ふるさと納税で魅力的な返礼品がなく、税金の流出に悩まされている自治体が多くある。愛知県蟹江町は、約1億円近い「赤字」を返上しようと、魅力的な返礼品の発掘へ動きだした。

■ふるさと納税で8500万円赤字の自治体 新任担当者2人が返礼品の新規開拓へ

 愛知県の蟹江町は、名古屋に隣接する人口約4万人の町だ。

【動画で見る】赤字が約8500万円も…ふるさと納税で巻き返し狙う愛知・蟹江町 独自の返礼品開拓で“生みの苦しみ”

2022年度、蟹江町のふるさと納税の寄付額は約1250万円で、1億円近い税金が他の自治体に流出し、約8500万円の赤字になる見込みだ。

貴重な財源の流出を食い止めるため巻き返しを図ろうと、蟹江町では2023年度からふるさと納税の担当になった2人の職員がいる。

1人は服部友哉さん(34)。

服部友哉さん:
「僕はもともと、建設畑の土木農政課にいまして。スーツ自体も着るのが久々くらい」

もう1人が牧野楓さん(28)だ。

牧野楓さん:
「行政の仕事らしくない、営業チックなところもある」

服部さん:
「本来入ってくるべき税収が流れていっているというところで、僕らの方からすると直さないといけないところ、改善していかなくてはならないところではあるんですけど、何でそうなっているのかがポイントなのかな」

牧野さん:
「わくわくもありながら、ドキドキ、不安もあります」

■農産物の開拓へJAへ…「蟹江町のもの」というハードル

 まずは農産物の開拓だ。ブランド米やトマトやキュウリといった季節の野菜を狙い、蟹江町を管轄している隣町の『JAあいち海部(愛知・津島市)』へ向かった。返礼品の新規開拓へ、2人の初陣だ。

服部さん:
「注文が入ってから準備ができるというのが、ロスがなくなるのではないかというところは、JAさんにとってもメリットなのではないかと」

服部さんは、配属間もないとは思えない落ち着きぶりで説明。うまくいきそうな雰囲気も…。

しかし…。

JAの担当者:
「難しいですよね、蟹江町の特産物じゃないとって話になっちゃって」

JAで扱っている蟹江の農産物は少なく、返礼品として出せるものは現時点では「ない」という。

JAの担当者:
「蟹江町だけの商品をピックアップするということになると、ちょっと難しいのかな」

牧野さん:
「なかなか、蟹江町でというものがあげられなかったので、すぐOKにはつながらなかったかなと…」

■人気は愛知のうなぎに銀座の漬物…蟹江町の特産物は何か

 そもそも、蟹江町にはどんな返礼品があるのか。現在(2023年5月の時点)は約160品ある。

人気商品の1つは「かね梅のうなぎ」。

しかしこのうなぎは、厳密には愛知県西尾市の三河一色産だ。一色産のうなぎを町内にある卸会社が仕入れ加工・販売していて、返礼品として扱うことに問題はない。2022年は68件の申し込みがあった(計190万円)。

もう1つが、首都圏のデパートを中心に漬物を販売している「銀座若菜」の漬物だ。

銀座ブランドの漬物を蟹江町の工場で作っていて、48件の申し込みがあった(計78万円)。

高額な返礼品もあった。75万円~300万円もするプロ仕様の特殊な自転車部品だが、寄付はこの時までに1件もないという。

他にも厳しそうな返礼品が散見された。

蟹江の人に、特産品を聞いてみた。

蟹江町民の女性:
「白いちじくは有名ですわね。(他には)ないんじゃないですか」

別の女性:
「なんだろう?あんまり…」

■町長考案の“カニ丸君”クッションも「ウケなかった…」 「ぐいぐいチーム」結成で巻き返しへ

蟹江町の横江淳一町長:
「厳しい、つらい状況です。特別に『これは!』というものがなかなか見当たらないのが現状」

町長が自ら提案したのは、町名にもなっている「蟹」の加工品だ。

横江町長:
「蟹いないでしょ。でも蟹江町なんですよ、蟹がつくんです。なんとかできないかと…。めちゃくちゃ無理が入っていますけど、どうかなって思って」

トップダウンで蟹江町のキャラクター「カニ丸君」のクッションを試作したが…。

横江町長:
「僕もいいと思ったんですよ、最初は。ウケなかったですね、あんまり」

それでも役場が一丸となり、2023年度から本格的な巻き返しを図ることにした。総務課、政策推進課、ふるさと振興課、3課合同で「特命チーム」が結成された。

チーム名は「ふるさと納税“ぐいぐい”チーム」。初の会議では、掲載するサイトを増やしたり、デジタル広告を展開するなど強化策が示された。

チーム名の通り、寄付額をグイグイ上げることはできるのだろうか。

■鋳物工場が廃材をオシャレ家具に…「仲間の町工場を助けたい」と開発

 この日、服部さんと牧野さんの2人が向かったのは、工作機械の部品を製造している日光鋳工場だ。返礼品になりそうな商品を開発したというので、見せてもらうことにした。

見せてくれたのは、廃材のドラム缶をリサイクルしたテーブルとイスだった。

牧野さん:
「(イスを持って)持てますね。私1人でも運べちゃう。新しい、見たことないというか。あまりかぶらないので、デザイン的に。カフェとかに置いてもオシャレかな。インテリアとしてもステキなので、いいかなと思います」

社長には、業績で苦しむ仲間の町工場を助けたいという思いがあり、共同製作したという。

日光鋳工場の伊藤広利社長:
「溶接だとかで助けていただいている町工場さんがあります。そこがなくなってしまうのは一番つらいというところもあって、そこに仕事が流れることによって潤ってくれて、結果としてうちがお願いする仕事をしてもらえると、非常に助かる」

想定寄付金額は、セットで約60万円だ。

牧野さん:
「想像以上というか、無茶苦茶かわいくて。(返礼品に)なったら沢山の人に寄付して使っていただきたい」

さらに、地元業者を集めて、返礼品開発に向けた勉強会も開催した。

服部さん:
「なにぶん、事業者の皆さまのご協力なしには、寄付金を増やしていくことができませんので、今後とも協力のほどよろしくお願いいたします」

返礼品の撮影方法やキャッチコピーなど、アドバイスがあった。

服部さん:
「(地元)企業さんの売上が少しでも伸びれば、それはそれでいいのかなと思います。がんばります!」

蟹江町のふるさと納税は、6月30日までに申し込み件数が194%増の68件、寄付額が347%増の3,221,000円となり、この中には高額返礼品の自転車部品の寄付も1件あったという(事後取材)。

2023年5月9日放送