岐阜県出身の競泳選手、今井月(るな)選手が、27日の世界水泳に出場する。一時は引退も覚悟したというスランプにも陥ったが、日本代表に返り咲いた。15歳でオリンピックに出場し、天才スイマーと言われた今井選手は、なぜ復活できたのか。

■6年ぶりの日本代表入り 世界水泳に向けてトレーニング

 2023年6月、長野県の志賀高原。 

【動画で見る】天才スイマーに大学で訪れたスランプ…日本代表に返り咲いた競泳・今井月 復活のきっかけは“ありのままで”

標高1800メートルにある「志賀リバーサイドホテル」のプールで、世界水泳に向けて合宿中の今井月(22)選手の姿があった。2021年11月から、元日本代表コーチの飯塚正雄さんに師事している。

飯塚正雄コーチ:
「今ね、150メートルターンしたら(心拍数の表示が)赤くなったよ」

今井選手:
「めっちゃキツイよ」

飯塚コーチ:
「ここに(心拍数)90%って出ているから、一瞬90%になった」

しかし、普段の今井選手は…。

今井選手:
「私の好きな色だわ。パキっとした色が好き、黄色、オレンジ。なんか、空気多く感じません?(高地トレーニングに来ていて空気が)少ないのに。いいわ…」


チームメイトとの食事時も…。

チームメイト:
「『大谷翔平のタイプと合わないわ、自分』って言っていて…」

今井選手:
「TikTokで大谷選手のインタビュー流れてきて、タイプ言っていたんですよ。『背が高くてスポーティーで、明るい人、いつも笑っている人がいい』みたいな。『でも、ゲラゲラ笑いは嫌です』って言っていて。私ゲラゲラだって思って(笑)」

厳しい練習の合間には、楽しそうな表情。待ちに待った6年ぶりの世界大会が迫ってきていた。



■大学進学後に極度のスランプも「こんなもんじゃない」と奮起

 幼いころから天才スイマーとして注目され、平泳ぎでは数々の新記録も打ち立てた。

15歳で出場したリオオリンピックでは、200メートル個人メドレーで準決勝に進出した。

しかし、大学進学後は思うような泳ぎができず、結果が出ない負の連鎖に。目標にしていた東京オリンピックの舞台に立つことはできなかった。

そして、2023年4月の日本選手権200メートル平泳ぎでは、ラスト50メートルのターンでトップに立つと、圧巻のラストスパート。後続を引き離し、自己ベストを更新する2分22秒98で、6年ぶりの日本代表に返り咲いた。

今井選手(競技後のインタビュー):
「ここに来るまでは、本当に上手くいかないこともたくさんあったんですけど、最後は本当に自分を信じるしかなくて、良い状態で(レースを)迎えたかなと思います。200(メートル)は代表に入りたいと思っていましたし、2分22秒台がでると思ってなかったので、すごくうれしかったです」

■「中学生のときは仕事感覚」トップアスリートの本音

 大学を卒業し、プロ選手の道を選んだ今井選手。この日は美容室を訪れた。

今井選手:
「今日は(髪の色を)暗くしたくて、地毛っぽい感じで暗くしたいです。大人なんでね、社会人なんで。さすがにこれで試合行けない」

髪の色を変えながら今井選手は、プレッシャーと戦うアスリートの本音を話してくれた。

今井選手:
「物心ついた頃には日本のトップの方にいたので、中学生のときは仕事感覚で思っていました。結果出さなきゃって。試合とかも緊張するわけじゃないですか。緊張でストレス感じて、結果が出なかったら何言われるかわかんない」

結果に追われ、スランプでもがいた大学時代。心の底から楽しめる休日はなかったという。

今井選手:
「すごく気分が乗っていて充実しているときは、自然と良い泳ぎできるし、何も考えてなくても求めてる泳ぎとか練習できるんですけど、ちょっと気分が沈んだりすると、そんなつもりなくても泳ぎに現れたりするので、気分屋スイマーって言われます」


■復活のきっかけは練習環境の変化

 気持ちが泳ぎに大きく影響するという今井選手。復活のきっかけとなったのは、練習環境の変化だった。

飯塚コーチ:
「もうちょっと斜め上向く感じ…」

今井選手:
「死ぬかと思ったんだけど」

飯塚コーチ:
「そう思って死ぬ人いないから」

今井選手:
「マジでやばかった」

飯塚コーチ:
「本人が思ったことを我慢しないで言える。うちに来て何かが変わったんだとすれば、チームメイト含めたメンタルの部分の環境が、彼女にとっては合ってたんじゃないのかな」

夜、コーチやチームのメンバーと外食に。

今井選手:
「私、これ(コーチが注文した鉄火巻き)がいい!美味しそう!」

今井選手:
「今からタイタニック見ようと思ってた、タイタニック見たことあります?」

飯塚コーチ:
「あるよ!まぁ先生はトトロが一番好きだけど」

今井選手:
「トトロ見たこと無い」

飯塚コーチ:
「ええ!」

Q.今井選手はどんな人ですか
チームメイト:
「めっちゃ面白いです。部屋でもふざけてずっとしゃべってたりするんですけど、たまにめっちゃ真面目な相談とか、すごい選手だからアドバイスとかしてくれて。大好きですね」

今井選手:
「告白された?大好きですって?」

今井選手の笑顔が絶えない時間だった。

今井選手:
「この環境に来てからは、辛かったら全面に辛いって出せるし、そういうのは私はすごく救われるというか。やっぱり自分に嘘つきたくないので、無理して笑いたくもないですし」

以前は、苦しくても無理をして明るく振舞っていたという今井選手。ありのままでいられる環境が、いい結果に繋がっているようだ。

■原点の平泳ぎで自己ベスト更新 再び世界の舞台へ

 気持ちの他にも、もう1つ変わったことがあった。環境を変えたタイミングで専念したのが、原点の平泳ぎだった。

今井選手:
「平泳ぎでもう一度戦いたいって思ったのが、東京オリンピックの前ぐらいで。東京オリンピックには全然間に合わなくて、平泳ぎで勝負できなかったんですけど、飯塚先生も背中を押してくれたっていうのもあって、今は迷わずに平泳ぎで勝負しています」

平泳ぎでは持ち前のキックを活かし、7年間更新できなかった自己ベストを立て続けに更新した。

今井選手:
「どこかで平泳ぎで日本代表に入りたいとか、世界の大会で活躍したいと思ってたんですけど、個人メドレーに寄り道しながらも、ちゃんと平泳ぎにまた帰ってこれたっていうのは、すごく良かったなと思う」

環境の変化がもたらした、復活のきっかけ。スランプを乗り越えてつかんだ、6年ぶりの日本代表。原点の平泳ぎで、世界に挑む。

今井選手:
「すごく緊張する舞台だと思うんですけど、今の自分なら平常心で望めるかなって思うので、強い気持ちで、でも落ち着いて臨めたらいいなと思います」

今井選手は27日午前に行われた世界水泳の平泳200mに出場で、予選を通過した。

2023年7月20日放送