愛知県の至学館大学出身で、女子レスリング57キロ級の川井梨紗子選手とその妹で、62キロ級の川井友香子選手は、同じ夏季五輪で史上初の姉妹で金メダルを獲得しました。

「姉のように強くなりたい」。リオで先に金メダルをとった強い姉の背中をずっと追いかけてきた妹の友香子選手は、初めてのオリンピックで悲願の金メダルを獲得しました。

■本当は手芸やピアノがやりたかった…なんとなくレスリングを始めた妹

 8年前の春、愛知県の至学館高校の新入生歓迎会に、吉田沙保里さんに憧れる15歳の川井友香子選手の姿がありました。

友香子選手:
「(将来は)海外の試合に出られるような選手になりたい」

 テレビのインタビューが苦手で、たどたどしく夢を語った友香子選手。

【画像20枚で見る】最強の姉妹が最高の笑顔に…強い姉に憧れて追いかけたその背中 姉と一緒にとった金メダル 

 石川県で生まれた川井姉妹の父は学生チャンピオン、母は世界選手権の代表でした。長女の梨紗子選手は小学2年生でレスリングを始めました。しかし、友香子選手は…。

友香子選手:
「自分はやりたくなかったけど、試合ないとかまってもらえなくて、寂しくて始めました。最初は嫌々やっていました」

 本当は手芸やピアノがやりたかったという友香子選手は、家族の勧めで“なんとなく”レスリングを始め、“なんとなく”愛知県の至学館高校に入学したといいます。

■姉の五輪の勇姿がきっかけに…自分も姉のように金メダルがとりたい

 力をつけた姉の梨紗子選手は高校3年生の時、世界選手権で7位に入賞。友香子選手は、高校時代はまだ無名の選手でした。当時のインタビューでオリンピックのイメージを聞かれた友香子選手は…。

友香子選手(当時15歳):
「次元の違う場所みたい…」

 オリンピックは遥か彼方の夢…。そして2016年のリオオリンピックで、友香子選手は姉の梨紗子選手が金メダルをとるのを、目のあたりにしました。

友香子選手:
「それまではもうダメだと思っていたんですが、梨紗子が金メダルをとったのを見て、自分もやれるところまでやってみようと…。そこから頑張れるようになりました」

「自分も真剣にやれば姉のように金メダルがとれる」。姉妹で金、友香子選手の夢を叶えるための日々が始まりました。

■ライバルに出遅れているから…レスリング漬けで力を付けた至学館での日々

 なんとなくではない本気の練習。「筋肉が足りなくてライバルに出遅れている」と考えた友香子選手は、世界で戦うための体作りに励みました。当初は弱すぎて練習相手にもならないと言っていた梨紗子選手も…。

梨紗子選手:
「ここ2、3年で、自分と同じくらいのレベルでスパーリングできて、本当伸びてきている」

 2017年に、至学館大学に新しい寮が完成。部屋には、歴代の世界チャンピオンの名前が付けられました。もちろん友香子選手は“梨紗子部屋”です。

「練習場所が近くなった分、レスリングに時間が費やせる」、友香子選手の6畳一間の合宿生活が始まりました。

 この頃から毎日書くようになったレスリングノートには、誰とスパーリングをして、何を学び気付いたかを記しました。

友香子選手(当時19歳):
「迷った時に、オリンピック選手ならどうするかって考えて…。周りからも妹として見られるので、妹も強いと思われるようにしたい」

■日本一を目指すも完敗…「2人でオリンピック行くんだよ」前を向かせた姉の言葉

 2017年6月の全日本選抜選手権。友香子選手は日本一を目指しますが、準決勝で完敗。

友香子選手:
「あの時は、あの時の自分なりに今できることを、全部やってきたと思って出た大会で、負けてしまったので…」

 完敗し、絶望する友香子選手を救ったのは、梨紗子選手でした。

友香子選手:
「梨紗子は夢を諦めていないというか、『2人でオリンピックに行くんだよ』って言ってくれていて…。そこから自分も梨紗子についていこうという気持ちが強まりましたね」

■妹の前で倒した“宿敵”伊調馨選手…姉妹で掴んだ東京オリンピックの切符

 友香子選手の持ち味は、相手が嫌がる“しつこいレスリング”です。派手な高速タックルはありませんが、組み手が強く“耐えるレスリング”をします。

友香子選手:
「他の選手に比べたらおもしろいレスリングではないけど、自分らしく泥臭くてもいいから最後に勝っていればいい」

 姉妹で金メダル…。強い姉の背中を追って、友香子選手は夢に向かって一歩ずつ前へ。

 2019年6月の全日本選抜選手権。優勝して、世界選手権で3位以内に入れば、東京オリンピックの代表に選ばれます。友香子選手は順調に勝ち進み、決勝でも相手を寄せ付けませんでした。

 梨紗子選手の相手は、オリンピック4連覇の女王・伊調馨選手です。リオオリンピックでは、梨紗子選手は63キロ級、伊調選手は58キロ級で金メダルを取りましたが、東京オリンピックでは姉妹で出場するために、梨紗子選手は階級を下げ、伊調選手と代表の座を争うことになりました。

梨紗子選手:
「最初から(姉妹)2人で同じ階級にするつもりなくて…。身長的に友香子の方が大きくて、もっと筋力つければ友香子が上の階級で行けるんじゃないかと」

 梨紗子選手は、日本レスリング史上に残る金メダリスト同士の一騎打ちで、妹の前で勝利。

梨紗子選手:
「負けると友香子も悲しむので喜んでくれてよかった。『頑張ったね』とちょっと上から目線で言われました」

 その後、2019年9月の世界選手権で、梨紗子選手は優勝。友香子選手は3位となり、姉妹で東京オリンピック出場が内定。

■やっと追いついた姉の背中…最高の舞台で叶えた「姉妹での金メダル」

 強い姉に憧れて…。

梨紗子選手:
「2人で金だったら最高なんですけど、どっちかが欠けると金を獲ったほうも喜びきれないので」

友香子選手:
「何年も前からずっと言ってきていて、まだ世界の大会で一緒に金メダルないので、それを一番最高の舞台で達成したいなと」

 東京オリンピックが開幕。8月4日に友香子選手が初の金メダルに輝き、翌5日には姉の梨紗子選手がリオに続き連覇を果たし、ずっと夢見てきた姉妹での金メダル獲得を果たしました。

 やっと追いついた姉の背中。最強の姉妹が、最高の舞台で夢を叶えました。