2021年は、「持続化給付金」や「10万円給付」など新型コロナに関する「お金」に翻弄された1年となりました。その“お金の現場”を取材すると、協力金を巡るコロナバブルの実態や困窮する人たちに支援が行き届いていない政治の現状が見えてきました。

■「協力金」で利益が6倍に…約1500万円の協力金得たバーのオーナー

 新宿・歌舞伎町のゴールデン街に店を構えるバー「月に吠える」のオーナー・肥沼和之さん(41)は、コロナの協力金を巡るある実態を明かしました。

【画像20枚で見る】協力金で「コロナバブル来た」一方で困窮者も…“お金の現場”で見る新型コロナと政治

肥沼さん:
「(今年の)最初に支給されたのが372万円で、貯金通帳の数字が92万円だったのが460万円くらいに一気に増えた」

口座に振り込まれたのは、経営するバー2店舗に支払われた約1か月分の協力金です。コロナ前に50万円だった利益は、家賃などを差し引いても月に330万円と6倍にもなりました。

肥沼さん:
「トータルで、今年に入ってから1500万円くらい頂いている。『コロナがこのままずっと続いてほしいね』とか、『コロナバブルが来た』とか言う人も正直いました」

 協力金を巡る「コロナバブル」。大きな恩恵を受けた肥沼さんは、違和感を感じていました。

肥沼さん:
「水商売している方も『お客さまがいなくなった』とか、『生活費にも困ってしまう』とか、そういった声は聞きます。(そういう人に)支援が届けばいいなとすごく思っていました」

 新型コロナが影を落とし続けた2021年。その“現場”には、支援が必要な人に手が届いていない“政治の実情”がありました。

■出演依頼は1年でたったの4件…行政の支援なく困窮する大道芸人

 名古屋を中心に大道芸やクラウンショーを行う会社を経営する江原直紀さん(50)は、10年以上イベント会場や保育施設などでパフォーマンスを披露してきましたが…。

江原さん:
「今年は(活動が)たったの4件。ピエロは、公園や街を歩いているだけで、人が集まってきてしまうのがNG。そういう中で、出演は一切ストップしていただけないかということで…」

イベント1回あたりの収入は、3万円から10万円ほど。年4回の活動では家賃や給料を払えず、社員として雇用していた大道芸人は、全員解雇せざるを得ませんでした。

江原さん:
「きれいごと言っていられない状況…。(解雇した社員に)いつかまたどこかで一緒にできると…。『君たちならやっていけるよ』と言い聞かせるのも心苦しくて…」

 緊急事態宣言で中止になったイベントに対しては、キャンセル料を最大2500万円補助する国の支援などがありますが、その対象はあくまでイベントの“主催者側”。大道芸人のように、出演者側に絞った支援はありません。

江原さん:
「(大道芸人は)マイノリティーなんですよ。飲食店や旅行業は必要不可欠という判断で補助があったが、じゃあ私たちパフォーマーは世の中で必要かと考えたときに、ストレートに必要じゃなかったんですよ」

■なぜ“18歳以下”なのか…「10万円給付」から漏れた22歳の困窮する大学生

 支援が行き届いていない現状は、政府の“目玉政策”にも表れていました。10月の衆院選後に自公政権は所得制限を設けたうえで、18歳以下の子供に対する「10万円給付」を決定しました。

 仲間と鍋を囲む、愛知県美浜町の日本福祉大学に通う4年生の西本泰河さん(22)。

西本さん:
「(うどんは)必需品。1玉17円だから…」

慎ましいながらも学生生活を満喫しているようにみえますが、この1年は経済的に追い込まれていました。月に3万円ほどのアパートの家賃を一時7か月も滞納していました。

西本さん:
「年が変わった後のタイミングが授業料の支払いできつかった。夏前で、実習があったりで収入が落ちて…」

親からの仕送りはなく、アルバイトを掛け持ちするなどして学費や生活費を工面していましたが、緊急事態宣言の度にシフトが削られ、月10万円ほどあった収入は3万円にまで減少したといいます。

西本さん:
「夕方のアルバイトを全部夜勤に変えて、朝帰ってきて2時間寝て大学行くみたいな感じでやりくりしていた」

高校1年のときに病気で父親を亡くした西本さんは、介護福祉士を目指し国家試験の勉強を続けていましたが、一時は退学を考えるほど追い込まれました。

西本さん:
「学費が払えないギリギリのときとか、学びたいことが学べてない状況とか…。(大学を)やめて働いたほうがいいのかなと考えたこともありました」

 その中で政府が打ち出した「10万円給付」。22歳で対象から外れた西本さんは、“18歳以下”という条件に大きな疑問を抱いていました。

西本さん:
「高校でお金がかかるのはもちろんですけど、高校と大学の学費って比にならない…。大学生でも経済的に負担がある人は多いと思うので、そこは“学生”ではなく“18歳以下”にしたのはなんでかなと」

 政府は「困窮する学生」への10万円給付の政策も進めていますが、その予算は12月20日に国会で成立したばかり。対象とする学生を国に申請する大学側もまだ対応は決まらず、西本さんはいつ給付金を受け取れるかわかりません。

西本さん:
「給付は、なぜ“今”なのか率直に疑問。一番苦しかったのは、緊急事態宣言が出たタイミング。そのタイミングで(支援が)あれば、もっと心に余裕ができたかと思います」

「経済的な理由から進学をあきらめる人もたくさんいると思うので、そういった人たちの環境整備をしてほしい」と西本さんは話します。

必要な人に必要な支援を届ける…。2021年、政治はその責任を果たせたのでしょうか。