未芙由を始め、劇中に登場する様々な“ウツボカズラ女”。雄太郎と打算で付き合っている杏子もその一人です。しかし杏子は未芙由の出現で、自分の生き方を見つめ直しているようで…。演じている真木さんに、杏子の気持ちを代弁してもらいました。

――杏子をどんな女性だと思いますか?

雄太郎さんとの関係は別として、割と普通の感覚を持っている女性じゃないでしょうか。この作品のテーマに“格差”というものがあって、杏子がその体現者だ、と。彼女はきっと自分から望んで“ウツボカズラ女”になったのではなく、いつの間にかなっていたと思うんです。そこにあったのが格差で。

――格差から“ウツボカズラ女”に、とは?

雄太郎さんと付き合うことで、こういうステータスを持っている人と一緒にいると、簡単に豊かな生活を手に入れられるんだ、ということに気づいてしまったんですよ。それで楽なほうに流されてしまった。雄太郎さんと出会うまでは、本当に平均的だったというか。お給料も月並みで、悩みと言えばちゃんと働かない彼氏のことぐらい。ただ、そういう状況に納得していなかったのではないでしょうか。そんな中で雄太郎さんと関係をもったら、『あ、こんなあっさり実現しちゃうんだ』と。とは言え、まともなことではないので、杏子はこのままでいいのか?と、常に自問自答している気がします。

――決して、サラッと演じられる役ではないですか?

演じていて、杏子って割り切れていないな、と感じるので、私までネガティブになってしまうときがあります。未芙由ちゃんや仁美さんは、自分の意思で“ウツボカズラ女”になったところもあると思うんです。それだけの強さがあればまた違うのでしょうが、流されていつの間にか“ウツボカズラ女”になり、それを良し、ともしていないから、そういう感情を演じるのは、精神的にも大変ですね。

――杏子のシーンでは、雄太郎の靴を懸命に磨いている場面が印象的です。

あれはですね、現実逃避です(笑)。自分が雄太郎さんだけでなく、恋人の秀幸にも本当は必要とされていないと分かっていて、ふつふつと湧いてくる『私だって必要とされたい!』『大事にされたい!!』という感情を表に出すことができず、靴を磨くことにぶつけているんです。だから杏子にとっては、きっと心のバランスを保つための行為でもあって、あのときだけは嫌なことを忘れているんですよ。

――杏子には今後、どのようなことが起こるのでしょうか?

未芙由ちゃんに杏子は勝手に親近感を抱いていると思うんです。何も持っていない同士として。未芙由ちゃんを通し、杏子は自分自身のことを客観的に見つめるようになっているので、自分が何を望んでいるのか、何をすべきか、そろそろ答えを出すと思います。

――真木さんは“ウツボカズラ女”ってどう思いますか?

本当の“ウツボカズラ女”は、相手に自分がそうだと気づかせることなく、欲求や願望を叶えているんじゃないでしょうか。『あなただからお願いしたい』ということをさりげなくアピールして。だから相手も気持ち良いはずです。男女の関係のみならず、同性同士でも、友人同士でもウツボカズラ的な行動が物事をうまく運ばせたり、状況を改善させたりすることもあるでしょうから、悪いことと決めつけなくていいと思います。私自身は人を頼るのが苦手で。納得したいから自分ですべてをやろうとして、うまくいかず“ウゥ~”ってなるタイプなんです(笑)。だから、“ウツボカズラ女”がうらやましくもあります。

――ところでこの秋は、メインキャストで出演している映画「三つの光」も公開されますね(東京地区は9月16日より。他全国順次公開)。今後の目標をお聞かせください。

『三つの光』はオーディションで選んでいただいた作品です。世界の映画祭にも出品して、私も『第67回ベルリン国際映画祭』に参加させていただきました。現地ではものすごく刺激を受けましたし、私は6年ほど会社勤めをしてからこの世界に入り、女優活動も10年ほど経ち、やっと女優としてスタートラインに立てたような気がします。連ドラの『ウツボカズラの夢』にもレギュラーでの出演が叶い、いまは演技の無から何か作り出す作業が楽しくて、しかたありません。この充実感を忘れることなく、様々な現場で必要とされる女優になりたいです。