女性アスリートに性的な意図を持って撮影された画像がアダルトサイトなどに悪用されていることが問題となっています。

 ヨーロッパの体操の大会では、ドイツ代表の選手が「性的な対象として見られること」への抗議の意思を示すため、従来のレオタードではなく足首まで覆われたユニフォームを着用して演技を披露しました。

 アスリート画像の性的悪用の問題を取材すると、“被害者の葛藤”や“法律の壁”など、様々な課題がみえてきました。

■入口や座席など至るところに「盗撮禁止」マーク…陸上競技会場の現状

 6月に岐阜市で開かれた陸上選手権の会場には、入口や座席の至るところに「盗撮禁止」の看板や張り紙がありました。大型ビジョンにも迷惑撮影をやめるよう呼びかけるアナウンスが繰り返し掲出されていました。

【画像20枚で見る】女性アスリート画像の性的悪用根絶へ 被害者の葛藤と法律の壁 新体操教室では“保護者による撮影禁止”も

岐阜陸上競技協会の専務理事:
「今アスリートの被害、選手が迷惑する現状もありますので、そういうことのないように啓蒙しています」

 陸上競技の多くの大会では、撮影禁止エリアが設けられています。

 この会場では、選手がかがんだ状態から走り出す短距離のスタート地点の後方や、高跳びや幅跳びなどの正面の座席が撮影禁止になっていました。

■「性的な観点で使われるのがすごく気持ち悪い」…下半身の画像をアップされた女性アスリート

 肌の露出が多く、性的なターゲットにされやすい陸上競技。ネット上には、アスリートを盗撮するなどした下半身や胸などを拡大した写真や動画が溢れています。さらに、こうした画像を販売するアダルトサイトまで存在します。

佐藤美緒さん(仮名):
「ユニフォームの形上食い込みやすくて、それを直しているところは狙われやすい。あと100メートルのスタートのお尻が上がるところとか」

「性的な観点で使用されるのがすごく気持ち悪い」と話すのは、関東地方の大学で陸上競技をしている佐藤美緒さん(仮名)。小学5年生で陸上をはじめ、現在は日本選手権などに出場するトップ選手です。

 これまで、下半身を大きく拡大された写真をツイッター上にあげられたり、佐藤さんになりすましたアカウントを作られるなどの被害を受けてきました。

 今では、試合の報告などのためにSNSに掲載する写真には、ぼかしを入れたり、不審なアカウントはブロックするなどして、性的に扱われる自分の写真が目に入らないようにしています。

佐藤さん:
「誇りを持ってやっているし、鍛え抜かれた体って美しいと思うんですよ。でもそういう風に見ている人達がいるってなると、腹立たしいですね」

 こうした女性アスリートたちの声を受け、2020年11月にJOCなど7団体が選手への性的ハラスメント防止に向けた共同声明を発表しました。

 被害の実態を把握するために設けた情報提供フォームには、1000件以上の情報や相談が寄せられています。(※2021年5月末時点)

■画像の性的悪用は“習い事”の現場にも…体操教室では扉やカーテンを閉めるなど盗撮対策

 こうした被害はトップアスリートだけでなく、身近な“習い事”の現場にも及んでいました。

 愛知県尾張旭市の新体操教室「NSクラブ」には、幼稚園児から高校生まで約250人の生徒が通っています。練習の前には、カーテンや扉を閉め対策をしています。

NSクラブの代表:
「発表会の時、保護者に限って撮影はOKにしていたんですけど、今年の発表会からは一切禁止にしました」

 教室主催の発表会では、保護者の撮影を禁止にし、教室側が撮影した写真やDVDを販売する形をとっています。

鈴木さん:
「お父様であったとしても、自分のお子さんを撮られてるとは思うんですけど、もしかしたら違うお子さんを撮られていることがあるかもしれない…」

保護者:
「そういう対象で見てくる人は存在していると思うので、自己防衛は必要かなと思います」

別の保護者:
「(教室側が撮影した)DVDを見ると、ここを映したかったっていうのが撮れない歯がゆさを感じました」

 こうした対策に、保護者からも様々な意見があるようです。

■侮辱罪や名誉棄損などを適用するしかない現実…性的画像の拡散を直接取り締まれない“法律の壁”

 スポーツの現場での取り締まりが求められる一方、そこには法律の「大きな壁」が存在します。

「被害に対する立法が遅れている」と話すのは、日本陸上競技連盟の工藤洋治弁護士です。現在、アスリートの性的な画像を拡散する行為を直接取り締まる法律はなく、刑罰の軽い侮辱罪や名誉棄損などを適用するしかないと指摘します。

 実際、6月に女子バレーの選手を盗撮した動画をアダルトサイトで販売した男(57)は、「名誉棄損」の疑いで逮捕。

 また、テレビ番組で放送された女子中学生の水泳競技の画像をアダルトサイトに載せて逮捕された別の男(36)の容疑は「著作権法違反」でした。

 さらに、立件するためには、被害者が被害申告をした上に事情聴取に応じる必要があり、事件化するにはアスリートへの負担も大きいといいます。

工藤弁護士:
「刑事手続き自体が選手にとっては心理的にも時間的にも負担になるので、なかなかその一歩を踏み出せない」

 どの画像を“性的”とし、どこまでが犯罪なのか…。その線引きは容易ではありません。

工藤弁護士:
「例えば下半身に着目して撮影する行為を処罰対象にするかどうか…。するとしたらどのような表現で法律に書くか…。これは難しい問題なので議論が必要」

■トップアスリートも葛藤…“性的被害根絶“と“競技普及”の間で揺れる思い

 アスリートが直面する現実に、トップアスリートも葛藤を抱いています。

小椋久美子さん:
「本当にマイナーだったし、全然有名な競技でもなかったので、1度でもテレビに映った人間だったらそれくらい我慢しなさいっていう感じは、自分の中ではありましたね」

 バドミントンの元日本代表の小椋久美子さんは、自身も下半身をカメラで狙われるなど“性的な被害”を受ける一方、“競技を普及したい”という思いの間で揺れていたといいます。

小椋さん:
「カメラ撮影しないでくださいってなったら、競技の発展にはつながらない…。完全にシャットアウトするのも、アスリートはみんな望んでいなくて…。やっぱりそこの線引きだと思うんですよね」

 性的画像の被害を受けている佐藤さんは、大学卒業後も陸上競技を続けたいと考えています。

佐藤さん:
「そういう目で見る人を気にせずに思いっきり競技ができて、競技の、女性アスリートの魅力が、もっと正しい方向で発信される社会になってほしい」

 女性アスリートの性的画像の拡散被害を根絶するためには、アスリートへの盗撮の規制についての議論がまだまだ必要です。