
日本は、国土の7割を森が占める“森林大国”だ。外国産に追われ、国内の林業は長くジリ貧状態が続いているが、空前のアウトドアブームの中、森に新たな付加価値が生まれている。それが、森のレンタルサービスだ。憧れの山を自分のものにして、キャンプをしたりログハウスを作ったり、使い方は自由。日本の林業のミライを救うかもしれない「森のレンタル」とは…。
■利用客「自分好みに」「夢叶った」…森林をキャンプ用に貸し出す人気の「フォレンタ」

岐阜県東白川村は面積の9割が森林だ。この森で2020年から画期的なサービスが始まった。
【動画で見る】年6万6千円で“300坪の森使い放題”…森林大国ニッポンに『森のレンタル』が照らす未来

キャンパーの人たち向けの森林レンタルサービス「フォレンタ」だ。年間6万6000円(税込)で、1区画300坪を自由に使える。

電気も水道も通っていない不便な森だが、空前のアウトドアブームの中、憧れの山を自分のものにできるとあって利用者も多い。
フォレンタの代表、田口房国(ふさくに)さん(45)。

田口さん:
「もともとは草ボーボーのところで、いろいろ枝だとか、木の切れ端だとか、いろんなものが林内に散乱している中で、借りられた人はまずはその辺を片付けて、草を刈って、テントを張ったりして…。落ちている木を焚き木とかに使ったりしてやっていらっしゃいますね」
湧き水で淹れたホットコーヒーに切り株で作ったテーブル…。

たき火で炒めたキャンプ飯や秘密基地のようなログハウス…。

電気も水道も通っていない不便な森だが、魅力がいっぱいだ。

愛知県清須市から来たこちらの男性は、週末を家族と過ごすために森をレンタルしている。

清須市から来た男性(利用歴3か月):
「普通のキャンプだったら、キャンプ場に行けばいいかなと思うんですけど、自分色に自分の好みにいろいろ変えられる」
名古屋から来たこちらの男性は…。
名古屋市から来た男性(利用歴3か月):
「一目ぼれで…。沢があって、夢が叶ったみたいな感じですね」
夫婦で森に落ちていた木を集め、隠れ家を作った。

田口さん:
「林内のものをいろいろ使うことによって、すごく林内がきれいになっていくんですよね。こういうキャンパーだったりとか、たくさんの人が関わることで、森林そのものの活用を林業従事者だけに頼らずに、いろんな人でみんなできれいにしていく」
放置されていた森に人が入ることで、環境に変化が現れ始めた。
■今では地域ぐるみのサービスに…ドイツで週末に大人が森で遊ぶ姿を見て着想した「森林レンタル」

田口さんは、祖父の代から製材業を営んでいる。年輪が美しい「東濃ひのき」は、地元の誇り。伊勢神宮や、東京オリンピックの選手村にも使われた。

しかし、国産材は外国産に追われ、価格は落ち込むばかり。最近のウッドショックで持ち直したが、林業は長年ジリ貧だ。
田口さん:
「昔はトラックいっぱいの木を切れば、それで1か月間生活できるみたいな時代があったわけですけど、今はそうではない。ここに住んでいる人たちも、自信や誇りを失っちゃうんですよね。だから『こんなところに住んでいないほうがいいぞ』と、『大きくなったら名古屋とか、東京だとか行け』っていう風に、子供にも言ってしまう。その要因の1つにもなってきたかなと」
木を切る以外にも森の価値を見つけたい。田口さんは2015年、研修でドイツを視察。

都会の人が週末になると森で遊ぶ姿を見て、森をレンタルするサービスを思いついた。当初は、田口さんが所有する山だけで始まったレンタルサービスだが、今では地域ぐるみで、77区画の森が貸し出されている。
田口さん:
「”森林の価値”って本来、木材だけの価値じゃないし、『あ、こんな活用もできる』『こうすればお金ももらえる、ビジネスにもなる、自分たちも食っていける』、そういう風に見れる要素っていうのは、まだまだ森林にはたくさんあるんです」
■「薪」は煙が出にくいと人気に…キャンプブームでヒノキに付加価値

東白川村役場産業振興課では、村の面積の9割を占める森の有効活用が長年の課題だった。
東白川村役場産業振興課の担当者:
「昭和40年代に別荘ブームっていうのがありまして、そのときに山を売ったんですよ。結果的に所有者不明の山林がたくさん出ているというのも現状で…。村としましても森林空間を使った交流人口を増やすということで、家を東白川に建ててみたいとか、ここの木を使って建てたいとかっていうようなことの、次の発展につながっていけばいいってことで…」
アウトドアブームの中、ヒノキに新たな価値も見つかった。東濃ひのきを使った「薪」だ。火が付きやすく、煙が出にくいと人気になり、一束6キロの薪が年間4万束、名古屋のホームセンターなどに出荷されるようになった。

一般社団法人 山に生きる会代表理事:
「山を一つの生活の中に取り込んでいけるような活動をしたい。山の資源を少しでも生かしていく。薪であるとかそういうものを、少しでもお金に換えていく」
■便利さとは違う豊かさを…レンタルで生み出す森林の新たな価値

この日、田口さんが向かったのは、静岡県浜松市。天竜川の支流、気田川(けたがわ)の周りに広がる400ヘクタールの森で、フォレンタのフランチャイズ化の話が進んでいる。

森の所有者は、代々林業を続けてきたが、木材が売れずほぼ廃業状態。木の価値が下がった山は、売ることも難しい状況だ。
所有者の男性:
「税金もかかりますし、お金が出ていくばっかりなんですよね。相続するにしても、何らかの収益がないと相続する人が困っちゃうじゃないですか」
森は固定資産税がかかるほか、災害や山火事が起きた際、所有者の責任が問われる。不動産価値はほぼゼロ。多くの山が“負の遺産”と呼ばれている。

田口さんは、そんな森にも新たな価値を見出していた。
田口さん:
「(川を見て)めちゃめちゃきれいですね、これ。今すぐにでも泳ぎたくなるくらい。これはいいな。キャンプやりながら、昼間はここで水遊びしてとかって全然できると思う。サウナテントやって、出てここに飛び込む。やりたいでしょ」

森の恵みが美しい川を作っている。この森では、2022年9月からレンタルの募集を始めることになった。
田口さん:
「7区画で、例えば税抜き9万円とかで1区画貸し出すとして、7区画なんで63万円ですね。フランチャイズ料が2割なので、手取りで50万円くらい年間入ってくるというイメージです」
現在、フォレンタでは岐阜のほか、静岡、京都、岩手でフランチャイズ契約を結んでいる。

国土の7割を森が占める“森林大国ニッポン”。森から見える、私たちのミライとは…。

田口さん:
「本当に豊かさってなんだろうって、少なくてもこの森林がなんらか活用されることで、今までにみんなが持っていなかった『不便だけどなんかここに来たい』って思える、『便利さとはまた違った豊かさ』っていうのが森林にある気がするんで、とにかく僕の中では森林を開放していきたいんですよね」