愛知県岩倉市のNPO法人に勤める女性が、地元をPRするため、名産の名古屋コーチンの“鶏舎の香り”がする文房具の商品化に挑んでいます。ユニークなアイデアは実現できるのでしょうか。

■「ニーズないよね」…コーチン愛あふれる女性が挑む「鶏舎の香りの商品化」

 名古屋コーチンの鶏舎の香りがする文房具の商品化に挑んでいるのは、いわくら観光振興会の木村さや香(36)さんです。

【動画で見る】“誰も嗅ぎたくない”と上司却下も…名古屋コーチンの『鶏舎の香り』を商品化したい 担当者の熱意は届くのか

木村さや香さん:
「私、今日気合入りすぎて…Tシャツを着てきたんですけど」

名古屋コーチンをプリントしたTシャツを自前で作るほど深い“コーチン愛” の持ち主で、2年前の2021年に鶏舎の香りの活用を思い立ちました。

木村さん:
「岩倉市が(2021年に)市制50周年を迎えて、その事業で岩倉の名産品、お土産品を募集する事業があったんですが『鶏小屋の香りじゃないか?』と思ったんですよ。『田舎の香り』みたいな、『思い出す』みたいな」

岩倉市といえば五条川の桜が有名ですが、名古屋コーチンも市内に人工孵化場があり、特産の1つに挙げられます。

岩倉を象徴する“ふるさとの香り”ともいえる鶏舎の香りですが、アイデアに対する周りの反応は否定的だったといいます。

木村さん:
「上司や名産品の担当者、扱っている店とかいろんなところに話を聞きに行ったんですね。ケチョンケチョンに言われて…。『考え直したらどうですか?』と言われて」

木村さんの案を却下した上司に理由を聞きました。

商工農政課の真野友貴さん:
「『誰も嗅ぎたくないよね』という…。『ニーズがないよね』というところですね。普通に考えて、それをお金を出して買う人がね」

■実際に嗅ぐとなかなかのインパクト 養鶏業者も「難しい質問」

 鶏舎はどんなにおいがするのか、木村さんと岩倉市名古屋コーチン振興組合長の関戸久司さんの養鶏場を訪ね、嗅がせてもらいました。

木村さん:
「若干、香ばしいみたいな…」

木村さんは「若干香ばしい」と表現しましたが、おが屑や籾殻など、鶏の生活感たっぷりのにおいです。

この鶏舎のにおいがする商品を何か作ることができるのでしょうか。

岩倉市名古屋コーチン振興組合長の関戸久司さん:
「難しい質問だね。だってにおいがにおいだけに、商品はちょっと浮かばないね」

物心ついたころから鶏舎の香りを嗅いで育ってきたという関戸さんも、具体的な案は思い浮かばないといいます。

■「粉ジュース」「意味がわからない」…議論の末「鶏舎の香り消しゴム」目指すも協力者は?

 観光振興会のメンバーで、鶏舎の香りを生かした商品について改めて検討しました。

いわくら観光振興会の松平彩子さん:
「お土産として渡しやすいのが『空気そのもの』が、パンチも効いているし、思い出にも残る」

木村さん:
「食べ物で、粉ジュース。香りが飲めるって新しくないですか?」

松平さん:
「ちょっと待ってください」

真野さん:
「ここから、ちょっといかんな」

松平さん:
「言っている意味がわからない」

イメージを膨らませるために、木村さんがビニール袋に入れて持ち帰った鶏舎の香りをメンバーで嗅いで確認します。

松平さん:
「独特の感じがしますよ」

真野さん:
「こんな感じか。あまりにも変なにおいで、『岩倉ちょっといかんわ』となるといかんので、そこのバランス。面白いに振り切ってもらわないと」

1時間話し合った結果、日常使いできるもので岩倉を思い出してもらおうと、消しゴムの商品化を目指すことに決まりました。

真野さん:
「学校で流行ってもらえるとね、最高じゃない。日常的に使うものがあると、岩倉のことをいつでも思い出してもらえるという観点はとてもいいと思うので、やはり文具で消しゴムとかがいいかなと」

木村さん:
「大前進。これから今の話をヒントに、思い当たる業者さんを調べながら話を聞いて、現実にできそうなものがあればいいなと」

早速、文具メーカーに打診を始めました。

木村さん:
「名古屋コーチンをテーマにした文具を作りたいなと思っていて、鶏小屋の香りの消しゴムを作りたいんですけど」

電話先の業者:
「鶏小屋の香り…売れるかどうかわからないですね」

木村さん:
「鶏舎の香りがする消しゴムを開発したく、そういったものを扱ってくれる会社を探していて…」

別の業者:
「香りはちょっと気になりますが…。担当の者から連絡するので」

すんなりと色よい返事をしてくれる会社はありません。

■5か月経っても協力企業が現れず…発想を変えて香りのプロのもとへ

 5か月経っても、協力してくれる企業は現れませんでした。10社ほどが話を聞いてくれましたが、“鶏舎の香り”を再現するのは困難と、どこからも断られたといいます。今度は発想を変えて、香りのプロの調香師にヒントをもらうことに。

訪れたのは、名古屋市中区でバラやプルメリアといった花の香りや「魔除けの香り」などユニークな香料まで、およそ60種類を扱う香水の専門店「調香師の店 MON PARFUM」です。

調香師の田代はなよさんは、世界各国の様々な香りを集めたイベント「におい展」で監修を務めた実績もあります。

田代さんに、鶏舎の香りがする消しゴムを作りたいと相談すると…。

調香師の田代はなよさん:
「私が象の糞のにおいを作った時に、象はふかし饅頭のにおいがしたんですね」

田代さんによると、動物系のにおいは食べ物の香りをヒントに作ることが多いといいます。

田代さん:
「フワッと出るポップコーンのようなにおいを生かせばいいんじゃないでしょうか」

名古屋コーチンはトウモロコシを飼料として食べています。アトリエでポップコーンのようなその香りを調合してもらいました。

田代さん:
「見当をつけていくという仕事が最初なんですね」

200種類以上ある香料の中から、長年にわたって培った知識と経験を基に素材を組み合わせて、鶏舎のにおいに近付けていきます。

木村さんの意見なども参考に、配合を微調整。

田代さん:
「基本的には“ふん臭”と言われるものを入れて。消しゴムの製造工程として、熱も加わるかわかりませんけど、そうなるとにおいが飛んじゃってなくなっちゃうので、全部飛ばないにおいだけで作っていく」

商品化するということは、売れなければなりません。また、消しゴムの製造工程で熱を加えた際ににおいが飛んでしまう点も考慮すると、すごくくさいにおいを作るのはリスクがあるといいます。

試行錯誤の結果、ポップコーンの香りや、ふん臭に近いといわれる合成香料など5種類を組み合わせて「鶏舎の香り」が完成しました。

■いよいよ老舗文具メーカーに直接売り込み 結果は

 この香りのサンプルを持って、大阪府豊中市へ。訪ねたのは、老舗文具メーカーの「SEED(シード)」です。

社内には、馴染み深いスタンダードな消しゴムをはじめ…。

たこ焼きの香りがするねりけしなども展示されていました。

木村さんは、これまでの経緯を説明し、協力を求めました。

SEED営業部商品開発課の別所直哉さん:
「地元のにおいってすごくいいですよね。たこ焼きとか大阪の『551 HORAI』とかの匂いを新大阪で嗅ぐと、『戻って来たな』と思うので」

木村さん:
「先日、調香師さんに相談して作ってもらったにおいで、鶏糞に近いような要素がある香り」

サンプルを嗅いでもらいました。

別所さん:
「そんななんか『うっ…』というにおいではないですよね。個人的には別にめちゃくちゃ変なにおいではないような気はします。再現できるのかなと」

常務取締役の藤井慎也さん:
「『こんなんが欲しいねん』というのを現実に言ってもらえれば。そうすれば、モノはできます」

SEEDでは「モノはできます」と言ってもらえましたが、まだ商品化には至っていません。

調合した鶏舎の香りは良いにおいになっていて、木村さんはもっと実際に近いにおいにしたいとの思いがありますが、売れ行きのことも考慮してまだ葛藤しているということです。

2023年4月11日放送