2021年7月に三重県多気町に誕生した「VISON」は、地元熊野灘でとれた魚介類や採れたての野菜が並ぶマルシェや、“木育”をテーマに子供たちが木とふれあえる場など、「食・癒・知」を備えた施設で、コンセプトは『地域とともに』です。

また、新たに1000人以上の雇用が生まれ若者たちがふるさとに戻ってくるなど、「VISON」は観光だけでなく地域が抱える様々な課題を解決する切り札となっています。

■「まちの商店街」のように…人と人がつながる施設「VISON」

 三重県多気町にある商業リゾート施設「VISON」の広大な敷地には、レストランやカフェ、食料品売場やホテルなど73店が並んでいます。

【画像20枚で見る】商業リゾート施設『VISON』が取り組む“未来へのまちづくり”地域の課題も解決へ

中でも注目は、産直市場の「マルシェヴィソン」です。約100軒の農家が、毎日採れたての野菜や果物を運んできます。

木箱の中に並ぶのは、すべて三重県産。伊賀上野の白鳳梨に玉城町のマスカット・ノワール、多気町で採れた初モノの栗など。中でもミカンは、県内全域から集まります。

立花社長:
「三重県あちこちでみかん作っているので、いろんな生産の方が出してくれる」

 VISONの立花哲也社長は、9年前に三重県菰野町に開業したリゾート施設「アクアイグニス」を、年間約100万人が訪れる人気スポットに育てました。

 天ぷらや蕎麦などの和食の店が軒を連ねる「和ヴィソン」にある樽には、約3000本の伊勢たくあんが漬けられています。

熊野灘で底引き網漁をしている鮮魚店「第十八甚昇丸」には、紀伊長島のノドグロなど近海でとれた魚が並んでいます。

地魚でかまぼこを作っている「新兵衛屋」では、鮮魚店で売り物にならない小魚を譲ってもらい、あげ天やハンペンに加工して販売しています。

新兵衛屋の担当者:
「余ったものでも、食卓に届くという意味ではいいこと。価格的にもちょうどいいと、よく売れています」

 VISONでは、”まちの商店街”のように、人と人がつながっています。

■「地産地消ってすばらしい」…地域の魅力に気付きふるさとへ帰ってきた若者たち

 VISONでは、三重県松阪市の食品会社と一緒に日本初となるカカオの温室栽培に取り組んでいます。

仕掛け人は、パティシエの辻口博啓さん。カカオを、地域の新たな産業として育てる計画です。

 人口約1万4000人の山あいの町・多気町は、人口減少と高齢化、農業や林業の担い手不足など、多くの地方の町と同じように様々な課題を抱えています。

2020年、多気町は地域の課題の解決を目指す「スーパーシティ構想」の実現に向け、周辺の5つの町と連携。その中心を担うのがVISONです。

多気町の久保行央町長:
「多気町に観光で来られて『いい町なんやな』『空気もきれいでいいな』と、住んでもらえるのが一番ありがたい。働く場は結構ありますので」

 VISONは、伊勢神宮と同じ年間800万人の集客を目指しています。新たに1000人以上の雇用が生まれ、若者たちがふるさとに帰ってきました。

 食にまつわる様々な道具の博物館「KATACHI museum」で働く津市出身の杉野貴将さん(31)は、名古屋でサービス業をしていましたが、この夏に地元に帰ってきました。

杉野さん:
「サービス業といっても直接お客様と接することはなかった。もっとお客様と近い距離感で働きたかったのと、地元に帰って地元の企業に勤めて、三重県に貢献できる場所がいいなと…」

 志摩市出身の戸塚龍さん(30)は、大阪のホテルで働いていましたが、VISONの農園レストラン「NOUNIYELL」に転職しました。

戸塚さん:
「三重県ってすごく美味しいものがたくさんあるので…。地産地消とかVISONが力を入れていること素晴らしいなと思って」

 改めて地域の魅力に気付いた若者たちが、ふるさとの未来を担います。

■ありのままの生きた森を体験…木と森の大切さを学ぶ“木育”

 VISONの奥にある深い森では、月に2回「森の散歩ツアー」が開かれています。

木と森について学ぶ体験施設「kiond」では、木のおもちゃに触れたり薪割りを体験したり、森の大切さを学ぶ“木育”をしています。

森の散歩ツアーのガイド:
「『これぞ生きた森だよね』と言っていただきます。雨が降った地形の変化、水が流れている様子、獣の足跡。ありのままのフィールドを感じてほしい」

 VISONの建物は、可能な限り地元の木材を使用。伊勢神宮の式年遷宮にならい、20年ごとに建て替える計画で、地域の林業を活性化させます。

立花社長:
「木造の神社・お寺は、何百年も続いているところがたくさんあります。そういうところにならってメンテナンスしていけば、新しい建材やコンクリートよりも長く継続していく」

■「昔を取り戻すようなまちに」…“美しい村”からVISONと名付けられた場所

 高校卒業後に20代で建設会社を立ち上げた、三重県出身の立花社長が追求しているのは、「本当の豊かさとは何か…」。VISONとは、“美しい村”という意味の造語です。

立花社長:
「三重県から村がなくなってしまった。忘れてはいけないもの、本来あるべきものが蘇るような…。昔を取り戻すようなまちにしたい、村にしたいという想いでVISONという名前にしました」

「もっと自然を使った施設などを提供していきたい」と話す立花社長。今後は、オンラインで診察できる遠隔医療施設に、自動運転の車やバスを走らせる計画で、未来に向けて“美しい村”を作っていきます。