三重県津市の寺で2023年6月、古くなった写真を供養する催しが行われた。スマートフォンの普及で紙の写真が減り、古くなった写真の処分に困った人たちが参加した。写真を供養する人、そして供養を引き受けたカメラ店の店主の思いを取材した。

■初めは戸惑いも今は使命に…「町のカメラ屋さん」が始めた写真供養

 昭和2年(1927年)に創業した津市の老舗のカメラ店「中尾カメラ店」。

【動画で見る】紙で写真残していた世代が高齢化…町のカメラ屋さんが『写真供養』処分しづらいという客の声に“使命感”

三重県内ではいまや12軒しかない「町のカメラ屋さん」だ。

3代目の中尾浩一さん、68歳。

中尾カメラ店の3代目 中尾浩一さん:
「だんだんデジカメの性能が上がってきて、それは早かったですね。それから携帯電話で写真撮れるようになってからは、また一段と写真を焼かれる方が減りました」

かつて現像することでしか残せなかった写真も、デジカメやスマホの普及で誰でも簡単に“データ”で残せる時代になった。

そして、現像して“紙”で写真を残していた世代が高齢化し、自分では処分しづらい写真を供養してほしいという、客からの声が寄せられたという。

中尾さん:
「たくさん写真あるんやけど、おじいちゃん亡くなってこの写真どうしたらええやろうっていう、単純なゴミとして捨てていいのかとか」

写真を“作る”立場の自分が、“処分する”。そんなことは考えられないと最初は戸惑っていた中尾さんでしたが…。

中尾さん:
「やっぱりお客さんの望むことをしてあげるのが商売人だろうと。じゃあ、他に(供養を)誰がやってくれるんだというと思いつかないし、我々が断ったんじゃいかんだろうと」

時代の波にのまれながらも生き残ってきた「町のカメラ屋さん」の“使命”として、2016年から毎年6月1日に写真供養を行っている。

■先祖3代の写真1000枚以上…写真供養を決めた男性
 写真供養の依頼者の1人、里川定実さん(63)。

里川さん:
「結構何十年も貯めた写真なんです。これが戦争の時のやつだな。戦争でおじいさん戦死しているんで」

若かりし頃の両親や…。

太平洋戦争で戦死した祖父の白黒写真など。

先祖3代の写真、その数は1000枚以上だ。

里川さん:
「家族だとか兄弟だとかで見たり。昔はアルバムめくってたまに見たりとかね、話聞いたりとかしていたので。親父らの新婚時代の写真だとか。なんか日光の方行ったわって」

しかし、盆や正月の集まりも少なくなり、紙の写真を見る機会も年々減ったという。大量のアルバムは子供たちの負担になると考え、写真を供養することに決めた。

里川さん:
「たくさんアルバムがあったので、大事なやつはスキャンっていうか残したんです。僕はおじさんおばさん(の顔を)だいたい見たらわかるけども、代が替わって息子たちが見ても、どこの人やと…」

■「捨てられやんし焼けやんし」…大事にしてくれた祖父の写真供養を決めた女性
 中尾カメラ店の写真供養は、多いときには県内外から100件以上の依頼が来るまでになった。

中尾さん:
「ちょっと雑然としていますけど、これがね、今回の写真供養にうちの店にお持ちいただいた分です」

中には、“心霊写真”のような写真を供養してほしいという依頼もあるという。

中尾さん:
「『心霊写真みたいなのがあるので怖い』っていうので送ってみえた方もあります。撮ったつもりのないものが撮れているので、怖いからお願いします、供養してくださいみたいな」

この日も1人の女性が写真供養の依頼に訪れた。柴田昌美(まさみ 37)さんが持ってきたのは、祖父が保管していた写真だ。

柴田さん:
「最後に5月人形の前で撮ったお写真で、ずっとおじいちゃんの部屋に飾ってあったもんで、これも一緒に供養して向こうの世界でまた遊んでくれたらなっていう思いです」

2023年は、祖父・弘文(享年93)さんの3回忌。“向こうの世界”でも家族のことを思い出してほしいと、写真をゴミとして処分するのではなく、供養へ出すことにしたという。

柴田さん:
「昔ながらかもしれませんけど、大事にしてもらっていたし。やっぱりご先祖様っていうので、捨てられやんしな、焼けやんしなってことで、もう本当にご供養が一番やなと思って、持ってこさせてもらったので」

中尾さん:
「お持ちになった写真にはそれぞれ思いがこもっているのでね、断捨離とか核家族化で(写真を)全部残すわけにもいかないと思うので、それにご協力させていただければという思いです」

柴田さん:
「よろしくお願いします」

中尾さん:
「お預かりします」

■供養してもらった人は感謝…中尾さん「カメラ屋は良い商売だな」


 写真供養は6月1日、津市の「曹洞宗 四天王寺」で行われた。

2023年は、約70人から預かった写真を供養する。

準備を手伝う人の中に、映画「浅田家」のモデルとなった写真家・浅田政志(あさだ・まさし)さん(43)の姿があった。

浅田さんは津市出身で、実は中尾さんの店の馴染み客だった。2022年から「写真供養」に参加している。

浅田さん:
「写真って、見返されて初めてその役割が果たされると思うんですね。見返す人がいなくなってしまったりとかした時点で、その写真の持っている何かがぷつっと切れて、写真だけが存在するみたいな感じになってしまう。それぞれの写真が担ってきた役割っていうのを、感謝する場所なのかなと思いますね」

写真供養は、4人の僧侶がお経をあげ、写真に込められた思いを成仏させる。

院代の松田徹英さん(法話):
「在りし日のご家族の思い出の写真が、たくさん入っているわけでございます。一瞬一瞬を撮られた写真が大変多くて、刹那の瞬間ということでございます。その刹那の積み重ねが人生というものでございます」

人生を写した写真。

その役目に感謝と別れを告げるのが、この写真供養だ。

里川さん:
「先祖がいて自分がいるとかね、そういう思いはものすごくしますね、写真をみていると。魂がこもっているとか、そういうのはあるんでね」

柴田さん:
「おじいちゃんを思い出させてくれるきっかけになったし、これからも大事にしていきたいなっていう思いになりました」

中尾さん:
「(写真を)持ってこられた方がみなさん感謝して家に帰られるんで、やっぱりよかったんだなと。刹那刹那の一コマを切り取ったものが写真なんでね、やっぱりその思いがこもっている。やっぱり喜びの部分が多いんで、そういうのに携われる商売として、写真屋、カメラ屋っていうのは良い商売だなと」

2023年7月4日放送