発達障がいの子供と専門家を結ぶ、全国でも珍しいマッチングサイトが話題となっています。料理や工作などを通じて、子供の個性やコミュニケーション能力を伸ばす、その取り組みを取材すると幼いころからの発達支援の大切さと、不安を抱える親もサイトが支えていました。

■発達障がいの子供たちの能力を伸ばす… “治療”と“教育”を組み合わせた「療育」

 名古屋市天白区に住む、パズルや立体模型が得意な小島世雅くん。世雅くんは、知的障害がある自閉症です。

世雅くんの母親・育子さん:
「知的も重度。しゃべれないし、動いちゃうし…。先生の言うことを、『じゃあ皆さんとは一緒に』というのがちょっと難しいんですね」

【画像20枚で見る】初めて“色”を言えた子供も…発達障害児と専門家結ぶマッチングサイト

 お店に行くとトイレのマークを見ているという世雅くん。立体パズルで様々なトイレのマークを作っています。手先の器用さを生かすために、習い事に通わせたいと思っていますが、コミュニケーションがうまく取れず、大人数の中での行動も苦手。そこで今年9月から始めたのが、習い事を教えてくれる先生を自宅に呼ぶことでした。

 この日、世雅くんの元を訪れた女性は、特別支援学校で先生を務めていた障がい児の専門家。2人の出会いのきっかけは、発達障がいの子供のためのマッチングサイトでした。

母親の育子さん:
「包丁とかすごく使いたがるので。やっぱり私のを見ているのか、やりたがるんですよね」

 世雅くんはこの日で2回目の訪問となる先生と、カレー作りに挑戦。先生は料理を教えてくれるだけでなく、感情も引き出してくれます。これらは、「療育」と呼ばれる“治療”と“教育”を組み合わせた考え方で、好きなことを見つけて能力を伸ばしていきます。

■楽しんでコミュニケーション力を付ける…マッチングサイトで繋がる発達障がいの子供と先生

 発達障がいなどの子供のためのマッチングサイト「meete(みーて)」では、料理、絵画、運動、音楽などの「療育」に携わったことがある様々なジャンルの専門家が紹介されています。利用者はサイトを見て、子供の伸ばしたい個性に合わせて依頼。先生を自宅に派遣してもらうことができます。

 このサイトを立ち上げた柳谷智子さんは、名古屋や仙台の福祉施設で働き、子供それぞれにあった「療育」ができないかを模索してきました。

柳谷さん:
「一番は子供の得意なこと、好きなことを見つけて伸ばすこと。あとは親御さんの孤立を防ぐこと。家庭だけだとなかなか子供の成長って難しい」

 去年9月にサイトを立ち上げ、この1年で全国の子供が約200人、専門家は80人ほどが登録しています。マッチングサイトの利用料金は、1時間につき約2000円です。

 先生と一緒に、初めてカレーを作った世雅くんは…。

世雅くん:
「できた~!」

母親の育子さん:
「できたーって言った。せいちゃん上手!うれしい。こういうのも(感情表現)全くなかったんです。満足げなことも全然表情が変わらなかったけど、だいぶ変わりましたね」

 世雅くんと一緒にカレーを作った先生は、「コミュニケーション力を楽しい中で身に付けていければ」と話します。

■ずっと喋らない息子に抱いた不安…「体験会」開催し親も支えるマッチングサイト

「meete」では、各地で体験会を開きながら普及を進めています。この日、清水悠生(はるき)くん(4)が、両親と一緒に初めて体験会を訪れました。

先生:
「まだ発語がないけど、だいたい言われていることは(分かる)?」

悠生くんの母親・友香さん:
「それっぽいのは言うんです、扉を『しえて』とか。『いや』は言います」

先生:
「言われていることが分からないと、不安でしょうがないですもんね」

 悠生くんは「発達障がい」と診断され、4歳になっても話す単語は5つほどと、言葉の習得がゆっくりです。

母親の友香さん:
「他の子供さんを見ると、『ママ見て』とか『ママこっち』とか喋っていて…。『むっ?うちの子だけずっと喋らない』というのがあって…」

 人への関心が弱く、公園では1時間近くも葉っぱを見ている息子をどう育てていいのか悩みました。ある日、息子と同じ目線で木を見上げると、赤や緑などの葉っぱが光る美しい紅葉がありました。

母親の友香さん:
「走って行ってしゃがんで空を見たので、何だろうと思っていったら、上の方でキラキラしていて、『やっと一緒の景色が見れたんだな』と思って…。それまでは何を考えているのか分からなくて困っていて。この子の中で、色んな感性が育っているんだと思って。この子を、どう理解していこうと考え始めたきっかけでした」

■楽しく遊ぶ中で声をいっぱい出させてあげる…生まれて初めて色の名前が言えた男の子

 悠生くんの感性を伸ばしてあげたい…。この日、初めて自宅に「療育」の先生を呼びました。発達障がい児の支援員の経験がある女性の先生は、たくさんの手作りのおもちゃを持ってきてくれました。

なかなか1つのおもちゃに集中できない悠生くん…。先生は、どんな行動も否定せずに、一緒に夢中になれるものを探します。すると、悠生くんは、木の箱をバスに見立てて遊び始めました。

母親の友香さん:
「バス通園をしているので、人が降りたり乗ったりするのを音で表現しているんだと…」

 根気よく話しかけていくと、ようやくお気に入りの遊びが見つかります。ストローで作ったオモチャ。赤や緑などの折り紙を丸めたものを10個落とすと、美しいタワーが完成します。

悠生くん:
「いよ」

先生:
「あお、入ったね。すごく見てるね」

悠生くん:
「いよ」

先生:
「あか。ポトン。熟練してきたよ、素晴らしい」

 遊びが成功するたびに褒めると、どんどん笑顔に…。遊び初めて30分。

先生:
「あか、赤」

悠生くん:
「あか」

先生:
「あか、そう、赤。赤って言えるの、すごい!」

 生まれて初めて、色の名前が言えました。

悠生くん:
「あお」

先生:
「上手に言えた!すごいね、すごい集中力だね。1個入れるごとに、しっかり目を見てくれるので」

母親の友香さん:
「すごいですね。『あか』とか『あお』とか、『じゃー』してというと、『あー』と言ったり…」

先生:
「楽しい時は声が出るので、コミュニケーションの中で声をいっぱい出させてあげることが一番大事。言葉を教えることは後でいいので。自由に声がいっぱい出ているときは、褒めてあげて」

 いつも母親たちの悩みを聞いている先生は、「一緒に育てていく、一緒に道を探ることができれば」と話します。

母親の友香さん:
「先生の声かけと方法とか、参考になりましたね。個性的で笑顔あふれる子に育ってくれたらいいなって思います」

 発達障がい児のためのマッチングサイトは、子供の個性を伸ばすだけでなく、不安を抱える親も支えています。

訪問療育マッチングサイト「meete(みーて)」では、専門家を探したり、「療育」でどのようなことをするのかなどメールで相談することもできます。