愛知県安城市にある昭和2年創業の老舗スーパーは、コロナで常連客である高齢者の来店が減り、厳しい状況が続いていました。店主の4代目の男性は“来られないのならこちらから届けよう“と地元の食材をたっぷり使った宅配弁当の店をオープンさせました。

 チンゲン菜を一束丸々のせたローストポーク丼や、今が旬の地元名産のいちじくの天ぷらなどのオリジナル弁当を作り地域に笑顔を届けています。

■来られないならこちらから伺う…地元の野菜をたっぷり使った宅配弁当店をオープン

 愛知県安城市の知立バイパスの南にある「台所市場 ヤオヨシ」は、青果店からスタートした老舗スーパーです。

【画像20枚で見る】「来られないならこちらから伺う」老舗スーパーが始めた“本気の宅配弁当店”

 店を切り盛りするのは、野菜の目利きには絶対の自信を持っている4代目の神谷豊明さん(45)。しかし、去年の春から…。

神谷さん:
「お客さんはお年寄りが多いので、コロナの自粛期間は外に出るのが恐いということで減ってしまいました」

 いつも来店していた高齢の常連客が減ってしまい、店は厳しい状況が続いていました。そこで考えたのが…。

神谷さん:
「来られないならばこちらから伺おうということで、4月から宅配のお弁当屋をやり始めました」

 今年の春、スーパーの向かいにあった倉庫を改築し、弁当とお惣菜の宅配とテイクアウトの専門店「八百芳(やおよし)商店」をオープン。

女性客:
「お野菜がたっぷり入ってるので、好きでちょこちょこ使わせてもらってます」

 お弁当には、可能な限り地元の食材を使っています。安城産の豚肉のローストポークに、焼いたチンゲン菜を一束のせた「安城農林ポークのロースト丼」(720円)や、すりおろしたニンジンがたっぷり入った「人参ハンバーグ丼」(880円)が人気です。

 中でも特徴的なのが、地元安城の名物「北京飯」をアレンジした「南京飯」(650円)です。

「北京飯」とは、三河安城駅近くにある「中華料理 北京本店」が開発したオリジナルメニューで、玉子丼の上に揚げた豚肉を乗せたB級グルメです。

 神谷さんは、「北京本店」に許可をもらい、安城が誇るソウルフード「北京飯」の豚の唐揚げを鶏の唐揚げに変え「南京飯」として販売しました。

■新鮮な野菜を求め自ら生産者の元へ…JAとのコラボ弁当もスタート

 スーパーも弁当も“仕入れ”が命。神谷さんは、新鮮で美味しいものを求めて自ら生産者の元へ足を運びます。この日は、規格外で出荷できない小ぶりのズッキーニがあると聞き、分けてもらいに…。

生産者の男性:
「地元の方に食べて頂くことが、直接お声をいただけるので生産者としてはうれしいことです」

 お米も地元産にこだわっています。粒が大きくしっかりとした弾力が特徴の「あいちのかおり」のブレンド米を特別に作ってもらいました。

 8月からは、このブレンド米を使ったJAとのコラボ弁当をスタート。

素揚げした野菜をトッピングした「八百屋のカレーライス」(500円)に、ご飯が進むよう少し濃い目に味付けした「牛タンシチュー」(500円)…。

醤油ベースのタレで味をつけた「名物から揚げ弁当」(500円)など全8種類を揃えました。

神谷さん:
「八百屋なので原価しれているので、他の物を入れるより野菜を食べてもらった方が…」

 ここに、青果店としてスタートしたスーパーのこだわりがあります。

■急速冷蔵して素材本来の美味しさを…本格的な調理器具導入し味を追求

 神谷さんは、店の設備にもこだわっています。ホテルの厨房などで使われている「ブラストチラー」は、焼いた野菜などを6℃の低温まで急速に冷やすことができる本格的な調理器具です。

 急速冷蔵することで、弁当の大敵である「菌の増殖」が防げるのに加え、素材本来の美味しさを閉じ込め、より食材のうま味が味わえるといいます。揚げた唐揚げも急速冷蔵してしまいます。

神谷さん:
「唐揚げは、温かくないと嫌だよなって食べ比べたら、冷えていた方が美味しくて…。お客さんに聞いても『そのまま食べても美味しいよね』って。その声を聞いた時には安心しました」

 神谷さんは、「弁当」というスタイルで最も美味しい状態にするにはどうすればいいかを研究し続けました。

 完成した弁当は近所に住む神谷さんの妹が配達します。この日は、よく頼んでくれる常連のボルタリングジムへ。

常連のお客さん:
「見た目がオシャレで、味もすごく美味しくて、お野菜もたくさん入っているし完璧です」

 オープンしてから徐々に客も増え、今では650世帯から注文をもらえるようになりました。

■今が旬のいちじくを生ハムとチーズと合わせ…地元の名産を使った新メニューを開発

 この日、神谷さんは今が旬の安城の名産品“いちじく”を使った新しいメニューを開発していました。

 いちじくには、何が合うのか…。チーズや生ハムなどと試食を重ねた結果、完熟いちじくを生ハムで包み、衣をつけて油で揚げたものを新メニューにすることに決めました。

神谷さん:
「『いちじくの生ハムのフリットアニスの香り』。家でもレストランに行った気分で食卓が華やかになれば…」

 完熟いちじくの甘みが生ハムの塩気で引き立てられた「安城産いちじくの生ハム巻き天ぷら」(480円)は、この時季ならではの旬の一品です。

 コロナで先が見通せない状況が続く中、地元の人たちのために神谷さんは「食」の分野以外でも貢献したいと考えています。

神谷さん:
「こういった状況が続いてしまう気がしているので、日用的な物とか運べたらなと。皆さんに役立てるようなサービスを作っていきたい」

 今後は高齢者のために、トイレットペーパーなどの生活必需品を運ぶサービスなども検討しています。神谷さんは、これからも地域の役に立つことを目指します。