政府が“異次元の少子化政策”を掲げるなど、子供をとりまく環境が注目されている。1人の保育士が、何人までの子供をみることができるかを定めた「保育士の配置基準」は国が定めたルールだが、保育園の現場に密着すると「見直し」が必要な現状が見えてきた。

■75年間変わっていない保育士の「配置基準」 基準を超える人数を雇っても感じる“人手不足”

 名古屋市天白区の「めばえ保育園」。

【動画で見る】「記録書く時間が全くない」人手足りず疲労困憊の保育士たち “異次元の少子化対策”で配置基準の改善なるか

午前8時を過ぎると、保護者と一緒に子供たちが登園し、保育士の慌ただしい1日が始まる。この保育園には、0~6歳まで109人の子供が通っている。

親と離れると、途端に泣き出す子供も…。

子供:
「えーん」

保育士が助け合いながら保育にあたっていた。保育園の現場で、長年大きな課題になっているのが、その「配置基準」だ。

1人の保育士が、何人までの子供を受け持つことができるかを定めた「配置基準」は、0歳児は、3人に対し保育士1人、1~2歳児は6人などとなっていて、「30人に対し保育士1人」という4歳児以上の基準は、実に75年間も変わっていない。

めばえ保育園では、独自に国の配置基準より保育士を増やしていて、この日の朝は基準の3倍にあたる「1歳児6人に対して3人」の保育士が働いていた。しかし、それでも人手不足を感じるという。

保育士の女性:
「いろんな場面でありますね。抱っこしていてあげたいけどちょっと待っててってことも多くあるので、申し訳ないって思うこともありますね」

■散歩や昼食時も気は抜けず…わずかな休憩時間は事務作業「身体も心もヘトヘトが実態」

「配置基準」より多く保育士を置いていても人手が足りない現状。それは、保育園のいたるところで見受けられる。

子供たち:
「行ってきます~」

午前9時半。散歩に向かう子供たち。

公園に着くと元気に駆け出す。すべり台にジャングルジム、鉄棒に砂場。子供たちにとっては絶好の遊び場だが…。

石浜丈司園長:
「すべり台は1人で滑るにはちょっと怖いので、必ず大人がつかないといけない」

1歳児のクラスでは、散歩のときは子供10人に対し、3人の保育士が見守るが…。

保育士:
「あと1人どこ行った?いないな…」

別の保育士:
「いました、いました!(工事現場の)ショベルカー見てた」

保育士:
「ごめん、ごめん。いたと思っていた。申し訳ない」

少し目を離した隙に、公園の隣の工事現場を眺めていた小さい体が、すっぽり茂みに隠れて見えなくなっていた。

また別の保育士:
「子供があちこち興味ある所に行っちゃうので、集中して見るよりも全体見ないと、たまに人数数えたりしないと…」

子供たちの気持ちを尊重しながら、安全を守る。限られた保育士の数では 十分にはできない。

散歩から戻ると、昼食の時間だ。楽しい時間も、保育士は気を抜くことができない。

石浜園長:
「食事場面も保育者が緊張する場面で、詰め込んでしまったりとか、一口の量とか、窒息の恐れもあるので」

昼食の後の昼寝の時間は…。

ようやく寝かしつけ終わると、保育士も昼休み…とはいかない。

保育士:
「連絡帳があるので、おうちの方がこうやって毎日書いてきてくださるので、全員分目を通して、お返事を書いたり…」

昼食を摂る余裕もない。

保育士の女性:
「まだ食べていないですが、ここの時間でしか見る時間が無くて、いたしかたないかなって」

わずかな休憩時間は、事務作業に割かれていた。

石浜園長:
「本当に息つく暇もないというのが、保育士の実態で。仕事の時間はすべて保育にかかわることになるので、記録を書く時間がまったくないので、そこで身体も心もヘトヘトになっているのが実態だと思います」

■保育士の労働環境が子供の幸せに…働く母親も待遇改善を切望

 保育士が足りない現状。それは働く側だけでなく、子供を預ける親も感じている。3人の子供を持つ長野奈美(42)さん。

末っ子の6歳の寿珠(すず)ちゃんが、めばえ保育園に通っている。

夫と共働きで、3人の子供を育てる中で、保育園の課題に直面した。

長野奈美さん:
「今、保育園って、名古屋市だと6園、希望の園を書いてくださいって。6園書かないと調整の対象になりませんよっていうふうに言われるんですね。けれど現実問題、6園書けるところがあるかっていったら、本当に難しい。車で15分、20分行って、また車で戻ってきて、地下鉄乗って通うとか、絶対無理でしょっていう…」

保育園の希望が通らず、長女と次女が別々の保育園に通うことに。長野さんは、会社員としてフルタイムで働いていたが、育児に時間を割くため、別の仕事に転職した。

長野さん:
「保育士さんが安心・安全で働ける環境であることが本当の子供の幸せにつながっていく、子供の幸せを一番望んでいるのは親であると思うので、親も協力しながらともに声を上げ続けながら、保育士さんの働く環境がよくなっていくといいなって思っています」

■賃金は全職種の平均より10万円以上下回る…独自に増やせば資金は保育園が負担

 保護者も直面し続けている「保育士不足」。自身も保育士で、「配置基準の見直し」を求める活動をしている田境敦さんは、保育士の待遇面にも「配置基準」の問題が横たわっていると話す。

田境敦さん:
「本当に日々、自転車操業のように回っていると、どんどん心も疲弊していくので、賃金とか処遇の問題もすごく大きいかなと思っています」

保育士の平均賃金は、月収換算で約30万円(30.3万円)。全職種の平均より10万円以上低い水準だ。

田境さん:
「もちろん、民間の保育園なんかは独自に増やした分、その分、国から補助金が降りてくるわけではないので、みんなでちょっとずつ薄めて配分しないと、みんなにお金が行き渡らない」

保育士の人件費は国や自治体が支給するが、配置基準に基づいた保育士の人数分しか支給されないため、独自に保育士の数を増やした場合、保育園がその資金を捻出する必要がある。

■園長「子供のために改善を」…政府もようやく「配置基準」の見直しを議論

 課題が山積する保育園の「配置基準」。「異次元の少子化対策」を掲げる政府は、見直しについてようやく議論を始めた。

(2023年1月30日 衆議院予算委員会)
岸田総理:
「この(保育士の)配置改善は重要な課題だと考えており、処遇改善そして業務の効率化、また負担軽減、こうした取り組みを進めていきたい」

2月20日には、関係省庁などを集めた会議に岸田総理が出席し、「保育の質の向上」について、有識者などと意見を交わした。

独自に配置基準より保育士を増やしている「めばえ保育園」。子供たちを見送ったあとも、保育士たちは保護者への対応や事務作業を続けていた。

子供たちの個性や成長に合わせて、一緒に遊んだり、保育をしたいと思っても、その時間を持てない現実。

石浜園長:
「子供をただ見ているだけではないんですよね。養護と教育が一体となったのが保育なので、甘えさせてあげたりとか、こういう遊びとか、学びをさせてあげたいと思って保育にあたっているんです。一人一人の意志を尊重して、一人一人の子供の納得を大事にする。それを実現しようとすると、配置基準の改善は大事なことなのかなって思っています」

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2023年2月23日放送