感染の「第7波」で、救急医療の現場がかつてないほど逼迫している。「断らない救急」をモットーに掲げてきた救命救急センター・ERの現場も、あまりの異常事態にこれまでの信念を貫けない状況に追い込まれていた。

■感染広げないよう「熱中症が濃厚」でもまずコロナの聞き取りから

 中川区にある名古屋掖済会病院の救命救急センター、通称「ER(イーアール)」。

【動画で見る】『断らない救急』掲げるERですら受入困難

 新型コロナ第7波の真っ只中で、名古屋が36度の猛暑日となった8月1日、男子高校生が部活動中に倒れ、運ばれてきた。状況から軽い熱中症とみられたが…。

医師が防護服を着て、コロナに関する聞き取りをしていた。

ERの中島隆秀医師:
「きょう朝、熱はなかった?咳とか鼻水とかもなかったです?学校で周りにコロナとか熱で休んでいる人いないです?」

中島医師:
「熱中症かコロナって判断つかないんです。両方とも熱が出るじゃないですか。コロナを否定しておきたいのがすごく強くて」

熱中症による発熱か、コロナによる発熱か。1つ1つの処置が、コロナを念頭に置いて行われていた。

中島医師:
「(熱中症なら)体温を下げるのが一番の治療なので、扇風機まわして、気化熱で熱を冷やしてあげる。ただコロナだったら、扇風機まわしたら部屋中にコロナまっちゃうじゃないですか。コロナ流行り始めてからは、熱中症の標準治療ができなくなってきちゃった」

■ER受診の4割が「発熱」 本来の救急医療に支障をきたしかねない状況に

 掖済会病院のERは、「断らない救急」を掲げ、年間1万台の救急車を受け入れている。しかし、この第7波では「過去に例がない」状況になっているという。

ERの小川健一朗医師:
「かなり陽性の人が紛れ込んでくる。1日中熱ばっかりみたいな感じになっていまして。発熱をひたすら救急外来でみているような感じですね」

 ERには今、昼夜問わず発熱患者が殺到。前日の日曜日(7月31日)も、ERを受診した患者約170人のうち、4割ほどの70人が「発熱」した患者だった。

この日も、診察やPCR検査を希望する人からの電話がひっきりなし。

受付の女性:
「多いですね、問い合わせほぼほぼ熱です。『検査はやれないけど、それでもいいなら来て頂ければ』と言って、問診して(患者が)『検査やって』って言って『できません』って答えると、『じゃあいいです、帰ります』と帰ったりします」

 そんな中…。

受付の女性:
「陽性が出たって言って、窓口にやってきた」

ERの山田真生医師:
「家族?」

受付の女性:
「本人が。『(抗原検査)キットで陽性出たんです』って窓口にやってきて、窓口にいた私たちノーガードだし、びっくりしちゃって、とりあえず(外の)コンテナに移動してもらって。まだ詳細も聞けてないんですね。しかも車で送ってもらって、送ってくれた車帰っちゃったって言ってて…。どうしましょう」

 掖済会のような大規模な病院では交通事故や重い病気など、重症患者の治療が主な役割だ。しかし発熱で訪れる患者が多すぎて、本来の救急医療に支障をきたしかねない状況になっていた。

■6波と7波では「比べ物にならないほど違う」 医療のひっ迫で受け入れ困難に

 そこに追い打ちをかけているのが、「医療全体のひっ迫」だ。救急から、吐き気と排尿困難を訴える40代男性の受け入れの打診が入った。しかしこの男性は、感染した母親の濃厚接触者となり、隔離生活中だという。

消防(電話):
「あー、だめですかね。直近で3件断られていて、厳しいですかね…」

ERの医師(電話):
「検査はできますが、入院はできません」

すでに3つの病院に断られているという。多くの病院でベッドが満床となり、救急の受け入れが困難となっている。

この状況は、掖済会も例外ではない。コロナ患者専用に用意してある24床はすでに満床。コロナ以外、一般患者のための約600床もほぼ満床で、他の病院と同様、すでにベッドは足りない状態に陥っていた。

 2021年2月の第6波のときも、今と同じように発熱の患者などが相次いでベッドは満床となり、救急を断らざるを得ない事態となっていた。ただ、6波と7波では「比べ物にならないほど違う」と現場の医師は話す。

ERの蜂矢康二医師:
「あのとき(第6波)はまだ、受けてもまだ、救急でここでいったん受けて、入院が必要なら他の病院にお願いするというのがなんとかギリギリできていたんですけど、今は明らかにそれができなくなっていて…。今はもう行くところがないんですよね。うちの病院もいっぱい、他の病院も受けられない。救急車をもし受けたとしたら、ここにずっと患者さんが並んでいくだけなんで」

■「コロナだったら最悪」くも膜下出血疑いも“発熱”でICUに受け入れできず

消防(電話):
「午後2時くらいから、『言葉がでてこない、頭痛がする』という訴えがあります。左のくも膜下出血の疑いがあると仰ってみえて…」

 くも膜下出血の疑いがある40代女性の受け入れの打診が入った。コロナのベッドは空いていないが、こういった重症患者用のベッドは、万が一の時のために開けてあった。しかし…。

ERの森岡慎也医師(電話):
「もしもし、意識レベル教えてください」

救急(電話):
「レベルはクリアーです。すみません、熱がちょっとありまして8度4分という状況なんですが」

森岡医師(電話):
「ごめんなさい、8度4分?38度4分なんですね、なるほど…」

この患者も発熱…。感染の疑いが生じた。

森岡医師:
「ICUならいいんじゃない?」

看護師:
「逆にコロナだったら、ICUだったら最悪ですね」

別のERの医師:
「3C(コロナ病棟)なんとか空けられないかな」

看護師:
「なんとか空けられないでしょ…」

コロナかどうかは、現時点では不明…。ただ、空いているICUに入れた後にコロナが判明すれば、他の重症患者に感染が広がるおそれがある。

検査のために一旦受け入れて陽性が判明したとしても、コロナのベッドに空きはなく、また病院を探さなければならない。

蜂矢医師:
「さすがにちょっと、(コロナ関係は)ダメです」

森岡医師(救急と電話):
「すみません、ちょっと厳しいですね、いま。ごめんなさい。どうしてもダメだったら、また声かけてもらっていいですか。申し訳ないです、すみません」

■「5類」への引き下げが解決につながるか?

 現場のひっ迫を受けて国は、コロナを「5類」へ引き下げる検討を始める見込みだ。現場の負担も変わっていくのだろうか。

蜂矢医師:
「第8波、第9波もあったら、たぶん全く同じだと思います。なんとかならんかなって思いますけど。僕らは決められないので。やるしかない。『5類なら別にかかってもいいや』くらいになっちゃうかもしれないですよね。患者数ばかり増えて、っていう可能性はありますけどね。うーん、難しいですね」

ERの土井恵理看護師:
「どこも(患者を)とらないんだったら結局、その人の行き先ないならとらなくてはいけない。ベッド調整したり準備したりで、頭働いてないです、身体が動くだけみたいな」

「苦しんでいる人を、一刻も早く助けたい」。そんな、医療スタッフの信念を貫けない事態が続いている。