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辻村深月先生 インタビュー

「朝が来る」の原作者・辻村深月さんに作品への思いやドラマへの期待などを伺いました。自分の作品が映像化されることを、「お嫁に出すような気持ち」と話す辻村さん。一視聴者としても、ドラマ版をとても楽しみにされている様子でした。

この小説を書いたきっかけを教えてください。
編集者の方から、「次はこういうテーマで書いてみませんか?」と、提案があったのがきっかけです。私自身も30代を迎え、周りで不妊治療の話を聞くことも多かったですし、雑誌の特集やファッション誌でさえ数ヶ月に一度は身体の特集ページがあったりと、みんな興味があるんだなと思っていたので、“不妊治療”に関しては、いずれは自分も小説に書くかもしれないと感じていました。ですが、その編集者から提案されたのは、“不妊治療を経て養子を迎えるという選択をした人たち”という話でした。養子のことは全く考えたことがなかったのでとても驚いたのですが、その後、詳しい資料を読み込むうちに、この話を誰もまだ書いていないのなら、ぜひ私に書かせてもらいたいという思いが強くなり、飛び込んだテーマでした。
書かれているときに、この小説はドラマ化されるのではないか? など、思うことはありましたか?
ドラマ化されたら嬉しいなぁとは思っていました。今回の小説は、私の筆の力というよりは、圧倒的な現実の力を借りて書いた、という思いがあります。養子について、自分が先入観や偏見を持っているつもりはまったくなかったのに、実際に取材をしてみると驚くことがたくさんありました。たとえば、自分の子供が養子であるということは周囲には極力隠すのではないかと思っていたのですが、現実には、ドラマで描かれているように近所の人や幼稚園の先生、それに本人にも伝えているというご家庭が多かった。そして血のつながりのある実の母親には、当然のように嫉妬の気持ちがあるだろうと思っていたのに、それ以上に「感謝」という言葉を口にされるお母さんが多かったんです。この子をうちに連れてきてくれたもう一人の家族だったり、この子を生んでくれた私たちの大事なお母さんだと思っていることの方が現実だった。よく、ひどいことが起こったり、人がいがみあったりすると、そちらの方がより現実に近いのではないかと思われがちだと思うのですが、時には善意や明るさの方こそが現実なのだと、取材を重ねながら圧倒されました。小説でも、まずは、そういう人たちがいるという事実を多くの読者に知ってほしかったですし、今回ドラマ化されることで、より広くそれが伝わるならば嬉しいです。
オンエアで楽しみにしている登場人物はいらっしゃいますか?
やっぱり栗原夫妻と息子の朝斗です。ドラマの顔合わせにうかがったときに、実際に安田さんと田中さんに囲まれて朝斗役の林田悠作くんが座っているのを見たときに、胸がいっぱいになりました。この栗原家がどんな時間を過ごすのか、観られるのを楽しみにしています。
佐都子役の安田成美さんと対談されたそうですが、感想をお願いします。
想像以上に素敵で、そして素敵なだけではなくかわいらしさと柔らかさがある方なんだ!という印象を持って、とても感動しました。原作の小説が映像化されるときには、いつも自分の子をお嫁に出すような気持ちがあるのですが、『朝が来る』に関しては、まさしく自分の子供を託すという気持ちです。『朝が来る』という作品も、朝斗のことも、安田さんになら安心してお任せできると感じています。安田さんにもそうお伝えしました。
作品を書いているときに、思い入れのあるキャラクターはいましたか?
一人あげるとするなら、ひかりでしょうか。
実は書き始めた当初は、栗原夫妻には感情移入できても、ひかりにはできないだろうと思っていたんです。けれど、途中から、書いているひかりにどんどん血が通い、むしろこの子を書きたくて私はこの作品を書いてきたのではと思えるほどになりました。そのひかりがドラマの中ではどう描かれていくのか、一視聴者として皆さんと一緒に見守りたいです。
一つ間違えれば誰にでも起こり得るような、小説でひかりが追い詰められていく部分は少し気持ちが沈みました。
誰にでも起こり得ると受け止めてくださったのは、とても嬉しいです。ひかりを書くときに心がけたのは、普通の子であり、特別な子にはしないということでした。行動だけ見れば愚かな事をしているように見えても、刹那刹那の感情には嘘がないようにしたかったんです。彼女自身は、ひとつひとつ正直にやってきただけなのに、積み上げてきた道を振り返ると崩れ始めている。考えが足りないように見えても、感情に嘘がなく、ただ一生懸命。書いている私自身も、そんなひかりから目が離せなくなりました。
ドラマのキーとも言える役どころを演じる、川島海荷さんへのコメントをお願いします。
まず、金髪にしてくださった、というのがとても驚きでした。そして私の書いた女性はこういう顔をしていたのかと思い、より愛しさが募りました。これからいろんな試練が待ち受けている役柄だと思うのですが、本当に頑張ってください、とお伝えしたいです。
ドラマを楽しみにしている方への、原作者からのメッセージをお願いします。
この小説を書こうと思ったときに“新しい家族の形”を意識して書いた部分があるんです。家族に限らず、この作品を通じて新しい共同体や関係性のあり方を見ていただけたなら、原作を書いた者としては幸せです。
小説のタイトルは『朝が来る』です。読み終えたあとの皆さんに、「朝が来た」と思ってもらいたい、という気持ちを込めました。ドラマを通じて、どうか小説と同じ朝の光が届きますよう、皆さんにも最後まで見て頂けたらと思います。
東海テレビ