愛知県愛西市で2022年11月、新型コロナワクチンの接種後に42歳の女性が死亡した。調査委員会は「アナフィラキシーの可能性を否定できない」と結論付けたが、女性の夫の悲しみと無念は変わらないままだ。

■妻を失った男性が市に情報公開請求 資料はほとんど黒塗り
 愛知県愛西市の飯岡英治さん(45)は10カ月前、最愛の妻を亡くした。

【動画で見る】血の泡を吹くなどし心肺停止に…最愛の妻がコロナワクチン接種後に死亡 調査報告後も夫の心に残るわだかまり

飯岡英治さん:
「ここが彼女のベッドで、いなくなった当時から触っていない。触れない…」

飯岡さん:
「お誕生日だね、ムービー」

飯岡さん:
「家中に妻のものがあふれているから、それ見たら泣けるし…。一日中しゃべらないこともあるし…」

2022年11月5日、飯岡さんの妻・綾乃さん(当時42歳)は、市の集団接種会場で新型コロナワクチンを接種した。しかし…。

市などによると、BA5に対応したファイザー社製のワクチンを接種した5分後、容体が急変した。綾乃さんは息苦しさを訴えたが、アドレナリンなどの治療薬は投与されず、血の泡を吹くなどして心肺停止し、搬送先の病院で「急性心不全」での死亡が確認された。

飯岡さん(2022年11月):
「この薬(治療薬)を打ってもいない。ちゃんとした処置もしていない。見殺しにした」

なぜ妻は亡くなったのか、命を救えたのではないか。真実を知りたいと、飯岡さんは市に情報公開を求めたが、開示された資料はほとんどが黒塗りだった。

綾乃さんが亡くなって1カ月後の2022年12月、飯岡さんの自宅を市の職員が訪ねてきた。

飯岡さん(2022年12月):
「(市が開示した資料は)黒塗り出してきたぜ?」

愛西市の担当者:
「委員会では、きちっと資料として…」

飯岡さん(2022年12月):
「それは僕ももらえるの?その資料」

愛西市の担当者:
「…その資料は、あの…」

飯岡さん(2022年12月):
「それはもらえんとおかしいでしょ。何を隠すことがあるの?」

愛西市の担当者:
「ですからこちらの医療事故調査委員会で…」

市の職員は、医師や弁護士らで構成する「医療事故調査委員会」を立ち上げる方針を報告した。

■第1回会合から9カ月…調査委は「救命できた可能性否定できない」
 「医療事故調査委員会」は2022年12月に、第一回が開かれた。

当時の医師や看護師へのヒアリングを進め、綾乃さんへの対応や会場の体制に問題がなかったか、検証が始まった。

飯岡さん(2022年12月):
「妻がどうして亡くなったかを知りたいですね。そして責任の所在ですね。それを、出てくるのを、しっかり待ちたいと思います」

第1回から約9カ月が経った2023年9月26日、医療事故調査委員会が記者会見した。

70ページ以上にわたる調査報告書では、ワクチン接種と死亡との因果関係を指摘し、当日の経緯についてや、早期のアドレナリン投与で綾乃さんの命が救えた可能性があったと結論付けた。

2022年11月5日の午後、自ら車を運転し会場を訪れた綾乃さんは、「体調は変わりないか」という事前の問診に「はい」と答えた。

午後2時18分、ワクチン接種。その7分後、経過観察室で綾乃さんはせき込み始めた。

看護師:
「大丈夫ですか?」

綾乃さん:
「息がしにくい」

看護師:
「喘息があるのですか?」

綾乃さん:
「精神的に過呼吸が時々ある」

看護師:
「いつからですか?注射を打った後ですか?」

綾乃さん:
「打つ前から」

その後、間もなく接種ブースから医師が到着したが、明らかな異常は確認されず「打つ前から体調が悪かったようだ」と看護師から伝えられた医師は「アナフィラキシー以外の可能性が高い」と判断し、アドレナリンの投与ではなく、血圧などのバイタルチェックを優先していた。

また「接種前から体調が悪かった」はずの綾乃さんが「問診をクリアしていた」という矛盾に、医師が気付いていなかったことも指摘している。

アナフィラキシーについては起きていた可能性が高いとして、アドレナリンを打たなかった医師の判断は「標準的ではなかった」とし、早期にアドレナリンを投与していれば、「命を救えた可能性は否定できない」と評価した。

医療事故調査委員会の長尾能雅委員長:
「早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、救命できた可能性を否定できない」

アナフィラキシーの可能性を考えた1人の看護師が、アドレナリンを準備していたが、そのことを医師に共有していなかったことも明らかになった。

調査委員会はアナフィラキシーが否定できない場合は、直ちにアドレナリン注射を行う必要性についても指摘している。

長尾能雅委員長:
「アナフィラキシーが発生していることを第一に想定し、直ちにアドレナリン筋肉内注射を行う必要があります」

また、体調不良者が出た際の医療スタッフ間での連携や意思決定のシミュレーションを強く推奨すると提言した。

飯岡さん(医療事故調査委員会の会見後):
「接種会場にいた人間の中には、アナフィラキシーを疑った人間がいたらしいですね。なのになぜ医師と看護師はそれに気づけなかったのかな。気付いてくれていたら、まだ生きているかもしれない。それがすごく悔しくて、辛くて、残念ですよね」

適切な対応をしていれば妻は助かったのではないか。報告書が出されても、飯岡さんの心にはわだかまりが残った。

■男性は市長に「あす説明に来てください」と訴えるも…
 医療事故調査委員会が調査結果を公表した日の夜、愛西市も日永貴章市長が記者会見し、会場には飯岡さんの姿もあった。

飯岡さん:
「(市長に対し)市長、飯岡です。いいですか、質問」

愛西市の日永貴章市長:
「はい」

飯岡さん:
「市長がいいって言っているので、質問しますよ。やっぱり僕は、市からの説明が欲しい。明日僕1日休みなんです。愛西市、僕の家に説明にきてください。あなたたち、いつも一方的に遺族に予定伝えて来ているので、来てくださいね。僕、明日1日休みなので待っていますので、絶対に来てください」

愛西市の日永市長:
「この場で明日行くということは、まだ明確に述べることはできません」

翌日、市長が飯岡さんの自宅を訪れることはなかった。

飯岡さん:
「市長自ら謝りに来てほしい、なのにそれも拒否されたわけです。本当に情けないなと思って…。もうちょっと人の気持ちのわかる人間がいてくれたら、こんなふうにならんだろうなとは思う」

飯岡さんが求める、誠意ある謝罪と説明は叶わなかった。飯岡さんは、綾乃さんの死を無駄にしないため、報告書の内容については広く役に立ててほしいと話している。

飯岡さん:
「安全に(ワクチンを)打てる環境っていうのは、再発防止の文章の中に絶対隠れているはずなので、それをみなさんで自分たちの接種会場でこれが足らなかったねというものを、前もって気付くのであれば、それはまたひとり誰かの命を救ったことになると思うので、そういうことで役に立ててほしいと思います」

【追記】
飯岡さんら遺族は2023年11月30日、アナフィラキシーの発症が予見できたのにアドレナリン投与などの対応を怠ったとして、市に約4500万円の損害賠償を求めて、提訴した。

2023年9月29日放送