長引く新型コロナの影響でいま、キャンパスに来る学生が減り、大学の「学食」の閉鎖や休業が相次いでいる。学生の憩いの場を取り戻すために立ち上がったのは、『学生起業家』だ。

■コロナ禍の「学食」…オンライン授業や混雑避ける学生で閉鎖や休業相次ぎ半数以下に

 愛知県日進市の愛知学院大学「日進キャンパス」。

【映像で見る】学内の人減り閉鎖や休業…窮地の学食を自分達で「心の隙間も埋める所に」学生起業家の奮闘

学食には学生の姿があったが…。

ひと際寂しい一角があった。

愛知学院大学の担当者:
「現在、ここはコロナの影響で店舗を一時閉めております。今はオンライン授業が入ったりだとか、混雑を避ける学生も増えてきていますので、食堂を敬遠する学生も増えてきている」

 コロナ禍でキャンパスを訪れる学生が減り、採算が取れなくなった「学食」が相次いで閉鎖や休業に。このキャンパスではコロナ前には7店舗あったが、現在営業しているのはわずか3店舗(2022年8月8日時点)。

学内最大の学食は、コロナ対策のため席数を減らし、採算がとりやすいメニューだけに絞って営業している。

4年生の女性:
「食堂がいくつかあるんですけど、いつもは一番空いているところを友達と選んでいけるんですけど、開いているところが限られているので、そこに人が密集してしまって行けなかったりとか…」

2年生の女性:
「もうちょっと数が増えてほしいです。基本、揚げ物中心なので、もうちょっと焼き物とか煮物が出てくると嬉しいな」

 大学生協の連合会によると、全国の大学の学食の売上はコロナ前の2019年に比べて2020年は約7割、2021年は約5割も減少しているという。

コロナ禍が生んだ学食の危機だ。

■採算の取れる学食を…再起のために立ち上がった学生起業家

 名古屋市昭和区の南山大学の学食も同様の状況だった。

8つあった「学食」の半分が閉鎖や休業に…。

学内にあるコンビニは、いわば「学食難民」となった学生であふれ返っていた。

1年生の男性:
「のり弁です。ローソンで買いました。食堂は、毎日人がめっちゃいて、12時45分ぐらいに行くと満杯で座れないっていうのはよくありますね」

2年生の女性:
「(食堂は)あまり行かないです。大人数で行くと席がなくて、次の授業ぎりぎりになったり。向こう行くか、奥のリアン(食堂)に行かないといけないので、ここら辺にあったらいいんですけど…」

2年生の男性:
「食べる場所は欲しい。人が多過ぎて入りきらない」

 そんな状況をみて立ち上がったのが、4年生の横井優樹さんだ。

横井優樹さん:
「コロナになってしまって、多くの学食が休業ですとか閉店してしまうなかで、すごく食べるところがなくなってしまったりとか…。一学生としても、同級生や後輩を見ていても何かできないかなと思って」

実は横井さんは「学生起業家」だ。学生向けのイベントなどを企画する会社を経営している。

横井さんの会社が飲食店と協力し、閉鎖した学食の跡地に新たな学食を作ることにした。

横井さん:
「ここがガラス張りになっていると思うんですけど、今回、オープンキッチンで料理を作っているところも見られるようにしています」

コロナ禍で学食の経営が厳しくなっている中、横井さんはあることを意識していた。

横井さん:
「これから学食自体が盛り上がるためには、外部の人も来ていただいて食べたいなと思っていただく。そこで、ビジネスとしても潤っていくことが、結果として学生さんにとってもプラスになることも大きいと思います」

「外部からの客を取り込み、採算の取れる学食に」。そもそも学食は、客である学生の大半は平日の昼に集中する上、単価が低いため採算がとりにくいという問題があった。

そこで、学生以外の一般の人も足を運びたくなるような学食を目指した。

■スイーツや本格カレー…外部からも来店したくなるメニュー作り

 この日は、学食の運営に協力してもらう飲食店で店長と打ち合わせだ。一般の人を呼び込むために、数々の工夫が用意されていた。

まずは、オシャレなスイーツの販売。直売の工場を併設し、季節ごとに変わる色とりどりのケーキやゼリーを販売することに。

店長:
「ゆくゆくは近隣の人にも、『ここにおいしいスイーツが、ここに学食のメニューがあるから食べに行く』」

横井さん:
「お土産スイーツを買って家族で食べるとか」

 さらに、そのオシャレな魅力を外部の人にも広めるために、流行に敏感な南山大学の学生らがSNSでPRを手伝うことに…。

PR担当の女子学生:
「パッケージいいと思う。パッケージかわいい方が…」

別の女子学生:
「インスタに載せるんだったら、1枚ずつ写真撮って統一感出していきたくない?」

PR担当の女子学生:
「食堂がオープンすることになったので、学生ならではの視点で発信できるものを私たちが考えたいなと思って」

PR担当の男子学生:
「僕自身、ほとんど食堂に行ったことなくて、スイーツめちゃめちゃあるのは、自分もめちゃめちゃ好きなので楽しみだなと思って。そういう活動の中で僕たちが広告していくのは、関われていいなと思っています」

他にも、本格的な「スパイスカレー」(1000円 ※水曜日限定)や「パスタ」(1000円 ※木曜日限定)など味でも街の飲食店に負けない日替わりメニューを提供したり…。

南山のシンボルカラーである青の「南山クリームソーダ」(400円)など大学とのコラボメニューを発売したりと、「この学食に行きたい!」と思わせるための工夫が満載だ。

横井さん:
「南山という場所。緑があって文化的な空間である大学という場所にあること、『大学なのにこんなもの食べられるの』っていうところが、わざわざ足を運びたくなるメニューのポイントなのかなと思います」

■初日は大盛況…空腹を満たすだけでなく「心のすき間も埋めたい」

 そして、約半年の準備期間を経て、オープン当日を迎えた。営業初日にもかかわらず、行列ができるほどのお客さんが。

ショーケースには色とりどりのスイーツが並び、厨房は次々に入る注文に大忙し。たくさんの学生たちが、待望の学食に目を輝かせていた。

2年生の女性:
「すごくおしゃれで、女子大生に人気になりそうだなって思いました」

4年生の男性:
「SNSとかで見てすごく楽しみで、一番最初に来ようと思って。すごくうれしくて、これからいっぱい利用したいと思います」

2年生の男性:
「入った時からずっと(学食が)閉鎖してたので、閉鎖してる状況が普通だったので、こういう風にいろいろな食べれる場所があってうれしいなっていうのは思います」

3年生の女性:
「デザート(がある学食)自体もなかったと思うので、大学生にとっていいかなと思います。大学生活楽しめてうれしいです」

そして、新たにターゲットとしていた学生以外の客も…。

南山大学のOB:
「ここの大学のOBです。どれも甘くておいしくて。(今後も)利用していきたいと思っています」

コロナで窮地に立たされた学食。学生の“憩いの場”が、ようやく取り戻された。

横井さん:
「感無量だなと思っています。地域に開かれているのもポイントですので、地域の住民と接する機会だったりとか、そういったものを通して大学の賑わいが戻ってくるような。空腹を満たすのはもちろんですけど、心のすき間も埋めるような、そんな温かい場所になって、いつでも戻ってきたいと思っていただけるようなレストランになってくれたらいいですね」