岐阜県にある貯水量日本一のダム「徳山ダム」。2023年3月で完成から15年となる。ダム湖に沈んだ村の住人だった男性が依然、徳山ダムを“ムダ”と批判している。その理由、そしてダムを取り巻く今の状況を取材した。

■日本一の徳山ダムは「日本一のムダ」…沈んだ村を舞台にした映画の原作者

 福井県との県境、岐阜県揖斐川町。2008年に完成した「徳山ダム」。

【動画で見る】日本一のダムは“ムダ”なのか…岐阜の『徳山ダム』発電・利水は計画以下 “再エネと災害対策”での需要は

総貯水量は6億6000万トン、浜名湖2個分という日本一大きなダムだ。

2022年11月、揖斐川町では、ダムの底に沈んだ「徳山村」を舞台にした、40年前の映画「ふるさと」の上映会が開かれた。

ふるさとを離れることを余儀なくされた、多くの村出身者も鑑賞に訪れた。

スクリーンに映し出される、古い映像に見入る徳山村の元住民たち。

徳山村出身の女性:
「全部分かっとるで、どっこも懐かしい」

別の徳山村出身の女性:
「とっても良かった。懐かしかった、泣いてばっかおりましたがね」

上映会場の一角で、本にサインをし、握手を交わす男性は、徳山村出身の平方浩介(ひらかた・こうすけ 86)さん。

映画の原作者だ。

平方浩介さん:
「徳山ダムというのは、洪水調節のためにのみ存続しているというような感じで、要するにムダ」

■計画公表から51年で完成も…発電能力は計画の半分以下 水の供給もゼロ

 巨大なダムの計画が公表されたのは、高度経済成長期の1957年。

下流域の発展に使う大量の電気と水、さらに治水を担う「多目的ダム」で、総事業費3350億円の大規模な公共事業だった

計画の公表から51年が経った2008年に、徳山ダムは完成した。

小学校の教師だった平方さんは、岐阜市へ移住し、愛するふるさと「徳山村」に関する本など、6冊を執筆。2022年11月、2年ぶりに新刊を出版した。タイトルは「日本一のムダ 徳山ダムの話」。

<「日本一のムダ 徳山ダムの話」より>
「日本一のムダ」とからかわれてから七十年近く、その造り始めからを語り、地図から抹消された「徳山ムラ」の顛末を語ろうというのが筆者の意図である。

平方さんが「日本一のムダ」とする理由、その1つは計画と現状の差だ。

当初、発電能力は40万キロワットで計画されたが、採算が合わなくなるなどして、現在は、半分以下の16万4000キロワットに。

毎秒15トンの水道水などを供給できる能力があるが、計画時より需要が激減。完成後は水道水だけでなく、工業・農業用水としても一滴も使われていない。

平方さん:
「2つとないふるさとを深い水の底にしてしまったわけだから、誇れるようなダムにしたいですね、誰でも」

■約束だった道路の建設は“御破算に” 交通手段を失ったふるさと

 2022年11月11日、7年ぶりにふるさとへ向かった平方さん。

平方さん:
「徳山におるからの、中学頃から…」 

先輩の泉末広(いずみ・すえひろ 87)さん:
「仲間ですよ」

現在、沈んだふるさとへ近づくための交通手段は、月に4、5回ほど運行されるダム管理用の作業船だけ。つまり、自由には行けない。

当初、水資源開発公団は、村を沈める代償にダム湖の周りの道路の建設を約束した。しかし…。

2006年に行われた水資源機構との話し合いでは…。

平方さん:
「俺たちのことは考えとらんのや。道を付けることにしても、俺たちのことは考えとらんのや」

徳山ダム建設所の副所長(当時):
「船を用意しますので」

平方さん:
「既定の事実を押し付けるだけ。それで押し付けるやつを“ご理解だ”と思っている」

<「日本一のムダ 徳山ダムの話」より>
「管理道廃止については、訴訟にまで持ち込んでみたが敗訴に終わった」

夢にまで見る、ふるさと。

平方さん:
「ちょうどあの山をね、眺めて暮らしたんだから。家はそこら辺の泡立ちの真下ですわ。行ってみるわけに行かんですよね」

■水没を免れた地区に戻った人 ダム完成後は「大変わりだね」

 徳山村のうち唯一、水没を免れた門入(かどにゅう)地区。

元住民5世帯が、舞い戻っている。

Q.ダム完成後は?
戻った男性:
「大変わりだね。まず住んでいる魚が、ウグイがいなくなったしアマゴもほとんどいない。シカの被害が酷いよ。(植林された)ほとんどの杉の木が、むしられている」

泉末広さん。中学時代の先輩だ。

平方さん:
「興奮してるの。ものすごく興奮してるの。久しぶりに、ここに来てね」

徳山でとれるマイタケに…。

魚の缶詰と醤油だけで食べる徳山名物「地獄うどん」。

泉末広さん:
「門入で食う地獄うどん、また味が違うかもわからんで」

平方さん:
「ねぇ、ほんとう」

平方さん:
「徳山をあんな風にしたのは誰か、罪が誰にあるかというと、一億総懺悔じゃないけれども、僕らにもあると。昔に戻れるならそりゃ向こうに戻って、おりたいですよ」

■治水と発電で再注目されるダム 沈んだ村の著者の願い

 ダム建設と周辺住人の生活。近年、再び議論の場が増えてきている。

2020年7月、熊本県を中心に九州を襲った豪雨は、河川の氾濫などにより大きな被害を出した(※死者77人 行方不明2人)。熊本県の蒲島知事は、2009年に自ら旗を振り建設を中止した「川辺川(かわべがわ)ダム」について、一転、建設再開に方針転換。このほかにも、近年の豪雨災害を受け、全国でダムを見直す動きがある。

また、資源エネルギー庁は、再生可能エネルギー拡充を進め、水力発電を2020年度の7.8%から2030年度には11%に増やすとしている。

治水、そして発電で改めて注目されるダム。

水資源機構は、徳山ダムについてこれまで57回に渡り、洪水を防ぐための水量の調整を行ってきて、下流の揖斐川で氾濫は起きていないと説明している。

ふるさとと引き換えに完成した、徳山ダム。

平方さん:
「当初の計画では(発電)40万キロワットですよ。せめてそのくらい、今やってくれと」

平方さんは、未来のための有効なダムであってほしいと、願っている。

2022年11月18日放送