名古屋市西区に、生麩(なまふ)を製造・販売する老舗メーカーがあります。料理店向けに生麩を製造してきたこのメーカーは、コロナ禍で売上が激減したため、生麩を使って気軽に食べられる“みたらしだんご”を考案しました。ふっくらモチモチの「生麩のみたらし」は、遠方からも客が訪れるほどの人気となっています。

■モッチリとした食感…老舗メーカーが考案した”生麩のみたらしだんご“

 名古屋市西区の「円頓寺商店街」からすぐの場所に、生麩で作ったみたらしだんごが人気の「麩柳商店(ふりゅうしょうてん)」はあります。

【画像20枚で見る】売上激減の“生麩”で作ったら…老舗の新たな挑戦モチモチの『生麩のみたらしだんご』

女性客:
「どんな味なのかなと思って…。モッチリして柔らかくておいしい」

別の女性客:
「モチモチ。みたらしだんごは醤油感が強いけど、(生麩のみたらしは)タレ自体も優しい」

ふっくらモチモチの生麩で作った「生麩のみたらし」(2本300円)が、評判となっています。日本の伝統的な食材である生麩は、モッチリとした食感が特徴で、汁ものなどに入れるとダシが染み込みおいしくいただけます。

このみたらしだんごを生み出したのは、生麩の製造販売をする1877年に創業した「麩柳商店」の5代目、新井智久さんと、この道25年の職人・長谷川大悟さんです。

■3種類の“もち粉”で出す絶妙なモチモチ感…花や野菜をかたどった看板商品「花麩」

 生麩は、小麦などのタンパク質の一種“グルテン”に、3種類の“もち粉”を合わせて作ります。

5代目の新井智久さん:
「もち粉の粗さとかきめ細かさとか…、生麩のモチモチ感を出すために使用しています」

3種類のもち粉を使うことで、絶妙なモチモチ感を…。空気を抜くように生地を練る作業には手間はかかりますが、昔ながらの手作りにこだわっています。

新井さん:
「生地の弾力とか柔らかさ、季節や気温によって配合を変えている。食べたときの食感が生麩は独特で、“つるモチ”みたいな」

手でこねる時間が、生地の食感の良し悪しを決めるといいます。棒状に細く伸ばした生地を昔ながらの木型に入れ、釜で茹で上げていきます。

15分ほど茹でたら容器から取り出し、冷水でしめて完成。切ると、見事なさくらの花が咲きました。

花や野菜をかたどった看板商品の「花麩(大)」(1本500円~)は、料理旅館や料亭などから引き合いがある自慢の逸品です。

■生麩を知ってもらいたい…この道25年の職人が考案したやさしい甘さが特徴の「生麩のみたらし」

 生麩を使った新商品「生麩のみたらし」(2本300円)を考案したのは、この道25年の職人・長谷川大悟さんです。きっかけは、新型コロナの感染拡大でした。

生麩を料理店などに向け製造してきたため、コロナ禍で売上が激減。そこで、今まで手掛けてこなかった個人向けの商品として、気軽に食べることができる生麩のみたらしだんごを作ることにしました。

長谷川さん:
「モチモチ感を味わおうと思ったら、中もギュっと生麩が全部。独特の歯ごたえが楽しんでもらえるだんごに」

一つ一つ丁寧に丸めた生地を茹で上げ、串に刺して香ばしく焼いていきます。

長谷川さん:
「焼いた方がフワっとして食感も変わってくる。焦げ目がついた方が、(タレが)からみやすい。ツルツルなので、生麩は」

タレにもこだわりました。愛知の白たまりと、鹿児島のキビ糖を使った自家製ダレをかけて完成。

やさしい甘さで、上品な味わいの「生麩のみたらし」。一般的なみたらしだんごとはまた一味違う、この“新食感”のだんごを、食べ歩きもできるようカップに入れました。

長谷川さん:
「生麩を知ってもらいたいと始めたので、器に入れたときに生麩が見えないのはいただけないなって…」

北海道産のきな粉をたっぷりかけた、「生麩のみたらし きなこ」(2本350円)も用意しました。

■麩に馴染みのなかった若い女性も来店…デザート感覚で食べられる「生麩のみたらし」

 生麩のみたらしだんごは、2021年から販売を開始。

大阪から来た女性客:
「みたらしだんごが大好きで、ここでしか買えない『生麩のみたらし』を見て」

女性客:
「食べやすい。もっと濃い味を想像していたけど、軽く食べられちゃう」

別の女性客:
「インスタグラムを見て、『日本一モチモチしてる』って書いてあったので」

アメリカ人の友達を連れてやってきた女性は…。

アメリカ人の友達と訪れた女性:
「名古屋城を見ようと思いまして、この付近で日本っぽいものを食べられるところはと…。お麩なのでモチモチしていてツルツルもしていて、普通のお餅と比べるとノド越しがいい」

アメリカ人の女性(日本語訳):
「お餅じゃないのでノド越しがいい。甘すぎないから午後の軽食などにちょうどいい」

SNS映えする見た目も評判となり、これまで麩に馴染みのなかった若い女性たちも来店するようになりました。

職人の長谷川さん:
「コロナが始まってから本当に苦しい期間だったけど、そのおかげで新しいことに挑戦するチャンスはできました」

5代目の新井さん:
「生麩のみたらしを食べて生麩のおいしさを知っていただいて、その先に生麩の可能性があると思っています」

1世紀以上にわたり生麩を作り続けてきた老舗の新たな挑戦。ピンチがチャンスに変わりつつあります。

「麩柳商店」は、円頓寺商店街から北に入った場所にあります。