2022年の愛知県の新型コロナ感染者の推移をみると、2月にピークの第6波があり、8月の第7波で過去最多を記録した。年末は第8波の真っただ中だ。感染の終息が見えないコロナと戦ってきた最前線の病院で、今何が起きているのか改めて取材した。

■「断らない救急」の信念が崩れ去った1年 満床で新たな入院患者受け入れられず

 名古屋市中川区にある、名古屋掖済会(えきさいかい)病院の救命救急センター、通称「ER」。

【動画で見る】“病院の外”ではWithコロナ…『断らない救急』掲げた病院 第8波でも自転車操業

12月中旬、取材で訪れると…。

消防(電話):
「81歳男性なんですけど、居室内で倒れているところを発見された」

高齢男性の救急要請。しかし…。

医師:
「ごめんなさい。うちベッド満床で、入院適用ありそうな患者さんとれなくて…」

医師:
「これは厳しすぎる…」

救急車を断る事態に。

医師:
「救急車、他院へ!」

掖済会病院のERは、年間1万台、1日平均で約30台の救急車を受け入れ、県内屈指の実績を誇っている。

一刻を争う重症患者が運び込まれてくるERが、今はいつも慌ただしいフロアーが、静まり返っていた。

森岡慎也医師:
「満床で、実際に入院予約を含めると、マイナスというか、足りない状況で運用していて」

約600床ある病床は、ほぼ満床。新たな入院患者を受け入れることが、できなくなっていた。

森岡医師:
「僕らも“断らない”ことを信条に決めて、救急科として病院としてやってきていますので、本当に辛いというか、大変心苦しいし、罪悪感を感じてしまう部分もある」

「断らない救急」を掲げる掖済会病院。2022年2月、第6波のピークを迎えていた頃のERでは…。

萩原康友医師(今年2月取材時):
「入れる場所(ベッド)ないじゃん。どうすんのこれ…」

いつもの3倍近い救急車が連日押し寄せ、病床がパンクに。多くの救急車を断る事態となった。

夏の第7波の時も、同様だった。

医師:
「すみません…ちょっと厳しいですね、今…」

断ることは“年に1度あるかないか”だったER。

コロナによって、その信念が崩れ去った1年だ。

■「発熱患者の受診が少ない」…第8波から変わった患者の行動 院外での“Withコロナ”

 今回の第8波も救急車の受け入れは困難を極めている。ただ、これまでの波とは“違い”があった。

感染者数は愛知だけで1日1万人を超える日もあるが、その数の割に「発熱患者の受診が少ない」という。

院内の感染予防や、患者らからの問い合わせに対応する「感染対策室」。

ここで勤務する看護師も、第8波に入ってからの“変化”を感じていた。

感染対策室の看護師:
「患者さんたちも、行動が変わってきてるんじゃないかなと思っていて…。7波の時まではものすごく、患者からの『受診していいですか?』みたいな問い合わせの電話がすごくあって…」

外部から電話が殺到し、夜遅くまで残業する毎日だったが、今は電話が「ほぼなくなった」という。

感染対策室の看護師:
「8波は全然なくって。自分で検査したり抗原キット買ってやって、そこで結果みて、行動をとるというようなことがされているから、問い合わせの電話がないんじゃないかなと。一般の方が慣れてきて、病院の外では“Withコロナ”みたいな…」

■病床が空きしだい患者が入る自転車操業 ホッと息をつく瞬間もない「1年中繁忙期」

 しかし、コロナで入院しなくてはいけない患者は今も多く、24床あるコロナ病棟も満床が続いている。

重症患者が入る、集中治療室でも…。

集中治療室の澤田麻実師長:
「順調に回復する見込みはありそうな感じ。自宅(退院)の方向もいけるかもしれない」

看護師:
「ご本人さんはだいぶ安定しています」

看護師:
「はい、2東(一般病棟)が空き次第ね」

冬に増える血管系の患者に加え、コロナ病棟によってベッドの数が減っているため、満床だ。

この日、昼までに開くベッドは4つ。しかし、すでにベッドが空くのを待つ患者がいて、「自転車操業」の状態が続いていた。

澤田師長:
「(ここのベッドを)空けないと、救急車を止めてしまうことになるので。季節柄、気温とかにともなって繁忙期もあれば、落ち着く時期もあってっていうのが、今回、第8波がきてから、1年中繁忙期に近い感じで。本当にホッと息をつく瞬間がほとんどない感じになっている」

救急(電話):
「64歳の女性、意識消失疑い、既往は糖尿病」

意識を失った高齢女性。循環器系での疾患などが疑われた。

医師:
「現状お伝えすると、入院は恐らくできないんです」

消防(電話):
「あー、ちょっと今どこもかけてるんですけど、断られている状況でして…」

世間の動きとは全く違う、医療の現場。戦いは、変わらず続いていた。

森岡医師:
「他が全然だめだったら、またお願いしてもらおうか」

医師:
「すみません、お待たせしました。当院も入院病床がなくて、入院の可能性が高くて…。また他院あたっていただいて、すみません。ごめんなさい」

森岡医師:
「僕らは病床がないと結局何もできない。僕らは僕らのできる範囲でやるしか無い」

■日本でコロナ感染確認から3年…医療現場が抱える苦悩

 ただ、2022年になって“変わったこと”もある。愛知県は9月末から、感染者の発生届の提出について軽症者などは対象から外し、高齢者や基礎疾患のある患者などに限定した。

医師が届け出に入力する手間も減り、負担が軽減されるはずだったが…。

発熱で受診した20代の男性が、検査の結果「陽性」と判明。

看護師:
「これが大事な書類なんですけど、療養施設とか、配食サービスのことが書いてあるんですけど…。QRコードを読み取って、申請フォームから登録してください」

説明に時間を割いていた、数枚の紙…。

ERの中村裕子師長:
「説明する紙です。『ここから自分でやるんだよ』っていう説明は、私たち医療者がしなくてはいけないので…」

これは、名古屋市が軽症者向けに作成した案内で、陽性者の登録、配食サービスなどが書かれている。

軽症者に対するアプローチができない行政側が、医療機関に配布するよう要請していた。

看護師:
「お大事にしてくださいね」

案内を用意して説明が終わるまで、約15分。

中村師長:
「結局、この現場を離れなくてはいけないので、人手はいりますし、時間はかかるし。お若い方ならある程度、QRコードとか慣れているんですけど、高齢者で携帯持っていないとかとなると説明もプラスアルファでしなくてはいけないとか…。なかなか大変です」

日本で感染が確認されてから、3年。私たちのくらしは「Withコロナ」に向かっている。

森岡医師:
「現場でできることってあんまり…。先が見えないというか、断るのに慣れてしまってきているのが嫌だなって思いますけどね」

澤田師長:
「早く良くなっていただいて帰るというのは、コロナでもコロナじゃなくても一緒かな。コロナがこれでなくなったから何か変わるかといったら、何も変わらないかもしれないですね、やることは」

萩原医師:
「コロナはなくならないしな…。本当にみんなの中でただの風邪になって、コロナの検査なんてしなくていいってなったらいいですけどね。そうはならないでしょうね、きっとね。全然何も変わってない」