2018年に上映された認知症の母を支える95歳の父の姿を描いたドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」は、動員20万人以上の大ヒットとなりました。この作品を制作した一人娘の信友直子(のぶとも・なおこ)さんは、父と母のその後を皆さんにお見せしたいと続編を制作。続編には、母の看取りを通して、夫婦の絆が描かれています。

■認知症の母を支える父の姿を描く…映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」

 2018年に公開された、90代の認知症の母と老々介護をする父の暮らしを描いたドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」は、動員数20万人以上を記録し、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットになりました。

【画像20枚で見る】認知症の母を支え続け看取った97歳の父…一人娘が記録した“夫婦の絆”

この作品の監督、撮影、語りを務めたのは、一人娘の信友直子さんです。そして、2022年3月には、映画の続編「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」が公開されました。前作の反響は信友さんも予想していなかったと言います。

信友さん:
「前作公開時は(ここまでの反響を)本当に予想していなくて…。父も母もごくごく普通の田舎の年寄りなので、皆さんがご自身の親御さんに重ねて見てくださったのかなと思います」

 前作では、広島県呉市で暮らす信友監督の母・信友文子さんが、認知症を発症した姿が描かれていました。

母の文子さん:
「これどうしたん?」

信友さん:
「ミカン箱にもあるんよ」

何個もリンゴを買ってくるようになり、家事もだんだんできなくなっていった文子さん。

そんな母を支えたのが、当時95歳の父・信友良則さんです。掃除に洗濯、料理に至るまで、この年から家事を始めました。

母の文子さん:
「昼はどうする?もう昼?」

父の良則さん:
「どこへ行くか?」

文子さん:
「お昼ですか?」

良則さん:
「オリーブ?」

 良則さんは、仲睦まじく文子さんを支えていました。

信友さん:
「人間悲しくてもお腹はすくし、お腹すいたらおいしいものが食べたいわけだから、(映像には)色んな“禍福”を全部入れ込んだ作りにしたいなと思いました」

■その後の父と母を見せるのは「使命」と続編制作…病状が悪化した“母の看取り”までを描く

 信友さんが続編の制作を決めたのは、母の文子さんが亡くなったことがきっかけでした。

信友さん:
「『今、お母さんどうされているんですか?』とか『お父さんお元気ですか?』とか、皆さん気にしてくださるので、続きを皆さんにお見せするのが使命みたいに感じて」

 2018年9月30日の午後10時に、文子さんが救急搬送。続編では、病状が悪化した“母の看取り”までを映し、夫婦の愛情や人生の終え方も描いています。

良則さん:
「(病院で)おっ母や。はよう良うなってのう…」

文子さん:
「手がかかるようになってごめんね」

良則さん:
「そんなことはないよ」

 文子さんは、脳梗塞で夕食の最中に突然倒れ、家には97歳の良則さんが一人残されました。

そして、毎日片道1時間かけて、文子さんの見舞いへ行くように…。

良則さん:
「(ベッドの文子さんへ)寒いことはないか?」

良則さんは、いつか帰ってきたら支えてあげられるようにと、トレーニングにも励みました。

信友さん:
「認知症だった頃は、2人で暮らしていたから物理的な距離が近かったんですけど、入院したら心の距離はどんどん縮まっていって…。父はとにかく母のところに通って、本気で家に帰って来いって思っているんですよ。『どんな姿になっても、あんたが家におった方がワシはええんじゃ』と。『寝たきりになって、おしめを替えんといけんのなら、ワシがおしめ替えてやるけん』。ここまで母のことを思っているんだっていうのは、ちょっと驚きました」

■日に日に病状が悪化する母…延命措置である“胃ろう”を選んだ父と娘

 しかし、その後も病状は悪化…。家族が直面したのは、お腹に穴を開けて直接栄養を流し込む“胃ろう”と呼ばれる延命措置でした。

のどの筋肉が麻痺し、口から食べると肺炎の危険があるためです。

信友さん:
「お母さんはどんな気持ちなんかね」

良則さん:
「わからんのう…」

信友さん:
「胃ろうはね、延命治療の一つなんだって。私らの都合で胃ろうにしたけど、えかったんかね」

良則さん:
「そりゃわからんが、助けてやりたいとは思うわいのう」

 胃ろうを選んだことについて信友さんは…。

信友さん:
「正直なところ何がよかったかはちょっとわからないですね。ガイコツみたいになっていた母が、(胃ろうで)ふっくらして血色も良くなったんです。父と二人で元気になったねって喜んだのをよく覚えているので、家族としては胃ろうにしてよかったって思うんですけど…。でも反面、母の立場になって考えると、私たちが見舞いに来ているときはいいけども、それ以外の時はただ天井を見て寝てるだけで。(胃ろうが)よかったのかは正直わからなくて、それを考え出すと今も眠れない夜があります」

■最期の2週間たくさんの楽しかった思い出を話して…父と娘で母の最期を“看取る”

 東京を拠点に活動する信友さんですが、コロナ禍で仕事が白紙に…。そこで、広島に戻ることができ、母の最期にも寄り添えたといいます。

信友さん:
「本当に危篤で亡くなる直前には、第1回目の緊急事態宣言が解けた直後だったので、私たちも面会に行けたんです。最期の2週間ぐらい父と私は母のもとに通って、母との楽しかった思い出をたくさん話して…」

 そして、2020年6月13日の夜…。

信友さん:
「もうね、頑張らんでもいいんよ。お母さんありがとね」

良則さん:
「ありがとね。ワシも、ええ女房をもろた思うちょります」

 この映画を、“家族”のことを改めて考えるきっかけにしてほしい…。

信友さん:
「見終わった後に色んなことを大切な人と話してほしいなって。私と父も、ほとんど接触のない二人だったけど、こんなに話し合うようになって…。母のことも深く二人で考えましたし、私も父のことを深く見られるようになったので…。母が認知症にならなかったら、私も家族のこと考えなかったから、本当にギフトだなって気がします」

この映画は、超高齢社会の中で生きていく私たちに大切なことを気付かせてくれる作品です。

映画「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」の上映情報は、公式ホームページに掲載されています。