ズバリ、仁美は“悪い女”、“嫌な女”なのでしょうか?
尚子さんたちに起こっている状況を面白がっているのだと思います。自分がメインになってしまうのも、責任を取るもの嫌だけれど、他人のことなら笑って見ていられるから。私はいまの仁美を、『他人と比べているうちは幸せになれないのに』と思っています。
そもそも仁美ってどんな人物だと思いますか?
他人に関心がないんじゃないでしょうか。それでいて、周りをよく観察しているから、相手に合わせられるんです。だから、人によって変化するキャラクターにしたいと思いました。台本を読んで、これは演じるのが難しいだろうな、と感じました。普通に演じてもおもしろくないのでどうしようか考えていたとき、アメリカの映画『ゴーン・ガール』を観たんです。ヒロインに仁美を演じる上でのヒントがいろいろあり、『これだ!』と思いました。
仁美を演じていて、大変なことはありますか?
声のトーンを普段より高めにしています。発言に真実味を無くしたくて。それにどこか歌うようにセリフを言っています。これはあくまで私の意見ですが、人に共感できなくて、他人事の人は声が高くて、『本当にそう思っているの?』と感じさせるときがあると思うんです。セリフ自体、“装飾”がものすごく多くて、なかなか頭に入ってこないんです。仁美ならではのセリフに気を取られることなく演じなければいけないので、それはまた大変な作業です。
仁美で印象的なセリフは?
それは毎回。とにかくセリフがゴテゴテしていますね。この作品って、内容はシリアスだし、演じている側も真剣だけれど、セリフに人間のおかしみや愚かさがにじんでいるので、視聴者の方には喜劇のように見えるんじゃないか、と思ってしまうときがあります。とくに仁美のセリフにも喜劇的な要素をスパイス的に入れています。
国生さんと仁美には共通点がないように思われますが、いかがですか?
理解はしています。実際、仁美のような人は世間にもいっぱいいるような気がします。友達を求めているけれど、本当の自分をさらけ出すと嫌われるんじゃないか、と思っている人って。きっと仁美は自分の中に宮殿があって、その中に人を招くのを拒んでいるのだと思う。だから室内は空っぽ。仁美が気にかけているのは、宮殿の周りを飾り立てることじゃないでしょうか。もしかしたら息子の知也さえ、宮殿の中に入れていないのかも。夫とうまくいっていないけれど、もともとは離れて暮らすくらいがちょうど良くて、お金さえ送ってくれればいいだけの存在だったのかもしれませんし。
そんな仁美はとても空しく思えます。自分の心を何で埋めていると思いますか?
人からどう思われているか、見られているかでしょう。だから自分を飾り立てることに必死だと思います。
改めて、仁美の見どころをお聞かせください。
仁美は“七色のウツボカズラ”だと思うんです。人に合わせるのも、彼女なりに一生懸命に生きていることの証だし、そんな仁美に共感してくださる方もいるんじゃないか、と思っています。人によって態度を変えるところがこの人の魅力でもあり、そんな風に人に振りまわされているところが考えさせられるところでもあり、です。誰だって私は私、人は人のほうが楽に生きられるはずです。いまのところ、“私とあなた”の生き方にとらわれている仁美がどう変化するのか、視聴者の方に楽しんでいただきたいです。とりあえず、私自身はこの役といま出会えて良かったです。
難役だけに、演じ甲斐がありますか?
彼女のアンバランスさの表現は挑戦だし、楽しいです。仁美は私の実年齢より5歳くらい年下ですが、役と同じくらいの年齢で演じていたら、もっとキャピキャピして、テンションもただ高いだけだった気がします。今回、声はフワフワしているものの、芯の部分では動じてないんですよ。人と混じり合いたいけど、混じり合えない。尚子さんを助けたいけれど、利用したい…。仁美の心のうちは一人の人間としても興味深いもので、仁美を演じるようになってから、『動じない、何があっても振り回されない』という標語を部屋に張りました(笑)。
ところで国生さんは“ウツボカズラ女”ってどう思いますか?
高貴な人ほどウツボカズラ女になれると思う。何不自由なく育ち、どんなことでもフワッと言えてしまう人っていうイメージ。そんな風になれたら…。いいと思います(笑)。きっと生きやすくて、女性の究極の幸せの一つかも。女性は誰でも生きてく上で“栄養”が必要だし、未芙由を見ていると、人の命を奪うわけではないでしょ。適度に周囲の人から栄養を取って生きていくだけで。私にはまったくそういう要素はないけれど、女性はウツボカズラの要素を誰でも持っているし、開花させるか、させないかってことだと思います。
国生さんは“ウツボカズラ女”の要素は「まったくない」とのことですが。
私はこれまで、“当たって砕けろ”の人生だったので(笑)。私自身、ウツボカズラ女になることを清くないと思っているのかもしれません。でも、もしウツボカズラ女になれていたら、もう少しすんなりと世の中を渡っていけたかも、という気がしています(笑)。