愛知県一宮市の男性(68)から投稿がありました。「地下鉄通路の通行区分のプレートを巡る事件の記事を見て、不思議に思いました。以前、地下鉄で通勤していた時は、確か左側通行でした。しかし、たまに他の駅を使うと右側通行の場合があり、なぜだろうと思ったものです。理由を調べてください」

 通行区分のプレートを巡っては2021年6月、名古屋市昭和区の御器所駅で、酒に酔った男が右側通行の表示プレートを剥がし、「何で左側じゃないんだ」と暴れて駅員に暴行したとして逮捕されました。

 そもそも地下鉄の改札外の通路は「右側通行」か「左側通行」か。名古屋の地下鉄全87駅を調べると、出口の通路幅や周辺施設の位置などで、右と左を分ける法則があることがわかりました。

■地下鉄の通路は「右側通行」か「左側通行」か…様々な街の声

 名古屋の街で、地下鉄の通路は「右側通行」か「左側通行」かを意識したことがあるか街で聞きました。

女性(10代):
「書いてある通りに歩いていますね。矢印が書いてあって」

男性(60代):
「左側の方が多いと思います」

女性(60代):
「右側じゃないですか」

「左」に「右」、「わからない」…。様々な意見がありました。

【画像20枚で見る】名古屋の地下鉄の駅通路は右側通行か左側通行か…見つけた『左右分ける法則』


■通行区分が特に決められていない名駅と栄…なぜか自然と左側を通る多くの歩行者

 そこで、名古屋市営地下鉄6路線・全87駅を回って、右側通行か左側通行か調べました。

 まずは、1日およそ20万人が利用する“最大の駅”名古屋の玄関口「名古屋駅」。今回は、改札から出口までを調査の範囲としました。

 歩く人たちを観察すると、特に通行区分の表示はありませんが、何となく左側を歩く人が多いという印象です。駅の担当者に話を聞きました。

名古屋駅の担当者:
「(右左の規定は)設けていないです。決めなければいけない理由もないので。入り乱れることもあるとは思いますが、お互い譲り合って出入口は使用されております」

 利用者は多いものの、通路が広く余裕をもって行き交うことができるため、特に通行区分を決めていないということでした。

 2番目に利用者が多い「栄」駅でも、通行区分の表示は見つけられませんでした。

 どうやら、必ずしも左右どちらの通行が決められているわけではないようです。しかし、なぜ多くの人が自然と左側を歩いているのか疑問が残ります。

■駅長「降りてそのまま右を歩くのが自然な流れ」…右側通行の理由はエスカレーター

 そのまま東山線を藤が丘駅方面に進み「今池」駅へ。ここで初めて「左側通行」の通行区分の表示を発見。その後も次々「左側通行」のプレートが見つかりました。

 今池は全部「左」?かと思いきや…。12か所ある出口のうち、なぜか9番出口にだけ「右側通行」の表示が…。その理由を駅長に聞きました。

今池駅の管区駅長:
「あそこ(9番出口)はそのままエスカレーターでお上がりいただいて、左に寄るのは流れとしては…。そのまま右側をというのが自然な流れなのかな」

 理由は階段の右側に設置されている「エスカレーター」。降りた後、そのまま右側を歩くのが自然な流れで歩きやすいと考え、「右側通行」にしているといいます。

 しかし、ここまでの調査ではほとんどが「左側通行」。エスカレーターがあるなど特別な条件の場合のみ「右側通行」なのでしょうか。

■「右側通行」の理由は出口右側にある学校…決める要素の一つは出口周辺の施設の位置

 鶴舞線と桜通線が乗り入れる「御器所」駅は、今回の投稿のきっかけとなった駅ですが、8か所ある出口のうち、6か所では通行区分の表示はありません。

 残る2か所の内の1つは「左」。一方、その向かい側の事件があった2番出口には「右側通行」の表示でした。特にエスカレーターが設置されているわけではないのに、一体なぜなのでしょうか。

御器所駅の管区駅長:
「こちらは、上ったところの右側に高校があります。朝のラッシュ時間帯が、非常にお客さまが多いので…」

 2番出口の右側の先には高校があり、朝のラッシュ時は生徒たちが右側へまとまって歩く傾向があるため、「右側通行」にしたといいます。ちなみに2021年の3月までは「左側通行」だったそうです。

御器所駅の管区駅長:
「(利用者から)『右側の方が学生がスムーズに動けるのではないか』という要望を受けて掲示を変えました。『つい最近まで左側だったのになぜだ!』ってことでトラブルが…」

 6月の事件の背景には、4月に通行区分が「左から右に変わった」ことがあるのかもしれません。

■担当者「駅の状況に応じた案内を」…各駅に委ねられたスムーズな流れとなる通行区分

 その後、1週間ほどかけ全ての駅を調査。その結果、全てが「左側通行」か「右側通行」の駅、両方が混在する駅、そもそも通行区分がない駅、基本的に通行区分はないが一部だけ「左側通行」か「右側通行」の駅、とバラバラの結果に。ただ圧倒的に「左側通行」の駅が多いということがわかりました。

 この「左側通行」と「右側通行」、一定のルールが存在するのか、名古屋市の交通局に聞きました。

名古屋市交通局の担当者:
「流れは駅によって全て同じではなくて、右側が通行しやすいか左側が通行しやすいか、(駅の)状況に応じた案内となっております」

 全ての駅での統一ルールはなく、判断は各駅に委ねられており、御器所駅のように周辺施設の位置や利用者の要望により決めることもあるということです。

 名古屋の地下鉄の通路は「左側通行」か「右側通行」。調べてみると、出口の通路幅や役所や学校など利用者が多い周辺施設の位置などを考え、人の流れをスムーズになるよう、各駅が独自に決めていることがわかりました。

■圧倒的に多い「左側通行」…理由は「車が普及する前からの名残」!?

 しかし圧倒的に「左側通行」が多いのはなぜでしょうか。国際的な規制やルールに詳しいニッセイ基礎研究所の研究理事中村亮一さんは、「車が普及する前、人は左側通行が一般的で、その名残りがあると考えられる」と話しています。

 そして、そもそも人が昔から左側を歩いていた理由としては、「19世紀にイギリスから鉄道が導入された際、現地にならい『鉄道も歩行者も左側通行』というルールが定められた。昭和に入り、戦後に車の交通量が増えたため、対面通行の考え方から『歩行者は右』に改められたが、車の走っていない駅構内は左側通行のまま残った」と説明しています。