子供が1人でも立ち寄れて、無料や低額で食事ができる「こども食堂」。名古屋市のこども食堂で抱えている課題について取材しました。

■全国に7331… 2016年から23倍に増加した「こども食堂」

「こども食堂」は、子供が一人でも行くことができる無料または低額の食堂で、民間の自発的な取組みです。

NPO法人・全国こども食堂支援センターによると、こども食堂は全国で7331あり、2016年から約23倍に増えています。全国の公立中学校の数は9371校(文科省:2019年)で、1校につき1つに近い状況です。

東海3県には、愛知県に293(うち名古屋が83)、岐阜県に112、三重県に102あります。

【動画で見る】「孤立した子に存在伝わっているのか…」2016年比で23倍増の“こども食堂” 奮闘するスタッフと抱える課題

 名古屋市守山区にある「瀬古の家」は、老人ホームが月に1度開いています。地域の交流の場として、子供たちもご年配の方も嬉しい食堂です。

北名古屋市の「平田寺(へいでんじ)」というお寺でも、月に1度開催されています。住職の妻が主催していて、観音様の前で食事を囲みます。

「お寺といっても精進料理ではなく、少しはお肉も入っています。ぜひお越しください」と話していました。

■週5日の「こども食堂」は多角経営する企業が費用負担 心強いボランティアも

 名古屋市東区のビル2階にある「こども食堂Qchan(キューちゃん)」。店内はお洒落なレストランのようです。

こども食堂Qchanの藤江さん:
「メインの料理があって、汁物があって、副菜があって、あとはデザート」

食堂を切り盛りする藤江由美子(ふじえ・ゆみこ)さんを中心に、この日は専属スタッフやボランティア合わせて4人で30人分の食事を作ります。

藤江さん:
「見た目でいうと子供たちが好きな野菜じゃないんだけど、子供たちが好きなマヨネーズ味にして、ポン酢とすりごま(を和える)」

この日は、ブロッコリーとスナップエンドウのサラダに、メインはおでんです。

藤江さん:
「マヨネーズは市販だけど、これはご寄付いただいたポン酢。このポン酢すごくおいしい。昨日はシイタケもいただいて。(リンゴを寄付してくれたのは)東京の方なんですけど、1年前はお餅もくださった方ですね。ニンジンをいっぱい頂いたから、おでんにもニンジンが入っています。おでんにニンジン?って思ったけど、割とおいしいんですよ」

もらった食材は、こども食堂の運営において大きなウエイトを占めます。取材した12月15日は、このあとのクリスマスを意識したと思われる食材も届いていました。

藤江さん:
「うわ~、すごーい!(寄付してくれた人が)クリスマス用ってことでお気遣いいただいたんだと思います。チキンレッグ」

 この食堂を営むのは、ウェブデザインをはじめ、チョコレート店や農園、葬儀場など多くの系列会社がある企業で、藤江さんもその企業の社員です。

藤江さん:
「経営理念に『永続的な社会貢献』を掲げています。単体で継続するのはとても無理なんですけれども、親会社からここの運営費は出してもらっていますので、継続して運営することができています」

グループ会社の農園で採れた野菜も使って出費を最小限にすることで、一般的なこども食堂が月1回程度なのに対し、月曜日から金曜日まで週5日開催しています。

ボランティアで運営に協力してくれている人もいます。

ボランティアの女性:
「やることないから、暇だから。自分のためです」

藤江さん:
「すごい戦力なんですよ。本当に手早いし、見てください、このプロフェッショナルなよそい方。本当にありがたい。皆さまのおかげでやれています。我々だけでは本当にできません」

 午後5時にオープンすると、子供たちがやってきました。

藤江さん:
「ニンジンはいける?」

男の子:
「ニンジンはちょっと…」

藤江さん:
「ちょっとじゃない、残しちゃだめだよ」

この日のメニューは、おでんにさつまいもとブロッコリーのみそ汁、ブロッコリーとスナップエンドウのサラダ、デザートにりんご。子供たちも美味しそうに食べていました。

小学4年生の女の子:
「おいしい。(前は)作ってもらっていたけど、お母さんの仕事が忙しくなってからここに来るようになった」

3歳の娘の母親(会社員):
「週に1回来るか来ないかですね。家だと決まったものしか食べないんですけど、ここだと割と出されたものはちゃんと手を付けてくれるので助かっています」

別の母親(会社員):
「3回目かな。今日は夜主人がいないので、2人分作るのってなかなか…1人とちょっと分なので」

この日は21人の親子が、藤江さんのご飯を食べていきました。

藤江さん:
「フルタイムで毎日働いて、子供を抱えて子育ても家事も仕事も全部やらなきゃいけない状態がどういう状態か、本当に痛いほど分かるものですから。ここに来るママたちのフォローもさせていただくつもりでやっています。『あそこはどんな子が行っても、誰が行っても大丈夫な場所なんだ』と。開かれた場所、気軽に来てもらえるような空気づくりはすごく心掛けています」

 こども食堂Qchanは名古屋市東区代官町にあり、祝日を除いた月~金曜日の午後5時から開かれていて、中学生以下は無料、高校生以上は500円以上の寄付を求めています。手伝ってくれるボランティアも、連絡なしの来場を受け付けているということです。

■物価高で開催1回あたり3000円負担増…こども食堂が抱える課題

 こども食堂の数は増えていますが、課題も多いといいます。全国こども食堂支援センター理事長で、東京大学・先端科学技術研究センター特任教授の湯浅誠さんに話を伺いました。

全国こども食堂支援センター・むすびえの湯浅理事長:
「物価高の影響を感じているこども食堂さんが82.7%。対して、品数等を変更したというところが6.9%なので、多くの方たちが物価上昇の影響を参加者に転嫁させずに踏みとどまっているということで、皆さん頑張っておられるんだと受け止めています」

全国のこども食堂にアンケートをとった結果、2021年に比べ、開催1回あたり約3000円負担が増えているということです。

 こうしたことを受け、例えば名古屋市は1月から、物価高の支援としてこども食堂にレトルトなどの食品セットを提供しています。

湯浅理事長によると、全国のこども食堂にとったアンケートでは、物価上昇に対し行政から緊急支援策があったと回答したのは27.8%、民間からは43.0%あったということです。

 また、「こども食堂Qchan」の藤江さんは、「本当に支援を受けたい孤立した子供たちに、こども食堂の存在が伝わっているのかが、個人情報保護のため情報を得られずわからない」と、もどかしさを感じていました。

湯浅理事長は「より子供たちが気軽に利用できるようになって、学校・家庭以外で子供たちがホッとできる、いわゆる『第3の場所』になれれば」と話しています。

 全国こども食堂支援センターではHPなどで継続的な寄付を募集しています。月額1000円から申し込みできます。

2022年12月16日放送