国会議員の女性の割合は現在14.3%で、衆議院にいたってはわずか9.7%です。この数字は、日本で初めて女性衆院議員が誕生した1946年の8.4%からほとんど増えていません。

 なぜ、女性の政治家が増えないのか。取材すると、“国会議員は家庭を顧みず働くもの”など、根強く残る“永田町の常識”が立ちはだかっていることがわかりました。

■娘たちを学校へ送った後に国会議事堂へ…お母さんは国会議員

 朝8時。小学1年生と3年生の娘を育てている伊藤孝惠さん(46)は、家から歩いて10分ほどの学校へ2人を送り届けます。

【画像で見る】46歳ママ議員が痛感する永田町の常識「家族を顧みず仕事を」

その後に、慌ただしく向かった先は、国会議事堂です。

伊藤さんの仕事は「参議院議員」。2016年に愛知選挙区で当選した“1年生議員”です。

 午前中の本会議の後は、所属する国民民主党の会議に出席。さらに午後には、調査会で専門家と意見交換をしたり、ヤングケアラーに関する法案を提出するなど過密なスケジュールです。

伊藤議員:
「この前までオミクロンで学級閉鎖だったから、ここ(議員会館)に上の子がずっといた」

国会議員といえども、子を持つ母親は同じ。休校になったり、子供が熱を出した時には、議員会館の事務所で子供の面倒を見ることもあるといいます。

伊藤議員:
「夫は在宅なんだけど、(子供が)ずっといると仕事できないから。『今日行ける?』みたいな感じでお互い…。でもみんな一緒だと思いますよ、私だけじゃなくて。働くお母さんとお父さんは、みんな綱渡りのよう」

■1946年からほとんど増えていない女性議員…立ちはだかる“永田町の常識”

 現在の国会議員の女性の割合は14.3%で、衆議院にいたってはわずか9.7%。この数字は、日本で初めて女性衆院議員が誕生した1946年の8.4%からほとんど増えていません。

 なぜ女性議員は増えないのか…。そこには、根強く残る“永田町の常識”がありました。

伊藤議員:
「“永田町の当たり前”、“永田町の常識”。票を投じてもらって議員をしているなら、今までの政治家がそうしてきたように、24時間仕事のことしか考えてはいけない、家族と楽しむなんてそんな時間を持ったらバチがあたるって思う自分もいるんですよ」

国会議員は、“滅私奉公”で働くもの。こうした姿が、いまだに“美徳”とされていることが、女性が働きづらい原因になっているといいます。

伊藤議員:
「子育てしているお父さん(議員)だっていると思うけど、地元に妻子は置いて、自分は国会で天下国家を語っています、地元に帰る時はあるけど、妻子とは会わずに『盆踊り50件回っているんです僕』っていうのが評価されるとみんな思っている」

実際、全国の女性を対象にした調査で、女性政治家が増えない原因として多かったのは「議員活動と家庭生活の両立の難しさ」(35%)や、「『政治は男のもの』という価値観」(34%)でした。

■“母親の目線”が政治には必要…保育所を立ち上げたシングルマザーの女性

 一方、女性議員の必要性を感じている“働く女性たち”もいます。岐阜県大垣市にある「ドリームタッチ保育所」では、0歳から2歳の子供を受け入れています。この保育所のスタッフは全員女性で、多くが子育て中のお母さんです。

小2と小4の子供を持つ保育士:
「この職場は本当に理解があって、ちょっと子供の体調が…って時でも、『体調悪いなら無理しなくていいよ』ってすぐ気遣ってくれて、本当に働きやすい」

 2018年にこの保育所を立ち上げた金森律子さん(47)は、スタッフが家庭を優先できるように、自らが保育士として勤めることもあるといいます。

保育所を経営する金森さん:
「時々現場の人数が少ないときは入ったりとか、スタッフがどうしても子供の調子が悪くっていう、『いざ』って時は入っています」

 金森さん自身も、2人の子供を育てるシングルマザー。保育所を起業したきっかけは、2006年に妊娠を機に移り住んだ岐阜県大垣市でのある出来事でした。

金森さん:
「保育園はあるんですけど、必ず働いてないと入れないっていう状態だった…」

もともと愛知県で看護師として働いていた金森さんは、出産当時は共働きではなかったため、子供を預けることが出来ませんでした。その経験から、働く女性を支えたいと保育所を立ち上げました。しかし保育所を経営する中で、“母親の目線”が政治の現場に必要だと感じていました。

金森さん:
「6時半から8時まで、小学生の学童とかに活用できると、なおいいなと思っているんですけど、助成金をもらっているのでそれ以上のことはやってはダメだよ、タブーというのが決まりなんですね」

「国会で男性議員の意見が反映され、女性議員の声があまり反映されないのは、女性議員が少ないからかな」と金森さんは話します。

■変えなければいけないのは男性の在り方…根強く残る“家庭は女性が支えるもの”という意識

 求められているにも関わらず、その数が増えない女性議員。その背景について、「ジェンダーと政治」を研究する名古屋大学の田村哲樹教授は…。

田村教授:
「政治家だけに限らないけど、世の中的に『女性は結婚すると家庭のことをしないといけない、家事・育児・介護をしなきゃいけないよね』と社会の中でみんなが思っている」

“家庭は女性が支えるもの”という意識が根強く残る日本社会。女性議員が増えない問題は、その縮図だと指摘します。

田村教授:
「民間企業の女性の管理職の割合もそんなに高くはないので、問題の根っこは同じ。女性をどう支えるかというよりは、男性の在り方をどう変えるかを真面目に考えた方がいい。そこが変わらないままだと、『いろんな事由を抱えた女性をサポートしましょう』と、どこまでも女性は付随的なものになってしまう」

 参議院議員の伊藤孝惠さんは、夫の祐介さんが家事を担うことで、議員と母親の両立をしてきました。

伊藤議員:
「女性議員がなぜ増えないって自分のことばっか語ってきたけど、本当はここ(夫)にあるのかもしれない。もう辞めろとか、もう(選挙に)出るなって言われたら、生活成り立たないから続けられないもんね」

夫の祐介さん:
「家族だね、家族」

伊藤議員:
「やっぱり『(議員は)この生活です』って見せて、それでも変えたいと思う人募るって言っても誰も来ないよね。だから、まずここを変える」

 日本に女性の国会議員が誕生して76年が経ちますが、その数が増えない現状は、長い年月を経ても私たちの意識が変わっていないことを象徴しているのかも知れません。

■専門家「まずは政党レベルでの導入を」…多くの国が導入する議席や候補者の一定数を女性に割り当てる制度

 多くの国では、女性政治家を増やすために、「クオータ制」という制度を設けています。議席や候補者の一定数を女性に割り当てる制度で、世界196の国と地域のうち118か国で導入されていますが、日本では導入されていません。日本の女性議員の割合は、190か国中166位とかなり低い順位となっています。

クオータ制の導入について、名古屋大学の田村教授は、「まずは、政党ごとにクオータ制を取り入れるべき」と指摘します。

一定数の議席を割り当てるといった制度にするには法改正なども必要なため、まずは政党レベルで選挙に立候補する女性候補者を増やすルールを作るべきと話しています。