1月23日に投開票が行われた岐阜県の美濃加茂市長選挙で、2017年に受託収賄事件で辞職した前市長の藤井浩人さんが現職を破り当選しました。現職との対決で注目を集めた前市長の選挙戦は、まさに“逆風”の中での戦いでした。

■準備期間が少ない中で奔走…前市長が4年ぶりに市長に返り咲く

 1月23日に投開票が行われた美濃加茂市長選で、1万6307票を獲得した前市長の藤井浩人さん(37)が、再選を狙った現職の伊藤誠一さん(65)を大差で破り当選。再起を決して挑んだ藤井さんの戦いは、まさに“逆風”の中での選挙戦でした。

【画像20枚で見る】保守王国で自民を敵に…美濃加茂市長選で“自らの後継”破った前市長の『逆風の戦い』

 藤井浩人さんは、2013年に当時全国最年少の28歳で美濃加茂市長に当選。しかしその後、受託収賄などの罪に問われ、2017年に有罪が確定し市長を辞職しました。

藤井さん(2021年12月の出馬会見):
「ちょうど4年前の今日が、最高裁の上告棄却を受け取った日。私としては、できるだけ早く美濃加茂市長という立場に挑戦したいという思いがありました」

 今回の出馬を表明したのは、告示の1か月前。準備期間が少ない中、市民の支持を得ようと奔走しました。ひとたび街頭に立つと多くの市民が集まり、中にはサインや写真撮影を求める人もいるほどの人気でした。

藤井さん:
「反応も強く感じますし、今回の私が訴えることに賛同される方がすごく多いことを感じます」

■「不義理だ」という声も…自身が後継指名した相手に宣戦布告

「藤井人気」は健在。しかし、藤井さんには、「保守王国・岐阜」の巨大な壁が立ちはだかっていました。選挙戦終盤に、現職の応援に駆け付けたのは、自民党・岐阜4区選出の金子俊平衆院議員です。

 藤井さんは、市長を辞職後、金子議員の秘書を務めていました。

今回の出馬を決めた時、自民党はすでに現職の推薦を決めていたため、秘書を辞め「自民党」という巨大組織と対決せざるを得なくなりました。

伊藤陣営の事務所には、名だたる国会議員や周辺自治体の市長から寄せられた必勝の“為書き”が。それぞれが、支援者を持つ県議や市議なども、現職の支援に回っていました。

 さらに、藤井さんの元から離れた支援者も…。伊藤陣営で事務所を手伝う大野満さんは、もとは藤井さんの後援会で幹部を務めていましたが、今回は伊藤さんの支援に回りました。

大野満さん:
「前回は藤井さんを一所懸命応援した『支える会』の元メンバーですけど、今回は藤井さんには少し“義がない”のでは」

 実は現職の伊藤さんは、藤井さんが市長を辞職する際に、自身の後継として出馬を依頼した当時の副市長。“後継指名”をした相手に宣戦布告をした藤井さんの手法に対し、「不義理だ」という声が多く上がっていました。

大野さん:
「『本当に藤井頑張っとるな』というところを見てもらって、しっかりとした土台を作って、それから正々堂々と市長に復帰していただきたかった」

藤井さん:
「今回、(自民党など組織が)お相手側にいらっしゃるので、そのあたり団体とか政党の動員とか、人のつながりは私たちにはないので、一人一人に訴えていかないといけないのが大変なところ」

■告示前からほぼ毎日YouTubeとインスタグラムで生配信…地道に支援者を増やす

「保守王国」で敵に回した自民党に、そして去ったかつての支援者。組織戦では勝ち目がない状況で、藤井さんが力を入れたのはSNSの活用です。告示前から、ほぼ毎日YouTubeとインスタグラムで生配信。市民1人1人から寄せられる疑問に答え、地道に支援者を増やす活動を展開しました。

藤井さん:
「YouTube、インスタは当たり前なので。当たり前のことを当たり前にやらないと、声って届かないので。今まで通りではなく、今の世代の人たちに対応したやり方はやっていきたい」

SNSでの発信を手伝うスタッフの中には、辞職した後も変わらず支援を続けてきた若者もいました。若尾光将さん(29)は、藤井さんが塾講師をしていた頃の教え子で、市長に初当選した時から支援を続けています。藤井さんが逮捕された時は、どう思ったのでしょうか。

若尾さん:
「10年近くゴミ拾いも一緒にやっているけど、(藤井さんは)缶コーヒーをもらってもお金返しますという人なので、『もらうか?』みたいな感じ。知らないと、どんな人なのかという部分はあると思いますけど」

有罪判決が確定した後も、藤井さんを信じて支援を続けてきました。

若尾さん:
「一緒に回っている中で、かなりリアクションがいいので。涙ながらに藤井くんの手を握っているのを見ると、こっちをうるっときます」

■市民「裁判に時間かかると心配」…再審請求中の藤井氏の市政運営を不安視する声も

 地道な活動で「再起」をかけた市長選の結果は、藤井さんの勝利。現職の倍近くの票を得て、4年ぶりに市長に返り咲きました。藤井さんの当選に、市民からは期待の声があがっています。

市民の女性:
「ずっと信じていました。応援する人いっぱいいるので良かったです」

市民の男性:
「若さを前面に出してやっていただきたい」

 一方で、冤罪を訴え再審請求をしている藤井さんについて、市政運営を心配する声もあります。

市民の男性:
「私はあまり好ましくは思っていない」

別の市民の男性:
「裁判に時間がかかっていくと心配。向こう(裁判)に行くとなると、市役所を空けないといけない。それが一番心配」

藤井さん:
「再審請求は、市政への影響は全くありませんので、安心して市民の皆さまにはご理解いただき、一緒になって美濃加茂市を長い目でつくっていく、そのための力をお貸しいただきたい」

自民党と敵対したことにより、国からの支援が無くなるのではとの声については…。

藤井さん:
「政党を超えて政治に関わる方、市民の方々に理解いただけるように丁寧にご説明をしていくのがトップの責任。しっかり行っていきたいと思います」

“逆風”をはねのけて再び誕生した藤井市長。選挙戦で多くのしこりが残る中、その手腕が問われることになります。