高齢ドライバーによる死亡事故の割合が、年々高まっています。高齢になった親や祖父母に運転免許の返納をしてほしい場合、どのように説得すればうまくいくのか、専門家に聞きました。

■減少する免許の返納…当事者や家族も悩む

「トヨタモビリティ基金」のHPによると、2011年に10.3%だった75歳以上のドライバーが当事者の死亡事故の割合は増加傾向を続け、2021年には15.1%と過去最高になりました。

【動画で見る】プライド傷つけると逆効果も…高齢ドライバーの免許返納 家族による説得で「有効な言葉」とは 専門家が解説

名古屋市緑区で2023年7月、6歳の女の子と一緒にいた犬をはねたまま逃走したなどとして書類送検された91歳の男性は、被害者への謝罪の場で、免許を返納すると約束していました。

警察庁によると、免許の自主返納の件数は、東京都の池袋で31歳の女性と3歳の娘が亡くなった暴走事故があった2019年が、60万1022人でしたが、2022年は44万8476人で、3年連続で減少しています。

免許の自主返納についてどう考えているのか、まずは免許を持っている高齢ドライバーに聞きました。

70代女性:
「私はもう返そうと思っていますよ。夜が心配、もう乗らないようにしています。テレビで高齢者の事故を頻繁に見るので、ああなる前に返したい」

78歳女性:
「返納しました。やっぱり聴力が弱くなったということです。事故のことを考えたらこの方(返納して)が良かったのかなと思う」

75歳女性:
「息子にはそろそろ返納したらと言われるんですけど、まだ自分ではそこまで衰えていないかなと。お願いだからあと少し乗りたい。お医者さんが遠いからバスとか電車を利用してまでは…」

家族の免許返納に直面した人にも聞きました。

30代女性:
「(70代父親について)返してほしいかなと思います。(父親の運転は)ふらつくとかブレーキが遅いかなとか。(父は)他人事というか、そんなに真剣にはあまり考えていない感じですね」

また、田舎の祖父を心配する孫は…。

20代女性:
「(80代祖父は)農家をやっていて重い荷物を運ぶ時にトラックとか利用していて、ブレーキをかけるのも足の力が弱くなってきているからちょっと不安かな」

この女性は祖父に返納を持ちかけたといいますが、簡単にはいかないようです。

20代女性:
「(言い争いが)ちょっとだけあって、どうやって言葉をかけたらおじいちゃん返納してくれるのかなっていうのが家族間の問題になっています」


■自主返納はどう進めればいいのか…専門家が指摘する3つのポイント

 免許の自主返納に家族はどう向きあえばよいのか、高齢ドライバーの問題を研究している九州大学大学院の志堂寺和則(しどうじ・かずのり)教授に聞きました。

志堂寺教授は「1、“いつ”考えるべきか」「2、返納への“手順”」「3、“どう”切り出すか」の3つのポイントをあげています。

「“いつ”考えるべきか」についてのポイントは「運転がきちんとできているかを隣で見て確認する」こととしています。

実際に助手席に乗って、昔の運転と比べた時に「急発進・急ブレーキ・急ハンドルが多い」「ウインカーの出し忘れやタイミングが遅い」「駐車時に切り返しが増えたり、スペースをはみ出す」といった変化が多くみられたときは、返納を考え始めた方がよいということです。

ただ、すぐに「自主返納を求める」のは本人の反発を招きやすいため、志堂寺教授は行うべき手順や準備が必要で、老化に伴う運動機能低下を補う「補償運転」など、“段階を踏んで徐々にやめていくこと”が大切だとしています。

志堂寺教授によりますと“補償運転”とは、雨の日や夜、長距離、行ったことがないような場所での運転をしないなど、危険性が高くなる運転を限定でやめる考え方です。また、数万円程度でも設置できる後付けの安全装置も勧めています。

それでもいつかは、もう危険だと感じる時がきます。3つめのポイント、自主返納を「“どう”切り出すのか」について志堂寺教授は、「ポツッと自分も歳をとってきたというようなことを言いながら、高齢者の祖父母に寄り添うような心情的な共感を醸成する」ことを挙げています。

誰が説得するのかも大切な要素で、志堂寺教授は「多くの場合は子供だと思うが、身内だけでなく病院の主治医の先生、かかりつけのお医者さんの話は聞く人も多いので、そこから話をしてもらう」などと話しています。その他にも、例えば頭があがらない親戚に依頼することも一つの方法としています。

また移動手段など、免許を返納した後に「どう生活するか」について説得材料を用意し、みんなで考えるのが大切としています。

■説得に「有効な言葉」と「NG行為」

 説得するにあたって志堂寺教授は「有効な言葉」もあれば、逆に「NG行為」もあるといいます。

有効な言葉は「自分も親の年になったらやめる」と、説得する側が先に返納を宣言することを挙げています。

逆にNG行為は、本人のプライドを傷つけることです。例えば「高齢者の事故がとにかく増えているから免許を返納しよう」と、運転の危険性をことさら大きく伝えると「俺を一緒にするな」と、逆効果になることがあるということです。

説得する際にはまずは、良い関係を築くのが前提で、その上で一家を支えてきた親を立てて進めることが大切としています。

ただ自主返納で気落ちしてしまい、全く外出しなくなるというケースも多いということで、外出の機会を減らさないためにどうすればよいかもあわせて考えることが必要です。

2023年9月22日放送