新型コロナの影響もあり、深刻な人手不足が続いている医療現場で今、活躍が期待されているのが、ナース・プラクティショナー=NPです。

 NPとは、インスリンの量の調整や脱水症状の患者への点滴など、従来許されていなかった医療行為を行うことができる看護師のことで、人手不足が続く中で”切り札”として期待が高まっています。

■看護師としてできることの幅を広げたい…NPを目指した女性

 大久保麻衣さん(34)は、名古屋市中川区の「藤田医科大学ばんたね病院」の脳神経外科で、患者の回診や血圧の測定などの看護師としての業務をこなしながら、NPとして働いています。

大久保さん:
「傷はキレイですよ。これ抜鉤(ばっこう)っていうんです。糸じゃなくて、ホッチキスみたいなやつでとめたので」

【画像20枚で見る】医師の“働きすぎ”背景に誕生した医療行為できる看護師『NP』ナースプラクティショナー

 外科手術をした患者の頭部から針を抜き取る「抜鉤(ばっこう)」は、かつてはドクターのみに許されてきた医療行為です。

患者の男性:
「これ取ってもらうと安心なんだわね。お医者さんだと思っていました」

脳神経外科の医師:
「信頼して任せてる。リスクに気付きやすいですし、常にダブルチェックがかかるような状態になって、すごく助かっています」

 大学卒業後に東京の大学病院で7年間看護師として勤務した大久保さんは、NPになることを決意しました。

大久保さん:
「もっと出来たことがあったんじゃないかと、患者さんに。もっと自分が知っていたら、もっといいものが提供できたんじゃないかって思って…」

 看護師としてできることの幅を広げたい…。そんな思いから愛知の藤田医科大学大学院で2年かけ医療行為について実習を重ねた後に、晴れて試験に合格。今年の春からばんたね病院でNPとして働いています。

■大変だけど自分で考え行動できる…NPで感じるやりがい

 この日は、高齢女性のオペの立ち会いです。動脈の一部がコブ状に膨らんだ「脳動脈瘤(りゅう)」。コブに血液が流れ込んで破裂しないように、クリップで根本を挟む手術です。

脳神経外科の医師:
「大久保さんがやられている作業は、動脈穿刺(せんし)です。静脈だと看護師でもできるが、動脈に針を指すので、基本的に医者じゃないとできない作業になります」

 動脈に管を入れて血圧などを測定する「動脈穿刺(せんし)」は、NPに許された医療行為の一つです。医師が頭蓋骨を開け、直径で4ミリほどにまで大きくなったコブを小さなクリップではさみ、根本を閉じることに成功しました。ここから再びNPの出番です。切った皮膚を縫い合わせる“縫合”を担当します。

脳神経外科の医師:
「上手ですね。その辺の外科医と変わらないと思います。圧倒的な時間をとられるような仕事とかは、分担できるようになった」

 大久保さんは「NP」としての役割を無事果たしました。

大久保さん:
「大変なこといっぱいありますけど、自分で考えて行動できますし…」

 大久保さんは、まだまだ知識や技術が伴っていないので、もっと勉強したいと話します。

■医者の“働きすぎ”を減らすために…医者の仕事の一部を肩代わりできるNPへの期待

 2008年から養成が始まったNP。国は2025年までにNPなどの医療行為が行える看護師を、10万人以上に増やす方針です。その背景には、医師の“働きすぎ”の問題がありました。

脳神経外科の加藤庸子教授:
「医者の世界も、まもなく働き方改革の波が押し寄せてくる…。(労働時間の)縛りが出てきて、どうやっていくかが大きな課題となっている」

 日本の医師は全体の約4割が残業時間80時間以上の“過労死ライン”を超え、うち1割はその倍の160時間を超えています。2024年度からは残業時間が規制され、原則年間960時間、月に平均80時間の上限が設定されます。

 しかし去年の春以降は、新型コロナへの対応もあり、現場の医師の業務はむしろ増加しているという現状があります。NPはその解決策として期待されています。

加藤教授:
「(NPが)医者の仕事の一部を肩代わりしてくれる。少しでも医者の労働時間が短縮できる。(医師は)研究時間にまわったり、患者さんをいつもなら1時間のところを2時間ゆっくり家族ともお話できるし…」

■“やりがい”の一方問われる医療行為に対する責任…求められる待遇改善

 一方で、現状の制度には課題もあります。今年8月に名古屋市内の病院で開かれた、全国のNPたちによる発表会。

NPの男性:
「自分たちも医療者として、どういう風に関わっていけるのかが非常に大事かなと考えています」

 その中で、議題の一つとして挙げられたのが、看護師が医療行為を行うことに対しての“責任”についてです。

NPの女性:
「前は先生から言われたこと、何となく伝えていたこともあったんですね。NPになって自信を持って伝えられるようになったなと。ただ新たな課題が、たくさんの判断する責任をすごく重く感じるようになりました」

 これまでより関わることができる範囲が広がりやりがいを感じる一方で、現場からは、「医師と看護師の中間」という立場にプレッシャーを感じるという声も上がっています。制度上は、医療行為に対する責任は医師が持つことになっていますが…。

愛知県看護協会の三浦昌子会長:
「やった行為の判断は医師にあるかもしれないけども、直接やった行為に関しては看護師に責任も当然ついてくるだろう。待遇とか危険が伴うことによる保障とかは、きちんと組織がやっていかないと…」

 NPにも医療行為に対する責任が問われることを考えれば、その分きちんと金銭も含めた待遇改善が必要と、看護協会の三浦会長は訴えます。

■患者の前では『NP』か『医者』かは関係ない…もっとNPとして知識と技術を身に付けたい

 NPは、協会や団体などが独自に認定している“認定資格”で“国家資格”ではありません。働き方や資格を持つ看護師に対する手当は、現状それぞれの病院に委ねられているため、責任と対価のつり合いが取れているかなど検証が必要な点も残されています。

 この日、NPの大久保さんは、医師らが参加する学会での発表に向けプレゼンの練習をしていました。

大久保さん:
「自分が勉強したことをまとめたり発表したりというのは、やらなきゃいけないことではなく、至極当たり前のこと。綺麗事ではないですが、患者のため…」

 これまでよりも大きな責任を感じながらも、患者にとってこのNP制度は必ず助けになる。その思いで日々の業務にあたっています。

大久保さん:
「『看護師だから』とか『NPだから』とか『医者だから』っていうのは患者の前では関係ない…。自分の出した指示が、ダイレクトに患者さんに影響する。看護師時代とは考え方を変えなくてはいけない…」

「不安はもちろんあるがもっと知識や技術を身に付け、医師の指導の下安全にやっていきたい」。大久保さんはNPの仕事にやりがいを感じています。