愛知県豊田市の山里に、鹿などを使ったジビエ料理が人気のカフェがあります。3年前にこの地に移住してきた49歳の女性店主は、猪の被害に苦しむ農家のために狩猟免許を取り、獣害駆除を始めました。「とった命は無駄にしない…」、女性は自らが狩った野生動物を解体し、自分の店以外にも出荷しています。

■臭みがないと好評…駆除した鹿などを調理したジビエ料理が人気のカフェ

 愛知県豊田市足助地区の山間にある「山里カフェ Mui(ムイ)」。朝8時、奥の厨房ではオーナーの清水潤子さん(49)がランチの仕込みをしていました。

【画像20枚で見る】命を無駄にしない…自ら駆除した野生動物を解体し調理 人気ジビエカフェ営む女性の願い

清水さん:
「有害駆除でとっているモノを使っているので、どうしても鹿が多くなってしまうんですけど。狩猟期になると、もっといろんな種類のお肉がでてきます」

 店のジビエ料理の食材のほとんどは、清水さんが狩ったものです。

9月のメニューは、「鹿のプルコギ丼」(1200円)に、「鹿とキノコのパスタ」(1200円)…。

猪のチーズグリルと鹿ポトフ、鹿コロッケが入った「ジビエプレート」(1300円)など鹿づくしです。

男性客:
「豚のコロッケなの?と思って食べていたら鹿なんだって。おいしい」

女性客:
「噛み応えはあるけど、思っていたより食べやすい」

別の男性客:
「女の猟師さんがやっているというので、興味が沸いて。ジビエプレート全然クセもないし…」

 清水さんのジビエ料理は、臭みもなく好評です。

■自らとった命をおいしくいただく…農作物被害に苦しむ人たちを知り猟師の道へ

 清水さんがジビエ料理専門のカフェをオープンしたきっかけは、狩猟された猪や鹿の9割が廃棄されていることを知ったことでした。

清水さん:
「なんとかできないかなって…。人間の都合で“有害・駆除”って話じゃないですか。とって捨てるんじゃなくて、生きてきた証じゃないけど、無駄にせずにきちんと食べてあげる事こそがいいのかなと思っています」

 清水さんは、自ら狩った命を美味しく頂くことをこのカフェで実現させました。7年前に猟師の免許を取得し、今では年間100頭以上の動物を狩猟しています。

 15年前まで介護士として働いていた清水さんは、友人の紹介で出会った夫と34歳の時に結婚。そして3年前に、刈谷市から豊田市の足助地区に移住してきました。猟師となったきっかけは、“お米作り体験”でした。

清水さん:
「足助の地主さんが、猪の被害にすごく困っていて。(米作り体験中に)猪が走ったんですよ。『とってくれや』と言われて、“やらなきゃ”ってふっと(腑に)落ちた」

 愛知県の野生動物による農作物被害は、昨年度で4億5千万円以上にものぼります。動物たちがエサを求め、山から下りてくるケースが主ですが、最近では農業従事者が減ったことにより、同じ田畑が何度も狙われるケースも増えているといいます。そんな農作物被害に苦しむ人たちの現状を知り、清水さんは猟師の道へ入りました。

近所の女性:
「潤子さんにしかできない事をやっているなと、いつも思います」

近所の男性:
「獣害のことだとか、目的があっていろいろと活動をされているので、地域貢献をしているなと思います」

 近所の人も、清水さんの活動に一目置いています。

■命を無駄にせずいただく…自らとった獲物を1時間以内に解体・精肉し出荷

 午後5時。お店を出た清水さんが向かった先は、カフェの隣にあるプレハブ。清水さんは、ここで自らとった獲物を解体し精肉しています。

清水さん:
「許可を取る時に、普通は猪、鹿と許可個体を書くんですけど、私はカラスとかヌートリアとかを書いたのでビックリされていました。食べられるものという自分なりの線引きで書きました」

 猪や鹿の他にも、アライグマやハクビシンなど30種類以上を申請。解体し精肉し、自らの店以外にも愛知県内の約10店舗のレストランに卸しています。

 自宅前に精肉施設を作ったのには、理由がありました。

清水さん:
「捕獲してから1時間以内に解体所に運んだものしか、食肉として利用できない。廃棄率を下げるには、とった時に自分の都合で運べる所(精肉施設)って、自分が作るのが一番いい」

 清水さんは、とってから1時間以内にさばくことで、臭みも無く、鮮度が良い美味しい肉に仕上げています。また、解体で出た骨は、飼っている猟犬のエサに。狩りで得たものは、一つとして無駄にしません。

 足助地区でできた友人も、清水さんのこうした活動に共感しています。

友人:
「今まで破棄されていたものに対して、食べるという事を考えてみえて。命を無駄にしないというのは、素晴らしい人ですよね」

■「出来る時に出来る事を」…ガンになり命の期間が区切られ辿り付いた境地

 清水さんのこうした今の暮らしがあるのは、もう一つ大きな出来事があったからでした。

清水さん:
「縁があって、主人と結婚して、その時に病気になったのをきっかけに、仕事を辞めたんですね」

 清水さん、34歳の時に末期ガンで余命3か月と宣告されました。そんな時、夫の勧めでお米作り体験や丸太小屋作りなどの自然に触れる体験を毎週のように行いました。すると、奇跡的に症状が回復していったのです。

清水さん:
「お医者さんも『謎なんだよね』。抗がん剤治療はやったんですけど、そこから劇的に回復しているので。嫌な事はやらなかったからかなと思っています。やっぱり自分の(命の)期間が一回区切られたから、出来る時に出来る事をやろうみたいな…」

「出来る時に出来る事をやる」。そんなシンプルな生き方を選びました。清水さんは、ガンと今も闘いながら、猟師とカフェを通して奪った命を大切にいただく毎日を送っています。

「猟師は、日本の文化のため残すべきだが、農家さんを困らせる有害駆除は無くなってほしい」。清水さんの願いです。