辛いスープに細麺と豚ミンチが絡む、四川料理でお馴染みの“担々麺”。今SNS上に、「担々麺といえば名古屋」、「担々麺は隠れ名古屋めし」などの投稿が多く寄せられています。

 なぜ、“担々麺といえば名古屋”というイメージが存在するのか…。調べてみると、名古屋のあるご当地グルメにヒントを得て作られた名古屋独自の“汁なし担々麺”が、全国的に評判になっていることがわかりました。

■地元の人にはピンとこない…名古屋といえば担々麺ではなく台湾ラーメン

 名古屋の街で、“担々麺といえば名古屋”というイメージがあるか聞いてみました。

女性:
「担々麺?名古屋はきしめん!味噌煮込み!」

別の女性:
「担々麺っていうより台湾ラーメンとかの方が…」

男性:
「味仙…、あれ台湾ラーメンか」

【動画で見る】『担々麺は名古屋めし』なのか 名古屋で独自進化した“汁なし”誕生の背景

 名古屋のラーメンといえば、台湾料理「味仙」でおなじみの「台湾ラーメン」。すっかり全国レベルの知名度になりました。

一方で、街の人たちに担々麺に名古屋のイメージはないようです。

■味噌汁文化に合わせ“汁あり”に…四川料理の達人が日本で広めた独自の担々麺

「名古屋」「担々麺」で検索してみると、「錦城(きんじょう)」というお店が多くヒット。有名店とのことで行ってみることに…。

 名古屋市中川区にある四川料理「錦城」。1日100食出ることもある人気メニュー「担々麺」(880円)を早速注文。

醤油ベースの特製ダレに、酢と練りゴマスープ、そしてラー油をたっぷり…。そこに麺とチンゲンサイを入れて、仕上げにピリ辛豚肉のミンチを…。ゴマスープとミンチが細麺に絡みつく、辛さがクセになる担々麺です。

 2代目の店主に、その由来を聞きました。

錦城の2代目:
「元々(中国の)四川では、“担々”という言葉、肩に“担”いで(売っていた)。麺とかミンチをあえて食べるのが、本来の担々麺のスタイルなんですね」

 中国の屋台で即席麺として売られていた担々麺は、元々は“汁なし”だったといいます。それが、なぜ今のスタイルになったのでしょうか。

2代目の店主:
「スープ(汁あり)にしたのは、四川料理を広めた陳建民先生がそういうスタイルに変えられた」

 麻婆豆腐で有名な陳建一さんの父・陳建民さん。日本に四川料理を広めた陳建民さんが「味噌汁の文化が根付いた日本ではスープがあった方が人気が出る」と担々麺を“汁あり”に変更。弟子たちがそれを全国へと広めたといいます。

 現在、錦城を営む2代目の父である先代は、陳建民さんの弟子でした。もしかして、名古屋に陳建民さんの弟子が大勢いて、それが名古屋の担々麺のイメージに繋がっているのでしょうか…。

2代目の店主:
「(弟子は全国に)沢山いらっしゃいますね。名古屋だけではないよね」

 名古屋が他の地域に比べて、陳建民さんの弟子が特に多いというわけではないようです。

■名古屋駅周辺に担々麺の店が急増…きっかけは名古屋で独自進化した“汁なし担々麺”

 では、“担々麺といえば名古屋”というイメージはどこからきているのか。更なる調査のため、名古屋めし研究家のswindさんの元へ。

名古屋めし研究家のswindさん:
「(名古屋は)担々麺激戦区といっても過言じゃない。もう台湾ラーメンと二分するぐらいの勢い。きっかけが、名古屋で独自進化した汁なし担々麺」

 swindさんによると、「來杏(らいか)」という店の中村シェフが始めたという“汁なし担々麺”が人気となり、名古屋駅周辺にたくさん担々麺を出すお店ができたといいます。

 実際に調べてみると、確かに名駅の半径1キロ以内に少なくとも16軒の担々麺の店が存在。

そのうちの1軒の店主は、この2~3年で担々麺の店が急増していると話します。

最近も、“肉チーズ担々麺”という進化系のお店がオープンしました。

■きしめんに着想得て誕生…名古屋で進化した平麺を使った“汁なし担々麺”

 名駅周辺を調査していると、名古屋の担々麺が独自の進化を遂げるきっかけとなった店「來杏」を発見。考案者という中村シェフに話を聞くと…。

中村シェフ:
「以前、担々麺の専門店をイチから作ったという経緯もあるので…。それが名駅に多い理由」

 中村シェフがプロデュースしたお店も、名駅エリアにはたくさんあるといいます。中村シェフが“平打ち麺”で作る看板メニューの「白ゴマ汁無し担々麺」(900円)は、平打ち麺で面積が大きい分濃厚なゴマのスープがより馴染みます。

 “汁あり担々麺”には細麺を使っているという中村シェフ。なぜ“汁なし”には、平打ち麺を使っているのでしょうか。

中村シェフ:
「最初は細麺で汁なしを出してみた時に、時間が経つと絡みすぎてしまってクドくなるんですね、早く食べないと」

 汁なし担々麺に細麺を使ってみたところ、時間が経つと固まってしまいました。次に太麺にしてみましたが、スープが絡みすぎるという課題はクリアできたものの、ゆで時間が8分もかかってしまいました…。忙しいサラリーマンが多い名駅エリアでは、ランチ時は素早いメニューの提供が必須。そこで名古屋出身の中村シェフが目を付けたのが…。

中村シェフ:
「元々きしめんとかを食べてきたので…。どうだろうなって平打ち麺にしたら、相性が良かった」

 きしめんのような平打ち麺であれば、ゆで時間は約3分と太麺の半分以下。しかもスープや具との絡み具合も理想の状態になったといいます。

 ちなみにきしめんのルーツも、名古屋城築城の際に忙しい職人のためにゆで時間が短く済む平打ち麺が採用されたという説があります…。まさに“名古屋ならでは麺文化”です。

 その後、中村シェフの影響もあってか、名駅エリアでは平打ち麺を使った“汁なし担々麺”を出す店が多く誕生。この名古屋独自の“担々麺”は全国的に評判になっていったといいます。

 きしめんを思わせるこの独特のスタイルが、「担々麺といえば名古屋」と思わせる理由の一つなのかもしれません。