
三重県伊勢市に、100年以上続く老舗の昆布店があります。暖簾を守る4代目はこれからの世代を担う若い人に食べてほしいと、若手社員によるプロジェクトチームを結成しました。その若手チームが次々に新商品を開発し、人気になっています。
■かつては伊勢神宮にも奉納 明治から続く老舗昆布店

小気味良い音を立て削られていく「おぼろ昆布」。
【動画で見る】“だしドリンク”きっかけに…老舗昆布店の食べきりサイズ「よろこんぶシリーズ」好評 若手の新たな挑戦

これを看板商品にしているのが、明治時代から続く、三重県伊勢市の酒徳昆布(さかとくこんぶ)。かつて伊勢神宮にも奉納していた老舗の昆布専門店です。

常連客が多く、中には大量買いをする人もいました。
常連の女性客:
「初めて食べた時にすごく美味しくてクセになって、毎年来るようになっちゃったんですよ。この子(娘)が、普段イギリスに住んでいるので、ここのものを毎年(イギリスに)送っていたんです」
女性客の娘:
「こちらの昆布を使わせていただいています」
使用しているのは、肉厚で上品な甘みの北海道産の真昆布です。

この真昆布に、ちりめんや柚子を加えじっくり炊いた佃煮の「ゆず入り根昆布」(110グラム700円)や…。

A5ランクの松阪牛を肉厚の昆布で巻いた「松阪牛昆布巻」(1本1900円)など…。

店頭には、真昆布を加工した様々な商品が並んでいます。
■1番人気は「おぼろ昆布」 味の決め手は“秘伝の酢”

創業からの味を引き継ぐのは、四代目の里村悟(さとむら・さとる)社長です。

店の1番人気が、明治の創業から伊勢の地で作り続けてきたおぼろ昆布の「伊勢おぼろ」です。

味を決めるのは“漬け前”と呼ばれる重要な工程。ずっと受け継いできた秘伝の酢が使われています。

里村悟社長:
「これは明治から継ぎ足し継ぎ足しで、うち独特の味付けです。少し甘口ですね。昆布のうまみが長年熟成してこの味を出しているので、すぐにはこれできませんので、大切なものです」
少し甘い味にするのが伊勢おぼろの特徴です。この秘伝の酢に昆布を漬けた後、1日寝かせて味を染みこませます。

酢がしっかりしみ込んだら、削りの作業。

職人が1枚ずつ丁寧に専用の包丁で削っていきます。この手作業も、創業から頑なに守り続けてきた伝統です。

削る場所によって味や食感が変わるというおぼろ昆布は、一番外側は「上(じょう)さらえ」と言って、酢の味が強く、歯ごたえのある食感を楽しむことができます。

「上さらえおぼろ」(70グラム1000円)。
芯に近い部分は「太白(たいはく)おぼろ」と呼ばれ、柔らかく酢の味もまろやかで、上品な味を醸し出すといいます。

「太白おぼろ」(70グラム1600円)。
おぼろ昆布の一番美味しい食べ方を、里村社長に聞きました。
里村社長:
「本当は一番美味しいのは、そのまま召し上がってもらうのが美味しいんですけど、今はおにぎりに巻いてもらったりできます」
海苔の代わりにご飯に巻いて、おにぎりにして食べるのを薦めてくれました。

コンブのうま味とあまい酢の味が、ご飯と相性バツグンだといいます。
■社長「若い人に食べてほしい」…若手によるプロジェクトチーム結成し「昆布のハードル下げる」

老舗の昆布店で重要な手削りの工程を任されているのが、31歳の2人の職人です。高校卒業後、先代に弟子入りした、職人歴12年の杉山成紀(すぎやま・しげき 31)さんと…。

その杉山さんに学んでいる4年目の大倉千佳(おおくら・ちか 31)さんです。

大倉さん:
「力があったらうまく削れるかということでもないし、角度とかそういうものがいろいろ合ってくると削れるのかなと思います」
杉山さん:
「最初はできないですけど、3年ぐらいたてば、薄さはミクロンぐらいに(削れる)」
削り方によって、食感が変わるといいます。
若手は職人だけではありません。販売担当の嘉戸睦(かど・むつみ 31)さんも、2人と同じ31歳です。

里村社長は、若い人を積極的に登用していました。
里村社長:
「和食の中でも原点である昆布を、これからの世代を担う若い方々になんとか召し上がってもらいたい」
次の世代に昆布の良さを伝えていくためには、里村社長は、若い人たちの自由なアイデアが必要と考えていました。そのため、2021年に若手社員だけで新商品開発のプロジェクトチームも結成しました。

嘉戸睦さん:
「うちの店だけじゃなくて、昆布のハードルを下げる、入口をもっとわかりやすくする。職人が削らないとできないものというのを知らない人が大半なので、こうやって作られていますよって知ってもらうきっかけになれたらいいかな」
創業以来続く「手削り」の技を体験できるイベントや…。

実際にだしを取る「だし教室」を開催。

若い人たちに昆布の魅力を知ってもらいました。
■食べ歩き人気エリアで若者に「だしドリンク」でPR

若い人が多く訪れる伊勢神宮参道のおかげ横丁にある店では、これまでやっていなかった方法で昆布のピーアールを始めました。

店頭で昆布を入れた鍋を火にかけ、「だし」をスープのように“飲み物”として販売しています。

嘉戸さん:
「なかなか自宅で、だし昆布からだしをとる人が少ないと思うので。一回飲んでもらって『あっ!おいしい』となって、『じゃあ、お家でぜひとってください』というきっかけづくりなればというので」
昆布だしにカツオだしを加え、そこに自慢のおぼろ昆布を入れた、その名も「黄金だし」(一杯200円)です。

この「だしのドリンク」が、若い人たちに人気だといいます。
男性客:
「さっぱりしているけど、しっかり昆布の味はあります。料理するんですけど、家で。あまり昆布からだしをとったりとかは、手間だからしないですね。こういう形で売っている所はないじゃないですか。だから初めてです」
女性客:
「いいです、美味しい。こういうスープとしていただいたことは普段ないです。おぼろ昆布が入っているので、昆布の味がすごくしました」
塩昆布、とろろ昆布、おぼろ昆布をご飯にのせ、「黄金だし」をかけた「だし茶漬け」(500円)も好評です。

男性客:
「だしが効いているし、入っている昆布もすごく美味しいです」
■老舗が生き残るために…社長「時代と共に変わるべきものある」

店頭で昆布の美味しさに気づいてもらい、今度は買いやすい商品も開発しました。2022年11月に完成し、販売を始めたのが、“よろこんぶシリーズ”です。

嘉戸さん:
「全体的に小ぶりな量になっていますね。あまり大きいと食べきれるかなという不安があるんですけど、どれも少しずつの量にして、一律400円にして、ちょっと買ってみようというのに適した大きさにしています」
お土産に最適な「参拝昆布(15g 400円)」や…。

食べ歩きもできる「酢昆布 元株(40g 400円)」など、全6種類をラインナップしています。

嘉戸さんのオススメは「万能ふりかけ」(30g 400円)です。
嘉戸さん:
「だしを取ったあとのだし殻になる昆布やカツオ節を、捨てずにふりかけにして食べてしまおうっていう」

ほんのり甘酸っぱい味がやみつきになると、評判は上々だといいます。
女性客:
「このぐらいの量の方が、お試しじゃないですけど食べてみようかなって思うかな。お土産とかであげたりとかするのにもいいですよね、このぐらいの大きさだったら」
食べきりサイズにしたことが功を奏していました。

嘉戸さん:
「本当にハードルを下げる。手に取ってもらいたいなぁ、せっかくここに来て商品と出会っているので、私たちから予想外のというか、お客さんが思いつかないところの提案はしたりしますね」
嘉戸さんたちは、昆布を使った新たな料理の提案もしています。
「黒とろろ」(18g 400円)は、サラダのトッピングにしても使うことができます。

塩昆布を少し加えれば、塩味と酢でドレッシングなしでも美味しいといいます。

もう一品、「チーズのおぼろ昆布巻き」は、ワインにも合うおつまみになるといいます。

男性客:
「あっ、おいしいです!」
女性客:
「初めての組み合わせ、めっちゃありです」
里村社長は伝統を守りながら、若手の斬新な発想をどんどん取り入れることが、昆布に限らず、老舗が生き残るために必要なことだと考えています。
里村社長:
「当然、変えてはいけないものは根幹としてあると思いますよ。でも、やっぱり時代と共に変わるべきものはある。それが逆に、伝統を守るということだと思います」
2023年1月4日放送