愛知県南知多町で、太陽光発電施設の建設を進める業者が住民の土地で木を伐採したり、道路を破壊するなどしトラブルとなっています。この強引な工事の進め方に、住民たちは抗議。業者は住民の反対運動を受け計画を一旦白紙に戻しましたが、荒らされた土地や失った緑など問題は残されたままです。

■ずさんとも言える業者の工事…重機に敷地を荒らされたと訴える住民

 海沿いに豊かな緑が広がる愛知県南知多町の内海地区。山は広範囲に木が伐採され、山肌がむき出しに…。太陽光発電施設を建設するため、名古屋の業者が大規模な工事を進めていました。

【画像20枚で見る】人の土地の木を伐採し道路も破壊…太陽光発電で業者が“強引な工事”に立ち上がる住民

名古屋の工事業者が購入した内海地区の土地はおよそ8万平方メートル。ここに太陽光パネルを設置し、売電や農業事業などを行う計画ですが、その工事の進め方を巡り大きな問題が…。

内海地区に住む内田司さん:
「ここはもともと畑だったけど、勝手に重機に荒らされた」

内海地区に住む内田司さんは、父親が所有する土地に重機で不法侵入されたと訴えていて、敷地は荒らされ伐採された木が散乱していました。建設工事の現場で、同様の被害を訴える住民が相次いだといいます。

2021年12月には、住民たちは業者が購入していない土地に無断で侵入しているとして、工事の停止を訴えました。

住民:
「やめさせてください。どこかわからなくなっちゃう(土地の)境界が。境界をはっきりさせてからやってください。いかんいかん、あそこの切り株がある所があの人の土地なんだから。境界の確認をするのに木がいる」

別の住民:
「境界の確認する気ある?」

業者の男性:
「はい。何度かお願いしています。連絡を待っている形です」

別の住民:
「相手から返事がないのにそれはどうなんですか?」

業者の男性:
「訪問していますもん」

別の住民:
「訪問なんて関係ない。相手がOKと言えば(いいが)。訪問だろうが電話だろうが。おかしいがね、違法行為です」

 被害にあったのは住民だけではありません。

南知多町議会議員の服部光男さん:
「この奥で伐採と造成が進みかけていました。町道を重機が通ってバリバリに舗装を割ってしまったから通行止めにした」

コンクリートが割れ、通行できなくなった町道。大型の重機が無理やり通ったことが原因で、破壊された場所は17か所にのぼります。

服部さん:
「故郷の土地を壊されてしまうような、そんなイメージがある。金額に代え難い価値があるので…。無残に事前に何の相談なしにというのが一番の憤りのいきつくところ」

ずさんともいえる工事。しかし、町が事前に計画を止められなかったのには、あるカラクリがありました。

■町のガイドラインを逆手に…ルールをかいくぐり工事を進める開発業者

 日照時間が長く比較的土地が安いことから、南知多町では多くの太陽光発電施設の開発が行われてきました。

町は大規模な開発を把握するためにガイドラインを作成し、事業用の太陽光発電に多い発電出力10キロワット以上の施設を作る業者に対して、事前に計画を提出するよう求めています。

しかし、今回の業者はそのルールをかいくぐっていたといいます。

南知多町の石黒和彦町長:
「彼らがやろうとしている事業が、10キロワット未満の太陽光発電。10キロワット未満は建物に設置するものを想定していたが、そういう解釈じゃない人が現れた」

 業者が設置を計画した施設1つ当たりの発電出力は、届け出が必要な10キロワットをわずかに下回る9.9キロワット。ガイドラインには従っていますが、こうした小規模な施設を91か所も建設する計画で、実態は大規模な開発と変わらないものでした。

石黒町長:
「(業者は)売電する日にちが決まっていると。それまでに突貫工事やっちゃってから後で謝ればいいと。それは人間として許せません」

町は業者に対して壊れた町道の復旧を指示していますが、一度始まってしまった工事自体を強制的に止められないのが現状です。

■行政の目をくぐり抜ける意図はない…業者は“届け出逃れ”ではないことを主張

 大きな混乱を起こした開発業者の「ディーエスエス」の木下誠剛社長に、購入していない土地への侵入や、木の伐採について追及しました。

木下社長:
「なかなか境界立ち合いしていただけなかったりとか…。公図上の面積と違っていたりしているので、僕たちの境界がここかと思っているところから、かなり引いて切ったつもりなんですけど…」

会社が購入した土地以外での開発を認めたうえで、土地の所有者への確認が不十分だったと説明しました。

 南知多町のガイドラインを逆手に取り、計画の提出を逃れたという指摘については…。

木下社長:
「ガイドラインの中の必要な項目についてのチェックは、(計画を)出していなくても事実確認をさせていただいて…」
Q南知多町への届け出逃れではない?
「絶対にないです」
町や県にも事前に相談していて、行政の目をくぐり抜ける意図はなかったと主張しました。

■住民たちの反対運動を受け計画を白紙に…適切な復旧工事が行われるかは不透明

 業者との争いが続く中、住民たちも行動を起こし始めていました。30人以上にのぼる山の土地の所有者1人1人に確認し、被害状況を詳細に把握。警察への被害届の提出を視野に、業者への抗議文を作成しました。

さらに、工事現場の近くの竹やぶに大量の「人間の目」の写真を吊るし、常に警戒をしているというメッセージを業者に伝え続けました。

南知多町議会議員の服部光男さん:
「地権者の思いを(業者に)伝えて、その思いがまかなえるような対策を業者がやってくれるまで見守りたい」

 こうした住民の運動を受け、2月13日に大きな動きが…。業者が住民説明会を開き、計画を白紙にする方針を示しました。

木下社長:
「不安な気持ちにさせてしまい、心より深くお詫び申し上げます。太陽光計画の中止のいきさつについて、水害対策、緑化対策、今後の対応について報告させていただきます」

住民の反対運動などを受けて銀行からの融資を取り消されたこともあり、これ以上の計画続行は不可能と判断しました。

木下社長
「賠償金なり、この後の植樹計画を誠心誠意対応させていただき…。(土地を)測量すればよかったのではというご指摘につきましては、今思えば十分反省しております」

住民:
「そういうこと(土地の測量)をなぜ最初からしなかったんですか?」

木下社長:
「ご指摘の通りです」

木下社長は、誤って伐採した木の賠償や緑化対策などを進めることを約束。住民の声が工事の一時撤退に繋がりました。

内海地区に住む内田さん:
「住民の声を集めたことで途中で工事が止まったことは一つの成果だと思います。住民が考えていることは、昔からの緑をどうするかとか、結果を見ないと判断ができないので、ちゃんと(復旧工事を)やっていただきたい、その一点だけです」

工事は止まりましたが、今後適切な復旧工事が行われるかどうかは不透明で、住民たちの不安は残されたままです。

 国は太陽光発電などの再生エネルギーを更に増やす計画です。2021年に発表された計画によると、2019年度の発電全体に占める再生エネルギーの比率は約18パーセントでしたが、2030年度までには倍となる36~38パーセントにまで増やす目標を示しています。太陽光発電は発電コストが安いため、今後も増えることが予想されていて、開発を巡る地域との共生が課題となっています。