北京五輪フィギュアスケート男子ショートプログラムで、3位と順調に滑り出した名古屋市出身の宇野昌磨選手。

 好調の要因のひとつは、実はスケート靴にありました。スケーターにとって命ともいえる「刃」を作っていたのは、地元・名古屋の工場でした。

 平昌の銀に続き、北京でも銅メダルに輝いた宇野選手。

 好調の理由について2021年12月、宇野選手はこう話していました。

宇野選手(2021年12月):
「今シーズンは特にいろんな調整がうまくいき、すごい自分の思う練習ができている。大半を占めているのが、間違いなく『スケート靴』かなと思っていて」

 スケーターにとって命ともいえるスケート靴。宇野選手の靴のブレードと呼ばれる「刃」の部分は、名古屋の工場で作っています。

 緑区の「山一ハガネ」、主に特殊鋼を加工・販売しているメーカーです。

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山一ハガネの社長:
「フィギュアスケートのブレードには『折れない・曲がらない・刃持ちがいい』というのが当然求められる」

 10年ほど前に、フィギュアスケーターの小塚崇彦さんと縁があり、ブレードを開発。

山一ハガネの社長:
「シューズを持ってこられたんですよね。シューズに付いていたブレードが曲がっているし錆びているし、普通のレンタルのシューズと全然変わらなかったんです。そんなんじゃ4回転なんて飛跳べるのかなって」

 小塚選手の頼みもあって、より強度のあるブレード作りに挑戦することに。その特徴は…。

山一ハガネの社長:
「10キロの塊をずっと削っていって約270グラムに。やはり一体物にする意味は非常に大きくて、これを2ピース・3ピースにしてしまうと、つなぎ目の部分が非常に弱くなりますので」

 従来のブレードよりも強度の高い材質を使うのはもちろん、靴底や刃など、それぞれのパーツを溶接しない製法、1つの塊から削り出すことによって強度の低いつなぎ目を作らず、「折れない、曲がらない」、強靭なブレードができるといいます。

山一ハガネの社長:
「今までは(刃が)曲がるのが当たり前、曲がったら滑り方を自分で合わせようっていうのが当たり前の環境だった。そういう不安が払拭される。選手も安心して自分の技に集中できますよね」

 そして、2020年からこのブレードを使っているという宇野選手。

宇野選手(2021年12月):
「スケート靴を3週間おきに替えてしまっていては、スケート靴を慣らす時間ばかりで、あまり自分の練習っていうのがまとめて取れていなかった部分があるんですけど」

 宇野選手は練習量が豊富な上、4回転ジャンプなどスケート靴への負担がかなり大きく、ブレードが折れたり曲がったり。これまでは3週間ほどで履きつぶしていました。

宇野選手(2021年12月):
「(今はずっと)同じ靴なので、どんどんいろんなことが洗練されていって、毎日同じところから練習がスタートできて。だからこそ毎日少しずつですけど成長していく(のを感じた)」

 その結果、2021年の全日本選手権で準優勝し北京五輪の切符を掴むと、先陣を切った本番の団体、ショートプログラムでも完璧な演技をみせ、銅メダル獲得に大きく貢献。個人でも2大会連続のメダルを獲得しました。

 山一ハガネの社長は、「宇野選手のスケーティングの手伝いができていると思えるだけで嬉しい」と喜んでいます。

 宇野選手の躍進は、地元の工場が足元から支えていました。