プロデューサーより

 疑問に思ったこと。知りたいと思ったこと。それが番組の原点です。
取材、撮影、編集、ナレーション、整音、音楽、字幕、CGを作る…。そうして番組を放送する。これが、私たちの仕事の流れです。取り扱う題材に禁止事項を設けるべきではありません。むしろ、難しいことこそトライしたいと思っています。取材を通じて知ったことを、それを取材のプロセスも含めて描き出すことで、この時代の一端を伝えたい。そう思うのです。
 かつて、『山口組~知られざる組織の内幕~』(NHK特集)などヤクザの内部に入ってその様子を世に知らせるドキュメンタリーが何本かありました。しかし、この20年、取り締まりの際の断片的情報はありますが、暴力団の内側を描いた番組はありませんでした。その理由はわかりません。ただ、ヤクザのイメージと実態は、乖離しているようです。
 「暴力団排除条例以降、ヤクザと接触ができなくなり、実態がつかめない。」「ヤクザは地下にもぐり始めている」「ヤクザのかわりに半グレやギャングなど面倒な連中が蔓延してきた」。
 この番組のディレクターは最近まで事件・司法担当記者で、捜査関係者からそんな話を聞いていました。テレビドラマや映画などで描かれるヤクザは縄張りをめぐって抗争を繰り返す輩たちで、拳銃を所持し、地上げに介入し、覚せい剤を密売する犯罪集団…。しかし、現実はそうではなさそうだ…。ディレクターは、暴力団対策法、続く、暴力団排除条例以降のヤクザの今を知りたいと考えました。
 「取材謝礼金は支払わない」「収録テープ等を放送前に見せない」「顔のモザイクは原則しない」。これは、私たちがこの取材の際に提示する3つの約束事です。しかし、この条件に応えるヤクザはいません。彼らにとって、姿をさらしても、何の得もないし、警察に睨まれたくないのです。
 そんな中、大阪の指定暴力団「東組」の二次団体「清勇会」に入ることになりました。半年に及ぶ取材の途上、組トップが全国の組関係者の実例を出して、「ヤクザとその家族に対する人権侵害が起きている」と言い始めます。ヤクザと人権…!?。また、山口組の顧問弁護士を30年してきた弁護士を追いますが、自ら被告となった裁判などに疲れ、引退を考えていると言い出します。徐々にヤクザの現実が見えてきます。
 ヤクザの存在を擁護するつもりはありません。「社会」と「反社会」…。その一線はどこにあるのか。ヤクザを無くしていく、その道程を振り返って考える時に来ているのではないか…。知られざるヤクザの実像から、私たちの社会の姿が見えてくるかもしれません。この番組に何を感じ、どう考えたか、どうぞ、ご意見をお寄せください。

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