幼い子供同士の間で「性被害」が起きている。被害者も加害者も「性」への認識がない幼児同士で起きてしまう性被害の実態と、幼い子供に向けた性教育の現場を取材した。

■理解できない幼児同士の性被害 女児に現れた「突然の変化」

 愛知県内に住む鈴木さん夫婦(仮名)は、3年前の2020年、認定こども園に通っていた当時4歳の次女が、同じ園に通う男の子から性被害を受けたという。

鈴木さん(仮名)妻:
「本当にショックで、目の前が真っ暗というか」

鈴木さん(仮名)夫:
そういう行為が子供たちの中で起きるっていうのは、正直信じられない」

【動画で見る】4歳娘「パンツに手入れられた…」幼い子供の間で起きる『性被害』の実態 被害者も加害者も性への認識なく

鈴木さん(仮名)妻:
「バスで帰ってきてものすごく落ち込んでいて、どうしたのって聞いたら『先生に怒られた』って。男の子にお尻を触られて、『やめて』って言って押したら、そこに通りかかった先生に『何やってるの』って怒られて」

娘の様子がただ事ではないと感じた鈴木さんは、細かく話を聞いた。

先生がいない時間に、男の子にパンツの中に手を入れられお尻を触られたり、用を足している最中にトイレのドアを開けられたりしたと打ち明けた。少なくとも半年間にわたって、ひとつ年上の男の子3人からこうした被害にあったという。

鈴木さん(仮名)妻:
「性的な被害を話すときに、泣いているとか、自分がひどい目に遭ったんだよというような話し方ではなくて、普通にある出来事のように話していて。ショックを受けていたのは私の方で、娘は普通に淡々とですね」

“性被害”に遭ったことを理解していなかったという4歳の娘だったが、その日の夜から“変化”が現れた。

【鈴木さん(仮名)妻のノート】
「12月10日、夜眠らない」
「『幼稚園に行かない』『先生こわい』と話す」
「12月17日、えーんえーんと赤ちゃんの様に泣く」

突然おもらしをして自らオムツを履くようになったり、人混みや男性を怖がるようになったという。

鈴木さん(仮名)妻:
「園で作ったものを、あとでぐしゃぐしゃに塗りつぶしてしまったりとか、色がなかったり、泣いている絵を描いたりとか」

カラフルな色合いが好きだった娘の絵は真っ黒になり、顔を黒く塗りつぶすこともあった。

そして半年後、娘は円形脱毛症を発症した。

診察を担当した精神科の医師に、「触られたとき、おしっこが出そうになった」などと話した娘。医師は「経験しないと話せない具体性がある」として、性被害が原因の「急性ストレス反応」と診断した。

鈴木さんが見せてくれた、娘の「5歳」の時の写真。

ベビーカーに乗り、シェードを下ろさないと外出することができない状態にまでなっていた。

■園は「明確な証言ない」と主張…子供は認識できない被害実態

 鈴木さんはこども園に相談し、園は名前の挙がった男の子などに聞き取りをしたというが…。

鈴木さん(仮名)夫:
「(男の子たちが)完全に事実を認めているわけではないので、『(性被害は)なかったと思います』というようなことを言われました。私の娘には直接聞き取りなど確認をしていないうえで、私の娘の発言は幼稚園の方から『懐疑的』という言葉を使われて、疑わしくて信じがたいというようなことを」

「あったかなかったかわからない」としたうえで、娘の発言がウソかのように指摘されたという。

こども園側は取材に対し「園児や保育士、バスの運転手など複数人に聞き取りをしたものの、被害を示す明確な証言はない」と主張した。

保育士の資格を持つ寺町東子(てらまち・とうこ)弁護士は、被害者と加害者の双方が性被害への認識がないことが、問題のひとつだと指摘する。

東京きぼう法律事務所の寺町東子弁護士:
「加害する子も被害に遭う子も、その行為の性的な意味ということを全然認識していないわけですよね。何があったのかということを子供自身が正確に認識できない、把握できないというところがひとつの難しさ」

■自治体が進める幼児への“性教育” 立案者「先生や保護者に知ってもらう事で効果」

 幼い子供同士の性被害はどうすれば防ぐことができるのか。その課題への取り組みが、岐阜県で進められていた。

可児市の「めぐみ保育園」で、年中と年長の子供たちに向けて行われていたのは「性教育」だ。講義をしていたのは、市の職員で臨床心理士の鬼頭拡美さん。この取り組みの立案者でもある。

鬼頭拡美さん:
「ここは人に見せない、触らせない、自分だけの大切な場所、だったね」

この園児を対象にした「性教育」は「いのちのふれ愛教育」と呼んでいる。

鬼頭さん:
「見せない、触らせない場所ってどこだっけ?」

女児:
「お尻とおまたとおちんちん!」

鬼頭さん:
「すごーい!あと、まだあったよね」

子供たち:
「お胸!」

鬼頭さん:
「お胸、おっぱい!今、身体の部分でさ、水着で隠れるよね、大事な場所。お口も含めてなんだけど、なんて言うんだった?」

子供たち:
「プライベートゾーン!」

鬼頭さん:
「当たり!」

幼い子供にもわかるように、水着で隠れる「水着ゾーン」を、人に触らせたり見せたりしないようと教えている。

鬼頭さん:
「ちょっとこの子たち裸なんだけど、隠しに来てくれる人いますか?」

園児たちは、協力して裸の子供たちの絵に服を着せた。

鬼頭さん:
「みんなこれでお洋服きて、大事なところ隠れたね。自分にとって大事ということは、お友達にとってもすごく大事。だから、友達が服を着替えてるときにジロジロ見てもいい?」

子供たち:
「ダメ!」

日本ではまだ馴染みのない「幼児に向けた性教育」だが、可児市では5年前の2018年から始まり、市の職員が市内すべての幼稚園や保育園を回っていて、着実に変化が生まれているという。

鬼頭さん:
「この5年間で変わって来たなと思うのは、家で性教育をやってきてくださっているんだなって。私たちがしゃべる前に子供たちからリアクションがあるので、園の先生とか保護者の人に知ってもらう事が性教育に効果がある。毎日の積み重ねの方が絶対子供には浸透する」

小1の娘と年中の息子を持つ父親:
「大事な場所だよっていうのを、本人の口から教えてくれたりとかっていうのもあるので、どこまでわかっているのかはわかりませんけど、本人も認識して意識できているのはすごく感心した」

年中の息子を持つ母親:
「小さいころからそういうことを学んでおくと、実際に小中学校で学ぶときも抵抗なく当たり前のこととして捉えられるのでいいかなと思います」

小1、年中、0歳の息子を持つ母親:
「ちょうどお兄ちゃんが性教育を受けたときに、この子(0歳児)を妊娠中だったので、ごまかさずにどこから生まれるんだよっていうのはしっかり伝えて、そしたらお兄ちゃんは『ママ大変だね』って。そうやってごまかさないで言ったことで、わかってくれたこともあったと思います」

子供だけではなく、保護者や保育士など大人の意識にも変化が表れていた。

寺町弁護士:
「大人の方が、それくらい大したことないだろうっていう感覚を持っていると思うんですね。子供に対してきちんと性教育をしていくのとあわせて、そういうことがありうるという前提で、きちんと子供の様子を見ていく必要がある」

■「先生はまず受け止めて」…通院続く娘のショックの一因は「信じてもらえなかったこと」

 鈴木さん(仮名)の娘が、こども園で男の子から性被害を受けてから3年が経った。娘は今も「性被害」について理解できていないという。精神科への通院が続いていて、学校に毎日通うことは難しく、父親は「みんなと一緒に学校に通学するということは、週に1回できたらいいくらい」と話す。

鈴木さん(仮名)妻:
「今回、娘がショックを受けた要因のひとつが、お尻を触られたというのを担任の先生に話をして、助けてもらいたかったんですけど信じてもらえなったこと。幼稚園とか小学校の先生方が子供から性被害を打ち明けられたときに、まずどちらがウソをついているとかっていう話ではなく、受け止めてもらうことが大切なのかなって思っています」

■国も始めた性についての教育 専門家「早すぎることはない」

 国は2023年度から、全国の学校で「生命(いのち)の安全教育」という性についての教育を始めている。「性教育」という言葉は使われていないが、内容はこれまで「性教育」とされてきたものが多く含まれている。対象は幼稚園や保育園から高校・大学で、発達の段階に合わせて性被害や性暴力を防ぐための教育を実施するとしている。

ただ、本格的な導入から5カ月が経つが、実態は県や市町村、学校ごとに大きな差があり、始まっていないところも多くあるようだ。

あまり早くから性教育を始めると「変に興味を持ってしまうのではないか」と心配になってしまう人もいるのかもしれない。

しかし、産婦人科医で性教育に関する授業や講演を多く行う高橋幸子さんは「性教育を受けることに早すぎることはない」としている。ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」によると、海外の研究などでも「性について学べば学ぶほど、性行動に慎重になる、リスクの低い行動をとる」という結果が出ているという。

現在は小さいころからインターネットに触れる機会が多く、誤った知識を得てしまう子供が増えているため、その前に集団教育として幼稚園や学校などで正しい知識を伝えることが大切という考えだ。

性教育の絵本が年代別に出版されていて、気軽に始めることができる方法も広がり始めている。

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2023年8月24日放送