2022年1月15日に南太平洋のトンガで起きた海底火山の噴火で発生した津波の影響で、三重県鳥羽市のかき養殖業者は大きな被害を受けました。津波から1か月が経ち、いまだ復旧作業に追われるかき養殖業者の男性は、津波を受けても海に落ちずに残ったカキを「落ちないカキ」と名付けて受験生向けにプロモーション。ピンチを逆手に奮闘しています。

■津波で流されたいかだ600台…ブランド牡蠣「浦村かき」が受けた大きな打撃

 1月15日に南太平洋・トンガで起きた海底火山の噴火の影響は遠く日本まで及び、広い範囲で「潮位の変動」が発生しました。カキの養殖が盛んな三重県鳥羽市浦村町の生浦湾(おおのうらわん)では、60センチの潮位変動が観測され、約2000台あったカキの養殖いかだのうち約600台が沖に流されました。

【画像20枚で見る】津波受けても『落ちないカキ』として受験生に…海底火山噴火で被害受けたカキ養殖業者

カキ養殖業者の浅尾大輔さん:
「川みたいに流れていて、これは津波が来ているんだと…。夜中でしたので、どうなっているか見えなかったんですが、バキバキっていかだが折れる音がいたる所から聞こえてくる…」

 浦村で13年カキ養殖を行っている浅尾大輔さん(42)も、いかだ5台が流されました。さらに…。

浅尾さん:
「(いかだの)下に吊るしてあるカキがいかだに重なったり、ロープが絡んだりしてどんどん落ちていく」

いかだを固定するためのイカリのロープがカキを吊り下げたロープに絡まり、養殖していたカキが海中に落ちてしまいました。三重県内で生産量1位を誇る有数のブランド牡蠣「浦村かき」は、本来ならこの時期は出荷の真っただ中ですが、浅尾さんのカキの3~4割はダメになりました。

浅尾さん:
「商売道具の一ついかだがやられることは、僕らにとっては痛い。いま出荷最盛期ですので、手直しもしないといけない部分と、せっかくの稼ぎ時なので数が少なくなるので…。途方に暮れた」

あの日から1か月が経ちますが、この時もまだ復旧作業に追われていました。

■この数年頭を悩ませる“かきの大量死”…追い打ちをかけるように襲った津波被害

 浦村のカキ養殖業者は、ここ数年、他にも頭の痛い問題を抱えていました。

浅尾さん:
「3年くらいカキの“へい死”。出荷前にカキが死んだり、5~6割うちはやられましたね」

2019年から毎年、浦村かきの5~8割が大量死。カキが突然死ぬ「へい死」は、温暖化などによる急激な海水温の上昇などが原因といわれています。そこを新型コロナが襲い、三重県内に出された「まん延防止等重点措置」の影響で、飲食店などからの注文は2割ほどに減りました。

浅尾さん:
「今年はカキのへい死もですけど、コロナもトンガの津波被害もあって厳しい年…」

カキの大量死にコロナによる売上の落ち込み、さらに追い打ちをかけるように津波の被害を受けました。

■受験生向けに「落ちないカキ」としてプロモーション…津波被害でも海中に落ちなかったカキ

 浅尾さんは、三重苦の中で浦村に元気を取り戻すために、生き残ったカキに一つの光を見出しました。

浅尾さん:
「このカキは、あの状態でも下に落ちなかった。受験シーズンもありますし、『落ちないカキ』や『ど根性カキ』として食べてもらいたいとキャンペーンを始めました」

浅尾さんは、津波を受けてもいかだから落ちなかったカキを受験シーズンに合わせて、縁起物として広めることを考案。知人達の協力もあり、落ちないカキは多くの人から反響がありました。

浅尾さん:
「『受験生がいるから』とか、『ゲン担ぎとして食べさせたよ』とか…。始まって間もないですけど50箱は超えていますし、まだどんどん注文も来ている」

■レストランバスで応援…観光会社が「落ちないカキツアー」を発案

 浅尾さん発案のこの「落ちないカキ」は、意外な所からも注目されました。この日、浅尾さんが経営するかき小屋にやってきたのは一台の観光バス。

観光会社の男性:
「焼いたやつを、(バスの)上で食べながら(浅尾さんから)いろいろ話を聞かせてもらう」

“落ちないカキ”の話を聞いたレストランバスで地域を巡るツアーを企画している明和町の観光会社が、「カキ養殖業者の助けになれば」と、カキのバスツアーを企画。

この日は、本番に向けて関係者によるトライアルで、浅尾さんは“落ちないカキ”を使ったカキフライとカキご飯を振る舞います。

参加者の男性:
「公務員試験控えているんですけど、“落ちないカキ”を食べて備えたい」

別の参加者の男性:
「こういう景色見ながら食べられるのはすごくいい。海を感じながら食べられるって」

浅尾さん:
「僕らはお客さんに出してナンボですので、目の前でダイレクトに反応が聞けたのでうれしかった」

浅尾さん(ツアーで):
「こういう風にカキを作っていることを見てもらえるだけで、十分応援になっています。台風とか津波の被害にあうと意外と身が良くなったり、甘みが増したりするんです」

 浦村のカキ養殖業者は、これまでも幾度となく、自然災害の被害を受けてきました。しかし、浅尾さんは、「自分たちは元々海の恩恵を得ているので、災害とうまく付き合いながらおいしいカキを出荷していきたい」と前を向きます。