岐阜県岐阜市に、女性を中心に熱狂的なファンをもつ大衆劇団があります。この劇団は、新型コロナの感染拡大により公演中止や劇場の閉鎖に追い込まれました。

 消えかけた大衆演劇の灯…。しかし、地元の映画館など多くの人が救いの手を差し伸べ、新しい劇場をオープン。劇団は、どん底から再出発を果たしました。

■定番の時代劇や華麗に踊る舞踊ショー…東海地方で指折りの人気の大衆劇団

 岐阜市を拠点に活動する「葵一門 劇団舞姫」は、約15人が所属する岐阜県唯一の大衆劇団です。定番の時代劇から流行りの曲に乗って華麗に踊る舞踊ショーなどで、東海地方でも指折りの人気です。

観客の女性:
「すごく良かったです。大満足です」

別の観客の女性:
「扇子回すのもテンション上がるし、時代劇楽しいです」

【画像20枚で見る】公演中止に劇場閉鎖…コロナが襲った大衆劇団「終わったな…」からの“復活劇”

 その始まりは江戸時代までさかのぼり、歌舞伎の派生形とも言われる大衆演劇。入場料は1500円から2000円ほどで、気軽に楽しめる大衆文化として全国各地に根付いてきました。

 劇団舞姫の座長・葵好太郎さん(42)は、色気のある女形から力強い演技までこなす人気俳優です。軽快なトークや時にアドリブを織り交ぜる変幻自在の演技で、観客に笑顔を届けます。

座長の葵好太郎さん:
「(大衆演劇は)近所の人の娯楽。『うちの近所には、楽しい施設があるんだよ』って隣の町の人に自慢ができたり」

■「30年間でこんなこと初めて」…新型コロナの影響で公演が全面ストップ

 神奈川県出身の座長の葵好太郎さんは、父親の主催していた劇団で11歳で初舞台を踏むと、2002年に「劇団舞姫」を立ち上げます。

その後、巡業先としてなじみがあった岐阜に活動の拠点を移し、2011年には岐阜市徹明通のビルに「ぎふ葵劇場」をオープンしました。

 しかし、劇場オープン以来最大の危機が訪れました。2020年4月、新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言発令後の2か月あまり、公演は全面ストップ。

劇団員の給料に加え、着物やかつらのメンテナンス代に舞台装置の運送費など、月に数百万円かかる劇団の運営費を支えるチケット収入などを失いました。

劇団員:
「公演ができないと、ただの無職なので…」

別の劇団員:
「舞台ができないと収入もない。ご飯を食べるといっても、1品減らそうかなみたいな…。結構辛かった」

葵好太郎座長:
「(大衆演劇を)30年やっていますけど、こんなことは初めてです」

 貯金を切り崩すなどして耐え忍び、一旦は再開しましたが、来客数はコロナ前の3割に落ち込むなど、苦境は続きました。

■専用劇場が閉鎖も差し伸べられた救いの手…閉鎖中だった地元映画館を新しい演劇場に改良

 さらに、劇団に追い打ちをかける事態が…。劇団舞姫のホームグラウンド「ぎふ葵劇場」が、ビルのテナントの撤退に伴い、閉鎖されることが決まったのです。

座長の好太郎さん:
「もうどうしようと思いましたよね。『終わったな』と」

 コロナで全てを奪われ、まさに「どん底」に追い込まれた劇団舞姫。再開を諦めかけた好太郎さんでしたが、手を差し伸べました人がいました。

映画館を運営する会社の磯谷貴彦さん:
「大衆演劇の劇場として、この劇場を作り替えることができないかなと…」

 岐阜市の柳ケ瀬商店街で映画館を運営する「岐阜土地興行」の磯谷貴彦さん。「劇団舞姫」のファンでもあった磯谷さんは、商店街に人を集めるためには大衆演劇のような存在が必要と考え、好太郎さんにラブコールを送りました。

磯谷さん:
「街の中に人を呼び戻す装置として、一番大きなものは娯楽施設。私どもが明るく楽しくアピールすることが、一番この時期(気持ちを)和らげる一つの要因かなと」

 映写機が故障して閉鎖中だったスクリーンの1つを、新しい演劇場として使ってもらえないかと申し出ました。舞台幅の拡充や照明設備を整えるためにかかる工事費用は数千万円に上りましたが、映画館側もその一部を負担。好太郎さんもクラウドファンディングで支援を募るなどし、なんとか費用をまかないました。

座長の好太郎さん:
「場所がある、提供してくれる人がいる。そういうのが全部重なってプラスお客さんの声。それがあったのでやろうかなと思いました」

 多くの人の支えもあり、再スタートを決めた劇団舞姫。コロナ禍で厳しい状況が続く柳ケ瀬商店街にとっても、輝く一筋の光のようです。

柳ケ瀬商店街で店を営む男性:
「ファンも食事したり買い物したりしてもらえれば、柳ケ瀬が賑やかになるわけだから…」

 柳ケ瀬商店街にとっては、久しぶりの明るいニュースです。

■「ここまでこられたのは皆さんのおかげ」…どん底から立ち上がった劇団舞姫

 8月1日、新しい劇場のグランドオープン当日。開演直前まであわただしく準備に追われる好太郎さん。

会場には消毒液や検温機を設置し、感染対策を徹底。続々とお客さんが集まり、初日は満員御礼です。

 この日選んだ芝居の演目は「遠山の金さん」。誰もが知っている定番の演目で、新たな出発の舞台を彩ります。舞踊ショーに好太郎さんが選んだ曲は、自分を育て支えてくれた岐阜への感謝を込めた「長良川艶歌」です。

女性客:
「めちゃめちゃかわいいです。葵さんがずっとここに戻ってこようとしてくれているので、超嬉しいと思って」

別の女性客:
「私たちも年だし、遠くまで追っかけもできないし…。ここに(劇場が)あるのでありがたいな」

男性客:
「大衆演劇の灯がまた灯るもんだから、来させていただきました。暗くならずに前向きに、ありがたいです」

「ここまでこられたのは、皆さんのおかげ」と好太郎さん。劇団舞姫はどん底から立ち上がりました。

座長の好太郎さん:
「積み重ねてやっていたことが報われたのかな…。すごく温かく応援して下さるので、自分が頑張っていけばそれが恩返しになるかなと思います」

 コロナを乗り越え、多くの人が劇場に集う…。そんな未来が再び来ることを信じ、劇団舞姫の挑戦は続きます。