岐阜県白川村に、昔から愛される特産品の豆腐があります。縄で縛っても崩れない、この硬い“石豆富”を作っていた職人は、新型コロナによる観光客の減少や自身の高齢化を理由に今年3月にお店を閉めました。

 しかし、白川村のおいしい特産品を無くしたくないと東京から飛騨にUターンしてきた28歳の男性が、豆腐作りを継承。代々続く味を守るために奮闘しています。

■合掌造りの家々で作られてきた素朴な味…昔から愛される硬い“石豆富”

 合掌造りの家々が並ぶ、岐阜県の白川郷。

【画像20枚で見る】飛騨で代々続く『石豆富』を守るためにUターンした28歳男性がつなぐ未来

 その白川村で昔から愛される“石豆富”には、“豆”に“富”み、幸せに富むという思いが込められています。合掌造りの家々で代々受け継がれてきたこの味を守っているのは、古田智也さん(28)です。

 作り方は至ってシンプル。まずは、大豆をすりつぶして煮て、豆乳とおからに分けていきます。

古田さん:
「豆腐の食感に関わってくるので、その日の気温とか湿度によっても、水の量を調節してやっているので、そこが難しいです」

 “にがり”をいれたら、型に入れて固めていきます。そして、機械を使って圧力をかけます。これにより豆腐は硬くなり、大豆の味がぎゅっと凝縮されます。

大野さん:
「ちょっとやわいな。水の入れ過ぎやな。(でも)いい出来よ、でき自体は」

 古田さんは、師匠である大野誠信さん(74)から、石豆富の作り方を教わっています。

大野さん:
「(古田さんは)一生懸命やっとるじゃない。あんまりついて言うと、やりにくいやろ。一度教えた以上ね、あんまり口出さんように…」

■守り続けてきた昔から愛される味…コロナで観光客が減り店は閉店

 古くから白川村の家庭で作られ、愛されてきた硬い豆腐。大野さんは、この村の特産品を観光客にも楽しんでもらおうと2000年に「深山豆富店」を開業しました。

しかし、店は今年3月に閉店。理由は自身の年齢と新型コロナでした。

大野さん:
「人(観光客)がおらんというと食堂も旅館もダメやし。結局お客が来んで(販売する)量が減ってしまうわけじゃん。採算が合わない…」

 感染拡大前には、年間約215万人の観光客が白川村を訪れていましたが、去年はおよそ70万人と3分の1にまで激減しました。

■おいしい特産品を無くしたくない…伝統の味を守るため地元に戻って奮闘する28歳の男性

古田さん:
「寂しいですよね。この光景(閑散とした村)を見ると。僕の知っている街並みの景色じゃない」

 生まれも育ちも高山市の古田さんは、東京の大手総合商社で働いていましたが、今年6月に故郷に戻ってきました。バリバリのキャリアを投げ捨ててのUターンでした。

古田さん:
「コロナ禍になって、いろいろ考える時間が増えて…。地元で苦しんでいる人たちを見ながら、自分は何ができるのかなと考えて…」

 もちろん迷いや不安はありましたが、自らの未来の姿を思い描いた末の決断でした。古田さんが勤める飛騨のベンチャー企業「ヒダカラ」が、「深山豆富店」の事業を引き継いで店の再開を目指しています。

ヒダカラの担当者:
「閉店するしかないって話もあったんですけど、石豆富は残したいという思いもあったので…。それなら私たちがやる可能性もゼロじゃないのかなと」

 豆腐事業の責任者を務める古田さんは、豆腐に関する様々な本を読み勉強しています。

古田さん:
「師匠は長年の経験で豆腐を勉強していたんですけど、僕は科学的根拠に基づいて…。おいしい豆腐を作っていくためにいろいろ勉強しています。かなり奥が深いです」

 薄くスライスしても崩れる事が無い石豆富は、箸で持ち上げることもできます…。

 ヒダカラでは、様々なスパイスで石豆富を楽しむ試食会を開き新しい食べ方を研究。豆腐のみそ漬けや塩こうじ漬けなど、新たな商品の開発をしています。

■「閉めていたから寂しかった」…地元の名産品“石豆富”に再び灯った明かり

 9月10日、「深山豆富店」のプレオープンの日。師匠も太鼓判を押す古田さんが作った石豆富が、店頭に並びます。

 閉店からおよそ半年ぶり、深山豆富店の石豆富を求めて村の住民たちが次々と訪れます。

女性客:
「嬉しいね。閉めていたからね、寂しかった」

男性客:
「昔から食べている豆腐やな」

別の男性客:
「ものが違うよね。焼けるし炒められるし、無くてはならないものかな」

大野さん:
「長かったです、3月から今まで。本当に引き継いでくれるか心配していたけど。今日引き継いでもらって一安心です」

古田さん:
「ありがとうとか、楽しみにしていたと言われると、頑張ってきた甲斐があったと思いますし、これからも頑張りたいなと」

“豆”に“富”み、幸せが富むように…。白川村が再び活気を取り戻す日まで。

 石豆冨の店頭販売は土日・祝日のみですが、通販販売も行っています。