愛知県大治町に、食器や廃材などで作った楽器で音を奏でる2人組の演奏ユニットがいます。2人はイベントや学校などで演奏してきましたが、コロナの影響でほとんどの活動の場を失いました。しかし、コロナの感染状況が落ち着いてきた今、徐々に出演依頼も回復。「ステージで人を楽しませるのが生きがい」と話す2人は、自作した楽器が奏でる音色で多くの人に笑顔を届けています。

■「もっと音楽や楽器を身近なものに」…自作した日用品楽器で演奏する2人組

 愛知県大治町に、日用品演奏ユニット「kajii(カジー)」の工房兼スタジオはあります。工房には、これまでに作った楽器が所狭しと並んでいます。

【画像20枚で見る】食器等で楽器自作の“日用品演奏ユニット” コロナ禍乗り越え届ける笑顔

 日用品や廃棄されたもので楽器を作り、イベントで演奏をしている「kajii」は、アフロヘアーがトレードマークのクマーマさんと、モノ作りが得意な創(そう)さんの2人組。

 クマーマさんはバンドのベーシストとして、創さんはプロのドラマーを目指して上京。そこで出会った2人は、「kajii」を結成。当時はギターとパーカッションのユニットでした。

創さん:
「今から8年ぐらい前に、リハーサルに食器を5個ぐらい持ってきて、音程が出るやつがあった」

クマーマさん:
「アットホームな空間が作りたいなと。家の中にあるもので音楽ができたら伝わるんじゃないかなと」

 ペットボトルで作った楽器「エアコーク」は、そのまま叩くと鈍い音ですが、ポンプで空気を入れて叩いてみると、美しい音色が鳴ります。

「音楽と楽器をもっと身近に感じて欲しい」。2人は自作した日用品楽器で演奏を開始。ペットボトルや空き缶、食器などを素材に、8年間で約130種類の楽器を作りました。

■コロナ禍でイベントが激減…助成金や補助金で何とか食いつなぐ

 食器を使うというアイデアから始まった「kajii」の音楽。イベントや学校などでの演奏が2人の主な収入源でしたが、コロナ禍で出演依頼は激減しました。

クマーマさん:
「2020年の手帳、バツがうってあるところが無くなっちゃったところで、5月がひどい。ぐちゃぐちゃですね」

創さん:
「助成金や補助金で、何とか食いつないでこれたんですけど、かなり綱渡りというか…。廃業寸前」

 2人とも子供を持つ父親で、奥様とは共働き。10年前に結婚し現在は介護施設で働いているという創さんの妻は、コロナ禍で収入が減った夫に対して…。

創さんの妻・麻里子さん:
「経済的なところを彼に頼っていないので…。『一生やっていく覚悟がないなら今すぐやめて』って言った時があったけど、一生やりたいって言っているし…。夫とクマーマは替えのきかない仕事だと思うので、かけがえのない素晴らしい仕事だなと思って」

■廃材活用からからくり人形まで…様々なアイデアで新作楽器を製作する2人

 コロナ禍で空いてしまった時間をチャンスと捉えた2人は、新しい楽器作りに挑みました。歯車が好きな創さんが考えたのが『からくり』を使った、赤ちゃんの手押し車をヒントにした楽器です。

創さん:
「腰に巻いて歩いていくと、後ろでカタカタと鳴ってついてきてくれる。カモの親子のような楽器を作りたくて…」

 しかし、結構音がうるさく改良が必要かもしれません。からくり以外にも、ゴミや廃品を活用した楽器作りにも取り組みはじめました。

 新作は、海に捨てられていたポリタンクと流木で作ったチェロ。

 パイプオルガンの仕組みを取り入れた「オルカン」は、足踏みポンプで風船を膨らませ、そこから出る空気を農薬散布に使われるバルブを通して空き缶の飲み口に噴射することで、軽やかな音色を奏でます。

■ステージに立ち人を楽しませるのが生きがい…再び動き出した2人の時間

 自由に楽しく、日々楽器作りに打ち込んでいるように見える2人ですが、コロナはそんな彼らにも大きな影をもたらしていました。

クマーマさん:
「僕自身、うつ病になっちゃって、今も薬を飲んでるんですけど…。人に喜んでもらうのがもともと好きな性格で、その時間が持てなかったのがつらかった」

 心を痛めてしまったクマーマさん。しかし、イベントなどの出演依頼の方は、コロナの感染状況も落ち着いてきた今、徐々に戻ってきました。

 この日、2人は住宅展示場で久しぶりのイベント。新作の「オルカン」と「ポリタンクと流木のチェロ」も初披露。客席と一緒に演奏する「流星群」という「kajii」のオリジナルナンバーで会場を盛り上げます。

クマーマさん:
「最高に楽しかった、やっぱり『生』はいい。自分の精神がちょっと安定してきたこともあって、見てもらった人が『すごい』『よかったな』と思ってもらえればいいかな」

創さん:
「子供のとき、周りに好きなことばっかりやってる大人っていなかったので、こういう生き方もあるという事がちょっとでも伝わればいいかな」

 ステージに立つこと、人を楽しませることが生きがいと話す2人。『笑いあり涙なし』のエンターテイメントで多くの人に笑顔を届けます。