して売り方を変えよう』とか言ってますんで…。世の中の流れがもう元には戻らないと思います。世の中の流れが変わっちゃっているので、まだまだ続けていかなきゃいけない。僕、これしかできないので、やれることは何でもやろうかなと思っています」

経営状態はギリギリ。それでも、これからに期待だ。