名古屋市は2013年の東日本大震災で、岩手県の陸前高田(りくぜんたかた)市を、市を挙げて支援しました。今回の能登半島地震では、石川県七尾市を全面的に支援していますが、当時の経験を胸に被災者と向きあう職員の姿がありました。

■甚大被害の石川県七尾市に名古屋市が“全面バックアップ”

 2024年1月15日、雪の中を走る大型バスはおよそ5時間かけて、名古屋市職員60人を乗せて石川県七尾市に到着しました。

【動画で見る】東日本大震災後”の経験を胸に…能登半島地震で七尾市を全面支援する名古屋市 被災者と向き合う職員の想い

到着した職員は、一足早く現地入りしていた職員からの説明を受けます。

名古屋市の職員:
「避難所の状況というところでいいますと、徐々に落ち着き始めているというところです。七尾市の職員さんはやっぱりそんなに人数が多いわけではない中で、みなさんフル稼働でやっていただいております。疲れも出てきている。名古屋市が七尾市を全面的にバックアップしていく」

国が調整し、名古屋市は被災地の中でも七尾市を集中的に支援することに決まりました。

今回本格的な支援の第一弾として派遣された職員の任務が、避難者の生活支援です。

派遣された職員のうち4人が、田鶴浜(たつるはま)地区のコミュニティセンターに入りました。

市内では断水被害が続いていて、およそ150人がここで生活を送っています。

避難していた女性:
「地震の日は駐車場で1泊したんですけど、ここに入れてもらって。ちょっとパニックになっていて、何から手を着けていいかわからん」

避難していた男性:
「着の身着のまま来ています」

Q.自宅は
一緒にいた女性:
「ダメダメ。一斉に壊れてしもたわね」

男性:
「住めない状態やね」

不安を抱えた多くの避難者が暮らしていますが、避難所の運営にあたる七尾市の職員は1人です。名古屋市からの支援に、担当者はほっとした表情を見せます。

七尾市交流推進課の中村大輔さん:
「1月1日に地震が起きて、避難してきてそのまま仕事しとるみたいな感じで、避難しながら仕事しながら。名古屋市の職員には本当にありがたいと思っています、頑張ります」

避難所のすぐ近くにも、大きな被害を受けた地域があり、倒壊している建物の下敷きになっていた車もありました。

この地域ですし店を営んでいた避難者の男性は、店や自宅の片付け作業に追われていました。

すし店を経営する男性:
「ここは厨房で、倒れて後ろの冷蔵庫の扉も空いたままになっている。水は出ない。なので営業できないですよね。その前にまずここを何とかしないと」

震度6強を観測した七尾市では、住宅の被害は9152棟(1月23日時点)に上りますが、ほとんどが手つかずの状態で、復興への道のりは長くなりそうです。

■“東日本”で支援に行かなかった後悔が…七尾市で積極的に被災者に声をかける職員

 名古屋市が、大きな災害の被災地を支援するのは初めてではありません。

河村たかし名古屋市長(2011年4月):
「壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田(りくぜんたかた)市を、全面的に支援していくことを決定致しました」

2011年の東日本大震災では、津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市を、市を挙げて集中的に支援しました。

陸前高田市役所は、職員の約4分の1が犠牲になり、名古屋市は13年間でのべ1632人の職員を派遣して「まるごと支援」として全国的に注目されました。

今回、七尾市の支援で来た健康福祉局の高橋啓聡(ひろとし)さん(29)。

被災者の女性:
「名古屋から来とるの?大変だね」

健康福祉局の高橋啓聡さん:
「いえいえいえいえ。みなさんの方が大変ですし」

被災者の男性:
「お礼状を送りたいので、住所とお名前聞かせてください。本当に心優しくしてくれて」

高橋さん:
「なんで、そんな(笑)」

被災者の男性:
「(物を)運んでもらったんだよ。足が痛いもんで。嬉しかったんですよ」

高橋さんは、かつて陸前高田市の支援に参加できなかった後悔を胸にやってきました。

高橋さん:
「陸前高田市の復興支援の派遣職員の公募っていうんですかね。お話もらったんですけど、勇気が出なくて断念してしまったっていうのが数年前ですね。もうひたすら後悔があったので、皆さんとお話ししながらどんなところ困っているのかなとか、自分から声をかけにいくっていうことはしていきたいと思います」

その言葉通り、困った様子の被災者に声をかけていきました。

被災者の女性:
「ゴミ袋みたいな、おむつとかいれるようなやつ。匂いがあまりしない袋があったらと思ったんだけど」

高橋さん:
「ちょっと探す時間もらえれば見てきます」

倉庫を探しますが、在庫は見当たりませんでした。

高橋さん:
「おむつとか生理用品はいっぱい来ているんですけど、それをしまったりする袋がない。ごめんなさいしよう」

被災者の女性:
「わざわざ行ってもらってありがとう」

高橋さん:
「ハッとしましたよね、生理用品とか女性の方が困ったりとかお子さんが困ったりっていうのまでは想像がいきつくんですけど、その先がちょっと。困っているのに申し訳なかったですね」

■「気持ちわかんないだろ」東日本での支援を生かし被災者に寄り添う職員

 積極的に走り回る高橋さんとは、対称的な職員の姿もありました。名古屋市北区役所の職員、西尾建人(けんと)さん(45)は、2年にわたり、陸前高田市に入った経験がある、いわば被災地支援のベテランです。

避難者に話しかけることはあまりなく淡々と仕事をこなすように見えますが、ある苦い記憶がありました。

名古屋市北区役所の西尾建人さん:
「『名古屋から来たのにおれらの気持ちなんかわかんないだろ』って言われて。相手には相手の状況とか、見てきたものがあるのでそこはちょっともっといろいろ想像しながら、接すればいいのかなってその時思いました」

「名古屋から来た人に、気持ちはわからない」。陸前高田市に初めて派遣された時にかけられた言葉にショックを受けた西尾さんですが、その後はプライベートで毎年現地を訪れ、じっくりと市民との絆を深めていきました。

七尾市でも、当事者の気持ちにしっかりと寄り添いたいというのが西尾さんの思いです。

西尾さん:
「実際に被災された方に僕から話を聞くつもりはあまりなくて、向こうの方が話したい時に、踏み込むっていうことはしないですけど、なるべく接点持ってお話聞いたりとかして、少しでも心に残っていただければいいかなと思うので、お話していきたいなと思っています」

被災者の女性:
「よう名古屋市っておいでになっていますね。回っていただけたらみんな元気もらえるもんね。みんな感謝してると思いますよ」

被災者の男性:
「もうちょっと頑張ります。それしかないね」

高橋さんや西尾さんたちの思いは、七尾市民にも届いているようです。

名古屋市は陸前高田市の時のように、七尾市を長期間「まるごと支援」していく方針で、概ねおおむね1週間ごとに職員を交代し、1月23日時点で既に200人以上を派遣しています。

いま最も市民の期待が強いのが、「断水」の解消です。

七尾市によると3月までに復旧の見込みが立っているのは、市内の4割の世帯に留まるなど状況は深刻で、名古屋市上下水道局の職員も懸命に作業を続けています。

2024年1月23日放送