中学校によって評価は変わるのになぜ高校入試で内申点が評価に入るのか?こんな投稿が寄せられました。投稿では「実技教科は生まれ持った才能が大きいのに、評価対象にされて不合格になる子供もいるでしょう。入試に内申点、特に実技教科を入れることは不公平なのではないか」とあります。

 なぜ、公立高校の入試に「内申点」を使うのか。そして、先生たちはどのように付けているのか?取材をすると、課題や評価する先生たちも悩みを抱えているのがわかりました。

■デリケートな問題なので…どの町の教育委員会も“内申点の付け方”について取材NG

 内申書について街で聞いてみました。

【画像20枚で見る】「なぜ高校入試では内申点を評価に?」“絶対評価”の難しさや教師達の悩み

男子学生(10代):
「授業態度は悪くても、(評価が)高かったときは『あれ、いいのかな?』みたいな」

会社員の男性(20代): 
「運動が得意だったので、絶対一番上の評価だろうと思っていたら、一個下だったときは『なんでだろう?』」

主婦(70代):
「やっぱり先生に好かれやすい人と、何やっても先生から嫌がられる、そういう性質もあると思います」

会社員の女性(20代)
「やっぱり先生によるって感じでした。同じ基準で判断しているのかな?とちょっと疑っちゃう」

「先生の好き嫌いで変わる」「基準がわかりにくい」など疑問の声があがりました。しかし、それを直接先生にぶつけたことがあるという人はいませんでした。そこで、中学校を管轄する各市町村の教育委員会に、内申書の内申点をどのように付けているのかを聞いてみることにしましたが…。

A教育委員会:
「う~ん…。デリケートな問題なので、『はいわかりました』と取材OKできないので…」

B教育委員会:
「『それは取材を受けるものではない』という結論に至っております」

C教育委員会:
「多忙な中で、そのことを丁寧にお話することが、どの教育委員会も厳しいのではないか」

様々な市や町の教育委員会に取材を依頼しましたが、どこもNG。内申点の付け方について、疑問が深まるばかりです。

■評価に明確な基準がない…疑念を抱かせる「相対評価」に代わって導入された「絶対評価」

 内申書の制度に詳しい佛教大学の田中耕治教授(教育評価学)に、話を聞きました。

佛教大学・教育学部の田中耕治教授:
「(内申書は)ある種、個人情報ですよね。それをオープンにするということは、学校側・行政側はかなり慎重になっておられるんだろうと思います」

 田中教授は、学力を総合的に把握できるという点で、内申書には意義があるといいます。

田中教授:
「一つは、どうしても一日の入試・学力テストだけでは、一発勝負になってしまう。試験の当日体調を崩したとか…。どうしても一発入試の場合はそういうことが影響する。(もう一つは)トータルで子供達の学力を見るということ。中学校でやった教育活動の成果をちゃんと高校側に示したい、というのは内申書の持っている一番の大きな役割だと考えています」

 競争緩和を目的に導入された内申書。「受験戦争」という言葉が生まれた1960年代に、学力検査と内申点を軸にした公立高校の受験の仕組みができあがりました。

 田中教授が注目するのは、2001年に「相対評価」に代わって導入された「絶対評価」。これが「教師の主観では」という疑念を抱かせてしまうことに繋がっているといいます。

田中教授:
「目標準拠評価(絶対評価)の場合は、目標に到達したかどうかなので、目標をどう設定するのか。例えば、ある中学校では『三権分立は、司法・立法・行政という3つを言えればいい』。でも別の中学校、また別の先生は『いや、名前を言うだけじゃなく三権がなかった時代との比較ができる、理解して表現する力を持たないと』って。そこは意外と難しい」

生徒の到達度を測る目標は、各学校が決めるため、基準がバラバラ。極端に言えば、教師の主観で何人にも5をつけたり、逆に1をつけたりすることもできてしまいます。

 さらに、教師の主観と思わせるのが、「観点」と呼ばれる欄。”5段階評価”の根拠となるもので、その中に「主体的に学習に取り組む態度」という項目があるのですが…。

田中教授:
「『観点』欄に“態度”が入ってきたことによって、主観的だという風に受け止められた。“態度”というのは、『挙手の回数』とか『背筋を伸ばして先生の話を聞いている』とかではない」

本来は“試行錯誤しながら粘り強く学ぼうとする力”を測る意味で使われている“態度”という言葉が“積極的な発言”などわかりやすい行動で測ると誤って解釈されていることも、“客観性に欠ける”といわれる原因だといいます。

■じっくり時間をかけて評価したいが…多忙の先生たちの苦悩

 実際に内申書をつける先生たちはどう考えているでしょうか。学校名などを伏せることを条件に、名古屋市内の中学校の校長が取材に応じてくれました。

校長:
「通知表は教科の先生から教務主任、教頭、校長とか、その前に学年でチェックしたりとか…。やっぱり一人だと絶対にミスがあるから、その辺は複数の目でやって、信頼性があるようにしています」

多くの目で見ることにより、客観性がなるべく保たれるよう心がけているといいます。一方で、先生たちを悩ませるのが、田中教授も指摘した「主体的に学習に取り組む態度」の項目だといいます。

校長:
「(観点の態度は)『学びを調整していく力』、『継続して取り組む力』の2つから見ていこうとするけど、“見えにくい力”をどう捉えるか。正直、先生たちが今苦労しているところ。『はい!』と手を挙げればいい、『ノートをちゃんと出した』とかで判断してしまう先生が多くて、『それは違うんじゃない?』と(国の報告などで)言われていた」

“見えない力”を評価する難しさ…。本来ならじっくり時間をかけて評価をしたいところですが、ただでさえ忙しい教師にとっては、その時間を捻出するのが大変だといいます。

さらに、今は新型コロナの影響で学校での活動が制限され、そもそも生徒を評価できる場面が限られているなど、評価する側も戸惑っていました。

■自ら行動目標を立てる習慣を…内申点アップを請け負う塾の教え

 現実に対応しなければいけないのは生徒たちです。愛知県豊川市に、2012年に登場した“内申点アップ”を請け負う塾「後成塾」では、「自律ノート」と呼ばれる独自の記録用ノートを採用しています。

子供たちは、毎日このノートに「その日の勉強のテーマ」や「学校で先生が話したこと」、「家での生活の記録」など11項目を記入。ノートへの記入を続けることで、自ら行動目標を立てる習慣がつくといいます。内申書に直結する「主体的に学習に取り組む態度」に繋がる要素です。

塾に通う小学生:
「もともと普通だったけど、今は結構上のほう」

塾に通う中学生:
「日頃からのコツコツの学びが役立つと思うので、しっかり発言とかをして先生からの評価も高めて、良い高校に行ければ」

後成塾塾長の桂野智也さん:
「まずは毎日書く。計画を立てる、その立て方を学ぶ、あとは学校の授業がどういう授業があったとか、学校の先生が何をお話されているかとか…」

塾長の桂野さんは、「テストの点も内申点も、得点を取るために必要な情報があり、内申点アップのためには点数を付けている先生に直接聞くのが一番」と話します。

桂野さん:
「絶対評価の特徴として、『評価のポイントを先生方が明らかにしないといけない』という特徴があるので、聞かれた以上は答えないといけない。それをみんなやっていないからやりましょうと言っているだけ」

「先生に直接聞いてもいいの?」と思うかもしれませんが…。取材に応じてくれた名古屋市内の中学校の校長も、成績について生徒からの質問を受け付ける時間を設けているといいます。

校長:
「(通知表を)渡した当日に、必ず帰る前に『先生に疑問なところ、どうしてこうなったかを必ず聞きに来てね』ってやっています。まず、子供にきちんと説明をする。それが基本」

「内申点」をどのように付けているのかを調べるために現場の先生を取材すると、評価の仕方に試行錯誤していることがわかりました。