名古屋市西区に、飼い主に捨てられたり、様々な事情で保護された猫がいるカフェがあります。2018年にこの保護猫カフェをオープンした夫婦は、“行き場を失ったネコ”と“新たな家族”との橋渡しを続けています。

■保護猫と新たな飼い主をつなぐ…2階建てバスを改装した「保護猫カフェ」

 お気に入りのベッドでリラックスする猫に、カメラに興味津々の猫…。地下鉄鶴舞線「庄内通駅」から徒歩7分のところにある猫カフェ「ひだまり号」には、約20匹の猫がいます。

【画像20枚で見る】自宅は“猫用ICU”に改装…約300匹譲渡してきた『保護猫カフェ』橋渡し続ける夫婦

男性客:
「ここの猫たちはみんな元気でフレンドリー。ずっと寝ている猫とか、いろいろ特徴があって好き」

 この猫カフェは、2階建てバスをリフォームして作られました。料金はソフトドリンク飲み放題付きで60分1320円(5歳~小学生は1100円)。1階にあるカフェコーナーでドリンクを選び、2階のふれあいコーナーで猫たちと過ごすシステムです。この店は、祖父江吉修さんと妻の昌子さんが始めました。ここにいる猫たちは…。

店主の祖父江吉修さん:
「母猫から育児放棄されたり、はぐれちゃったり。そこを発見されて保護された猫」

カフェにいるのは、誰かが保護した猫や名古屋市動物愛護センターからの依頼で引き取った猫です。なぜ保護猫のカフェを開いたのでしょうか。

吉修さん:
「出会いの場。遊びに来られる方、猫ちゃんが飼いたい方で、ペットショップではなく、こういう所からぜひ保護猫を迎え入れたいと来ている方が多い」

祖父江さん夫婦は、カフェがオープンした2018年から約300匹の猫を譲渡しました。

 2020年度に全国の保健所や動物愛護センターに引き取られた猫は、約4万5000匹。そのうち1万9000匹以上が殺処分されています。

吉修さん:
「(殺処分は)まだまだゼロにはならない。猫を迎え入れる時の選択肢にこういった保護猫ちゃんを、皆さんに周知していただくことが大事」

祖父江さん夫婦は、殺処分される猫を一匹でも減らすためにこのカフェを続けています。

■自宅の3階を猫の隔離部屋へ改装…ICU設備も導入し弱った猫のケアを続ける

 祖父江さん夫妻は、カフェだけでなく店のそばにある自宅の3階を保護猫のために改装しました。

妻の昌子さん:
「病気の子のケアをしている部屋で、風邪を引いた子とか感染する病気の子は連れてきてケアをする」

猫がたくさんいると怖いのが“感染症”。病気の猫をケアするために、自宅の3階を隔離部屋にしました。さらに…。

昌子さん:
「ICUといわれるもので、酸素と温度と湿度を管理できる機械。呼吸が苦しい子、赤ちゃん猫の低体温ぎみの子の体温を上げるのに最適」

弱ってしまった猫をケアするために、300万円もする酸素濃度や温度、湿度を管理できる「高圧酸素システムICU」も導入しました。

動物看護師の資格を持っている昌子さんは、獣医の指示を受けながら弱った猫たちのケアをしています。

■突然息子を亡くし心の病に…猫カフェを始めて少しずつ病気を克服

 保護猫のために多くの費用をかけていますが、カフェの経営は厳しいといいます。

吉修さん:
「(コロナで)席数を半分に。来客数はうんと減っています。売上も当然落ちている、そこへ医療費は変わらず。非常に厳しい」

経営が厳しくても、猫のためにできることは全てしたいと話す祖父江さん夫妻。なぜここまでして保護猫の世話を続けるのでしょうか。

昌子さん:
「失いたくないんですよ、命を。8年前に大事な息子を突然亡くしまして、心の病気になってしまった」

 祖父江さん夫妻は、2014年に突然当時23歳の息子・修平さんを亡くしました。昌子さんは、そのショックで精神的に追い込まれてしまいました。そんな時に、ペットのかかりつけの獣医から、へその緒のついた赤ちゃん猫を育ててみないかと言われ、引き取りました。

昌子さん:
「それまで、『自分なんてこの世にいらない』って、息子を失ってから思っていたけど、この子(猫)にとっては私がいないとダメだって…。一匹の猫も私の中ではみんな子供で、人間の子と同じように失いたくない。そのためにだったら、できることは何でもしたい」

昌子さんは猫カフェを始めたことで、少しずつ病気を克服し、今では日常生活を取り戻せるまでになりました。

■少しでも辛い思いをする猫を減らすために…猫たちの新たな居場所を探し続ける

 この日、里親が見つかりカフェから巣立つ猫がいました。祖父江さん夫婦が「みらい」と名付けた猫です。

里親希望の女性:
「(カフェは)温かい雰囲気ですし、猫ちゃんたちもみんな幸せそうだから、(保護猫を迎えるなら)ここからがいいなと」

里親希望の男性:
「わからないことを聞きやすい雰囲気もあったので…」

祖父江さん夫婦は、みらいを若い夫婦に託しました。送り出すとき、昌子さんはいつも子供をお嫁に出すような気持ちになるといいます。昌子さんは縁組みの際、里親を希望する人が猫と遊ぶときの表情や、猫に対する態度をしっかりと見極めています。

昌子さん:
「この人きっといい里親さんになってくれるなとビビっと来るものを信じていて、この子を一生愛してくださる方がいいなと思っています」

 2020年に、このカフェから譲渡を受けた里親の女性を訪ねました。

里親となった女性:
「ひだまり号で“アトム”という名前でいた猫です」

アトムは、2018年に名古屋市北区の市営住宅で、多頭飼育崩壊の末に保護された、約40匹の猫のうちの一匹でした。名古屋市動物愛護センターの依頼でひだまり号に引き取られ、その後、この女性と出会いました。

同・女性:
「2年ほど前に初めてひだまり号を訪れ、一匹だけ丸っこいフォルムの子がいて迎え入れました。少しでも、罪のない動物たちが殺されるのが減っていくのはいいこと」

 2021年に昌子さんは、そんなアトムと里親の女性との出会いを、絵本「わたし アトム」(1冊2640円)にしました。

昌子さん:
「(劣悪な環境にいた)アトムが幸せになるのを絵本にすることで、多頭飼育崩壊は猫にとって不幸なことだって。アトムみたいな辛い思いをする子が増えないように」

収益の一部は保護猫たちのために寄付しています。

昌子さん:
「できるだけ長く続けていきたい。最近24時間ライブも始めて、ひだまりに足を運んでいただける方が少しでも増えるようにしていきたい」

祖父江さん夫婦は、これからも猫たちの新たな居場所を見つけるために活動を続けていきます。

 保護猫がいるカフェ「ひだまり号」は、地下鉄鶴舞線「庄内通駅」から徒歩7分の場所にあります。入場にはマスクと靴下が必要です。