2022年の後半、大きくクローズアップされた「旧統一教会問題」。12月には、異例の早さで「被害者救済新法」が成立したが、これで全ての元信者が救われたわけではない。今、生まれたばかりの赤ちゃんを、教団側が他の信者へ「養子縁組」をしたことに法的な問題があるのではないかという指摘がされている。実際に「兄を養子に出された元2世信者」に話を聞いた。

■「養子縁組あっせん法」違反の可能性も…教団側は「信者同士の繋がりによるもの」

 宗教2世の養子縁組。生まれながらにして、本人の意思より教団の教義を優先し、親との決別を余儀なくされたのではないかという疑惑。これに政府も…。

加藤勝信厚生労働大臣(2022年11月22日):
「“養子縁組あっせん事業”にかかる旧統一教会への質問書について、本日、東京都と連名で質問書を発出いたします」

【画像で見る】養子に出された元信者「どうして私だったのか…」旧統一教会と養子縁組

こうした行為が、「養子縁組あっせん法」が施行された2018年以降、法違反の可能性もあると指摘されている。

教団のビデオには…。

<教団のビデオ> 
「天から子宝の恵みを受けた祝福家庭は、その恩恵を、子女を授からない祝福家庭にも子女を分かち合う使命と責任があります」

2022年8月に教団関係の出版社が発行した、信者向けの冊子でも、その一節で…。

「養子を授かる家庭、捧げる家庭、それぞれが『養子縁組申請書』を作成し、所属教会に提出します」
「家庭連合の会長の承認を頂けたら、所属教会の家庭部長に連絡が入ります」

と、教団側が組織的に「養子縁組」をしていたことを臭わせる記述もされている。

教団内で行われた養子縁組はこれまでに745人とされているが、教団側は法施行後の組織的なあっせんを否定し、あくまで信者間でのことだとしている。

ところが、教団関係の本には「養子縁組式」という儀式の説明がある。

<子供を捧げる家庭>
「きょう以降、天に捧げるという心情を持ち、子女に一切未練を持たないようにします」

<子供を授かる家庭>
「神の子女として預かり、育てていきます」

養子縁組は教団の“美しい伝統”とも。

■「自分は教団の教義の道具でしかない…」養子に出された教団2世たちの葛藤

 実際に養子本人と会った立憲民主党・山井和則(やまのい・かずのり)衆議院議員に話を聞いた。山井議員は、国会で旧統一教会の問題に取り組み、「実際に養子になった」という元信者らと面会を続けてきた。

山井議員:
「ある(養子に出された)方なんかは、20代になってから初めて『いや、あなた養子なんですよ』と親から言われたと。ショックで立ち直れなくなっちゃったっていうんですよね」

山井議員が面会した、養子に出されたという元2世信者の女性本人との対話の音声を、私たちは入手した。

養子に出された元信者の女性(音声):
「どうして私だったのか、どうして私じゃないとだめだったのか」

養子に出された元信者の女性(音声):
「結局、私ってなんのために生まれてきて、なんで生きてるんだろうって多分一生苦しみ続けるなって。結局、自分の存在意義がなくて困っている。本当に統一教会の教義でしかないなって…」

「自分は教団の教義の道具でしかない…」。別の、養子に出された元信者は…。

別の養子に出された元信者の女性(音声):
「私は生まれる前から、養子に出されることが決定していたそうです。宗教の上にある養子、というのが辛い思いを生んでいます」

山井議員:
「人間の存在の根幹にかかわる、人の命にかかわる問題なんですよね。教義のために子供を利用している、一歩間違うとモノ扱いしてるわけですよ。(教会が)『いや自分ら関係ないですよ』って言ってね、関係ないはずないじゃないですか。統一教会が言ってなかったらそんなことする人いませんよ、普通の家庭でね」

強まる「組織的あっせん」の疑い。

■“組織的あっせんはない”は「本当に許せない」 食い違う教会と元信者

天野ゆとりさん(仮名・30代):
「両親が私名義の借金を作っていて…」

元2世信者の天野ゆとりさん(仮名・30代)。

小学生のころ、信者である母親から、突然こう告げられた。

天野さん:
「『実はあなたにはお兄さんがいるんだよ』って」

天野さん:
「自分には会ったことのない兄がいて、生後すぐ、別の信者の家庭に養子に出された」

さらに…。

天野さん:
「母が妊娠中に教会に声をかけられて、妊婦さんの夫婦が複数部屋に呼ばれて、そこで『ここの子に恵まれない祝福家庭に誰か養子、子を差し出せる方』って。母はすごく葛藤して、でも最後には『今呼ばれたのは神様からの使命、そういうタイミングだったんだ』って自分で最後そこにおさめて…」

“組織的なあっせん”が「あった」ことを、母から直接聞いたと明かした。

記者:
「教会は組織的あっせんはないと言っていますが」

天野さん:
「それは本当に許せなくて。じゃあ、私の両親って妊娠中に急に勝手に養子縁組思いついて、勝手に葛藤したの?って。そんなことなくて。教会が声をかけてなければ、兄は絶対養子に出されていなかったし、養子に出されずに過ごしてれば、もしかしたら私は生まれてないかもしれないし」

記者:
「教会が養子を推奨する真の目的は何だと思いますか?」

天野さん:
「もう信仰ないので言ってしまえば、信者が増えればいいのかなって」

厚生労働省が送った養子縁組に関する「質問書」に対し12月19日、教団側から返ってきた答えは、半分以上についてプライバシーなどを理由に「回答拒否」だった。

旧統一教会問題がクローズアップされるきっかけとなった、安倍元総理銃撃事件からおよそ半年。現場の横を、道行く人は立ち止まることなく通り過ぎていく。

男性(85):
「難しいですよね、宗教というのは心の問題やから。人から見て『あんなん!』ってゆうたかて、信心する人は『イワシの頭も信心から』って言いますもんね」

女性(19):
「でもやっぱり、ちゃんとすっきり解決して欲しいですけどね。あいまいなままだと、やっぱり釈然としないっていうか、すっきりしないっていうか…事件が終わった感じがしないです」

元2世信者・天野ゆとりさんにとって、2022年は。

天野さん:
「私にとって2022年は、本当にきっかけがきっかけなので、かなり苦しい気持ちがあるにはあるんですけど、(2世被害者に)スポットがあたった年。ただ、『宗教2世』っていう流行語で終わってしまわないように」

2022年12月23日放送