10年前、三重県松阪市で当時32歳の男性が車でひき逃げされ、遺体を山林に遺棄された未解決事件は今年、死亡ひき逃げ事件としての時効が成立しましたが、警察は容疑を切り替え捜査を継続する異例の対応をとりました。遺族の思いを取材しました。

 11月20日、毎年この日に道路脇の畑に花を手向ける家族がいます。神戸市に住む一瀬さん一家です。

兄の信臣さん:
「あいつが好きやったたらことか。たらこが1本あったら飯いっぱい食えたから、あいつ」

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 10年前、三男・敦さん(当時32)が松阪市内の勤務先の寮へ向かう途中、この場所で何者かが運転する車にはねられ、命を落としました。

兄の信臣さん:
「10年経ったという実感がないですね。犯人に対する思いも、もちろんあの日のままだし。終わりがないので、僕らには」

 事件が明らかになったのは2012年3月11日。松阪市飯南町上仁柿の山林で、4か月前から行方不明になっていた敦さんが遺体で見つかりました。

 その後の捜査で、北東に20キロ以上離れた松阪市内の県道近くで、敦さんの名前が書かれた封筒などを発見。警察は何者かが敦さんを車でひき逃げした後、遺体を運び遺棄したとして捜査を始めました。

兄の信臣さん:
「(敦を)はねたまま置いてくれとったら、もしかしたら助かっていたかもしれないし」

母の要子さん:
「この深い深い山の谷に連れてこられたということが、ちょっと悲しいですね」

 一家は、遺体が見つかった3月と、ひき逃げされたとみられる11月の年に2回、それぞれの現場を訪ねて敦さんを弔ってきました。

 しかし「死体遺棄罪」は事件から3年後の2014年に時効が成立。さらに「過失運転致死罪」も今年、10年の時効を迎えました。

 事件から10年の今年、警察は敦さんが当時身に着けていた黒いダウンジャケットを初めて公開。

 そして事件の解決を望む遺族の強い意向を受け、異例の対応をとりました。

 三重県警と津地検は1年ほどかけて協議したうえで、敦さんが当時ひき逃げされた後に生きたまま遺棄された可能性があるとして、時効が20年の「保護責任者遺棄致死罪」を適用することにしました。

 10年延長された時効…。

 一瀬さん一家は、去年は新型コロナの感染拡大で中止になってしまった駅でのビラ配りを2年ぶりに再開。

 家族総出で駅の利用客に情報提供を求めました。

母の要子さん:
「10年経てば(犯人が)憎いとかいうのではなくて、遺棄された場所、なぜそこまでしなきゃいけなかったっていうことだけが、やっぱり知りたいです。あと10年あればまた何かが本当に、情報提供いただけたらありがたいです」