いよいよ物語はクライマックス目前。未芙由は隆平の愛を手に入れ、鹿島田家を自分の居場所にすべく、思いを新たにします。その先に待ち構えているのは久子。育ってきた環境や、その家の格式にこだわる久子を未芙由はどう“落とす”のでしょうか。そこで、未芙由がどんな家で育ってきたのか改めて振り返るべく、両親を演じた芳本美代子さんと春田純一さんのコメントから迫りたいと思います。
芳本美代子さん(斉藤幸恵役)
ドラマを通して見ると、幸恵って視聴者の皆さんから違和感を持たれる役かな、と思ったんです。第1話で未芙由に、素直にまっすぐ生きれば幸せになれると伝えましたが、実際の未芙由はたくさんの苦労をしているし、そう話した幸恵も決して心穏やかに生きていませんから。死を目前にしたからこそ出た言葉だと思いますが、娘の今後を思って言ったことに間違いないし、未芙由にはそんな大それたことが起きなくてもいいから、普通に結婚して、“普通の幸せ”を手に入れてほしいと願っていたと思います。
斉藤家は幸恵が元気なころから、きっと夫婦仲は良くなかったでしょうね。幸司さんには以前から女の影を感じていたと思う。それでも子供が二人いるので、離婚して女手一つで二人を育てるとしても、当分先のことと思っていたのではないでしょうか。その矢先に病が発覚して…。亡くなる寸前は、離婚しなくて良かったと思っていたはずです。自分にとってはひどい夫でも、子供たちにしてみれば頼りになります。まあ、未芙由にとっては、何もしてくれないひどい父親でしたけど(笑)。
幸恵は未芙由にとって生き方も、考え方も“反面教師”なのは確かですね。『そんなことを言っているけれど、お母さんは幸せに見えない』『本当にそんな生き方でいいの?』と死にゆく母を見て、どんどん頭の中で“?”が大きくなっていったはずです。何事もなければ、未芙由も幸恵と同じような人生を歩んでいたかもしれません。だからこそ、危機感を抱き、東京でちょっとずつ知恵をつけ、賢くなっていたのだと思います。そう考えると、幸恵は死を持って、未芙由にどう生きるべきか考える機会を与えたのかもしれませんね。
私自身は、“ウツボカズラ女”ってそうせざるを得なかった女性だと思っています。特に都会では。ズルいように見えるけれど、賢く生きようとしているだけじゃないか、と。その姿がはたから見れば、女性の怖さに繋がるのかもしれません。それと、何となくですけど、きれいな人は“ウツボカズラ女”の要素を持っているんじゃないでしょうか。美貌を武器にして、何でも言うことを聞かせちゃう、みたいな(笑)。
家庭においても、奥さんが“ウツボカズラ女”のほうがいいときもあると思います。それは陥れるっていう意味でなく、夫や家族を上手におだてて、家の雰囲気を良くする、という意味で。幸恵はきっと、そういうことが苦手だったんでしょうね。『もうちょっと悪知恵が働くほうが楽になるのに』と、演じていても感じました。
春田純一さん(斉藤幸司役)
もともとこの話って、出てくる人みんなが、普通なら隠しておきたい “毒気”を露わにしているでしょ。台本を読んで、人間の抱えている闇にズバッと切り込んでいると思ったし、原作の小説もそれは同じでしたね。特に幸司がひどかった(笑)。ここまで娘を追い詰めるってどういうことだろう、と。どう演じようか、最初は悩みました。
僕としては、はるかの存在が大きかったです。決して被害者とは言いませんが、幸司もはるかに翻弄されて、未芙由に冷たく当たっているのだ、と。父親として気持ちが揺れ動いてはいるけれど、結局新しい奥さんを選んじゃった。極悪非道人ではなく、幸司が未芙由を追い出さなければ話が始まらないと思い、覚悟を決めて演じました。
奥さんが病に伏しているのに、浮気をしているっていう設定も…。僕がまず、なんて男だと思いました。ただ、男って本当に弱い。幸恵の入院でいろいろなことがのしかかり、そのストレスから浮気に走ったっていうのは、理解できます。
幸恵が元気だったころから、夫婦仲はそんなに良くなかったはずです。というより、二人の間には相当な距離があったと思います。きっと奥さんは生前、夫の浮気を分かっていたんじゃないですか。気づいていながら黙っていて、そのまま亡くなった。そこには子供たちを託す気持ちもあったでしょうけど、それも裏切りましたからね。幸司は一見普通の男だけれど、その中に人間の弱い部分も醜い部分も持ち合わせています。さらに、自分よりずいぶん年下の女に振り回されてしまう。最低だけれど、単純な悪人でもないし、役としては面白いです。演じながら、毒を発せられたのも。
この作品に出て、“ウツボカズラ女”っていう存在を初めて知りました。ドラマの中の“ウツボカズラ女”はまあ、男をこれでもかっていうほど食い物にして、怖いよね(笑)。僕はどうだろう?そういう女性に会ったことはないと思うけれど…。まあ、もしこの手の女性に狙われたら、とことん振り回されるしかない。あがけばあがくほど、ドツボにはまると思う。植物のウツボカズラって、袋の中に昆虫が落ちてきたら、溶液で溶かしちゃうんでしょ。“ウツボカズラ女”から無理に逃げ出そうとしたら、きっと溶かされちゃいますよ(笑)。無駄な抵抗はしないほうが身のためです。
男なら誰だって女性の顔色をうかがったり、女性の言うことにいちいち反応したりするところってあると思うんです。僕にだって、そういう面はありますよ。今回、はるかに振り回されるところは、僕のそういう一面を引き出して演じました。実際こんな父親、娘からしたらたまったもんじゃないでしょうが。


