三重県桑名市に、自ら養殖したフグの料理が人気の温泉宿があります。この宿の社長は、湧き出た温泉に魚が集まるのを見て、トラフグの養殖を思いつきました。試行錯誤の末に養殖に成功したこの「温泉トラフグ」を、町の新たな名物にしたいと意気込んでいます。

■上品な甘さが評判のプリプリの身…天然温泉で養殖されたトラフグの料理

 三重県桑名市の東名阪道「長島インター」から車で5分の「ニューハートピア温泉 ホテル長島」。4年前に掘り当てた地下1500メートルから湧き出る天然温泉が人気の宿です。

【画像20枚で見る】捨てていたお湯に魚集まり閃く…天然温泉でトラフグの養殖に成功 「町の名物に」

男性客:
「かけ流しなので気持ちいい」

別の男性客:
「掘り直してお湯がよくなったね。明るいうちに入ると気分がものすごくいい」

そして、宿のレストランがこの冬から始めたのが、この時季が旬のフグ料理。フグの刺身「てっさ」に、骨付きの「唐揚げ」など…。そのぷりぷりの身は、上品で甘いと評判です。

女性客:
「ジューシーで、弾力もあっておいしかったです」

男性客:
「鶏肉に近いけど、もっと上品です」

 料理に使われているトラフグは、この湧き出る天然温泉を使って養殖されています。

■温泉で始めたトラフグ養殖…きっかけは新たな掘削で大量に湧き出た温泉

 トラフグの養殖は、2つある貸切風呂の1つを使って行われています。「温泉養殖」と書かれたドアを開けると、かつて脱衣所として使われていたスペースが…。さらに、もう一つの扉を開けると、そこには大きな水槽がありました。ここでトラフグの養殖をしています。

ニューハートピア温泉 ホテル長島 石川剛社長:
「今70本くらい。これで大体1.8キロぐらい」

 49度の源泉を約16度まで冷ました温泉を使って育てています。

 4年前に新たに行った温泉の掘削。1500メートルまで掘り進むと、豊富な温泉が湧き出ました。しかし、量が多く使いきれないため、半分は泣く泣く捨てていたといいます。

石川さん:
「捨てているお湯をなんとか使えないかなと考えたのが最初。排水で捨てている所に魚が集まって、“何だこれ”っていうのが最初ですね」

そこで石川さんは、温泉を使った魚の養殖を思いつきました。

■最初のヒラメは全滅するも…試行錯誤の末にトラフグの養殖に成功

 思いついた魚の養殖は、最初は「ヒラメ」から始めました。ところが…。

石川さん:
「20センチくらいに成長した時に、夏の暑い時期に全部死んじゃいました。全部が初めてでわからなくて、病気なんだろうかとか…。結論は酸欠」

 反対の声も多くありましたが、あきらめることなく次は「アマゴ」の養殖に挑戦。稚魚を50匹購入し手探りで始めると、2か月で40センチほどに成長しました。手応えを感じたところで、いよいよ高級魚「トラフグ」の養殖に挑戦します。

石川さん:
「私が元々自動車のエンジニアをやっていて、カーボンやプラスチックの製品を作るのが得意だったので…」

 石川さんは、かつて自動車エンジニアだった経験を活かし、水槽やろ過装置などの魚の養殖に必要なものを1人で作り上げました。

この養殖施設を使うと、立派なトラフグが育ちました。しかしなぜ、この温泉だとすくすく育つのか疑問に思い、専門家に分析してもらうと…。

石川さん:
「この温泉は、魚の体に含まれるミネラルや塩分濃度がほぼ同じ。心地がいい状態らしいです」

 一般的な海での養殖よりも、早く成長することがわかったといいます。そこで、養殖なら年間を通じて安定供給ができると考え、この「温泉トラフグ」で落ち込んだ客足を取り戻すべく、この冬からトラフグ料理を始めました。

■うま味が凝縮したホクホクの身…おすすめは「トラフグの唐揚げ」

 レストランでは、出荷サイズに成長したトラフグを使い試作を繰り返しました。

石川さん:
「個人的に唐揚げが最高。鳥の唐揚げの超高級な、本当においしい」

 石川さんのオススメは唐揚げ。一口サイズに切った身を、高温の油でカリッと揚げると、身がホクホクしたうま味が凝縮した味になるといいます。

女性客:
「やわらかい、おいしいです」

別の女性客:
「お酒にはちょうどいい」

男性客:
「名産になるんじゃないかな。応援します」

 定番のフグの刺身「てっさ」や「ふぐの皮」、身がたっぷり入った「とらふぐ鍋」などをセットにした「温泉とらふぐ御膳」(7500円 2名以上・2日前までに要予約)を、この冬からレストランで提供することを決めました。

石川さん:
「『長島温泉トラフグ』で、落ち込んだ環境を取り戻していく切り札になれば」

「ここでしか食べられないオンリーワンの地域のブランドを目指していきたい」。トラフグを使った石川さんの夢は膨らみます。