名古屋市中村区の「とんかつ八千代味清(やちよ・あじせい)」は、ミシュランガイドにも掲載されたことがある人気店です。20代の若き跡継ぎが、創業以来60年続くメニューに新たな魅力を加えたいと奮闘しています。

■ミシュラン掲載で人気に拍車…ヒレかつが名物のとんかつ店

 名古屋市中村区の地下鉄中村公園駅から歩いて15分のところにある「とんかつ八千代味清(やちよ・あじせい)」は60年続く老舗のとんかつ店です。

【動画で見る】2019年にミシュランガイド掲載…人気とんかつ店 20代若き跡継ぎの奮闘 60年続くメニューに新たな魅力を

人気店で、お昼時にはお客さんでいっぱいになります。

2019年、ミシュランガイドに掲載されたことで人気に拍車がかかりました。

初代からの味を守る看板商品のヒレかつは、厳選された国産豚に薄い衣が特徴です。

客:
「衣がめちゃめちゃ薄いです。サクサク感が増して」

別の客:
「おいしいです。2回目ですけどまた来たいです」

客:
「滋賀県からです。すごいおいしいって聞いて」

■伝統的に続く「作り置きはしない」

 お店は昭和37年、初代忠史(ただふみ)さんが創業し、昭和の終わりに2代目の満(みつる)さん(60)、令和になって3代目の旬(しゅん)さん(27)が継いでいます。

2代目の満さん:
「偶然ですけど僕の生まれた朝に、父親がこの店を開店したものですから。ウチの親父も忙しかったと思いますよ」

初代の時から伝統的に続けているのが「お客さんが来てから注文の品を作る」ことです。

満さん:
「パン粉一つでも注文をいただいてから付ける。普通のことですけどウチはそれを大事にしてやっています」

忙しくても作り置きをしないのが店のモットーで、衣を付けてすぐに165℃の油で6分揚げることで、お肉のジューシーさを閉じ込めます。

創業から続く「名代(なだい)ヒレかつ定食」(1850円)は、70gのヒレカツが3個乗った不動の1番人気です。※現在は1900円

客:
「めちゃサクサクで食べやすい」

■息子に継がせる気はなかった2代目…3代目は自ら進んで跡継ぐ

 お客さんが絶賛する、サクサクの衣にも初代からの教えがありました。

満さん:
「溶き卵に牛乳を入れて…。これが八千代のやり方で、昔からそのままでやっている。少し柔らかくふんわりする感覚と、(衣の)付きが滑らかになるんですよね、牛乳を入れることによって」

ヒレカツの衣を作る際、溶き卵に牛乳を加えるのが八千代流です。

さらに、パン粉も頻繁にこして、かたまりが出来ないようにしています。これが2つ目のモットーで、とにかく手間を惜しみません。

満さん:
「『お客様を裏切らない気持ちを持て』と、父親にはよく言われましたね。だんだん歳が上がって来て、染みますね、父親の言った言葉が」

初代から思いを受け継いだ2代目満さん。しかし、店を息子に継がせる気はなかったといいます。

満さん:
「時間も長いし、あまり休みも無いし。一般のお勤めの方が待遇がいいじゃないですか。だから嫌々やらせても気の毒だし」

満さんからは何も言われなかった息子の旬さんでしたが…。

3代目の旬さん:
「中学や高校の時に調べたりしたんですけど、普通の会社員になろうと思って。だけど、全然やりたい仕事がなかった。とんかつ屋さんになりたかった。僕が普通に就職をしたら、この店が無くなると思ったら、すごい寂しくて」

「店を守りたい」と自ら跡継ぎを名乗り出ました。店に入って5年目ですが、すでに仕込みから任されています。

旬さん:
「みそ汁の出汁を取ります」

鰹節で出汁を取り、隣町で醸造される豆味噌を入れます。これが第3のモットーで、初代の頃から変わらない赤だしづくりです。

とんかつの付け合わせに欠かせないキャベツの千切りはスライサーを使いますが、細さが均一にきれいな千切りができるよう、キャベツのカット面を動かしながらスライサーにかけるなど、旬さんなりの工夫をこらしていました。

切り終わったキャベツは、シャキシャキ感を保つために濡らした手ぬぐいをかけるなど、ここでもひと手間をかけています。

手作りマヨネーズを使ったポテトサラダも人気です。

旬さん:
「手間がかかった丁寧な仕事、そういう物の積み重ねで出来ているお店なので。お客さんもそういうのを求めて来ていると思うので、手を抜いちゃだめだと思う」

■“守る”だけでなく“攻め”も…3代目が続ける新商品開発

 伝統を守るだけでなく若さを生かした“攻めの姿勢”も旬さんは意識しています。

旬さん:
「和風オニオンソースという、醤油ベースのソースを提案しました」

もともとトンカツ用には、ソースと味噌だれがありましたが…。

ここに和風オニオンソースを新たに加えました。

このソースは、店のモットーその4「とにかく手作り」です。

醤油にお酒やみりんなどを加え、ミキサーでみじん切りにした玉ねぎと合わせます。

創業から60年以上経って登場した新しい味ですが、先代も「合格」を出しました。

満さん:
「最初はビックリしましたけど、試食したらおいしいし、これならいいぞと」

このころ、夏に向けた新メニューも考案していました。

旬さん:
「ハンバーグステーキはいつもデミグラスソースで作っているんですけど、今回は僕が作った和風オニオンソースでハンバーグを作っていきたいと思います」

創業当時から続くハンバーグステーキは代々、特製のデミグラスソースで仕上げてきました。

それを夏向けにさっぱりとした味にしようと試作を繰り返し、「和風おろしハンバーグ」を作りました。

正式なメニューに出来るか、父の満さんに試食してもらいました。

旬さん:
「和風おろしハンバーグです。ソースを自分でかけて食べて下さい」

満さん:
「今までのハンバーグとまったく正反対というか、和風のおろしでさっぱりしていいよね」

味は合格を出しましたが、心配事もありました。

満さん:
「忙しい時にやれるのかなっていうのがいつも心配になることで、どう思う?やれそう?」

旬さん:
「期間限定とか、夏限定とか」

メニューが増えることで、手間がかかるという懸念もありましたが、裏メニューとして販売して様子を見ることにしました。

旬さん:
「おじいちゃん、お父さんが守って来てくれた大切なお店で。お客さんも2代3代と来て下さって、みんなこの味を求めて来て下さる。そういう味を大切に守っていきたいと思っています」

2023年7月13日放送