愛知県の矢作川から工業用水などを取水する施設「明治用水頭首工(とうしゅこう)」で、大規模漏水が発生しました。現場周辺を取材すると、すでに様々な影響が現れていました。

 16日の夜に撮影された1枚の写真。波ひとつない平らな水面が1カ所、くぼんだ様になっています。

 17日の夜には、今度は穴は見えず、激しく水面が波打ったようになっています。

15日に漏水把握も“穴”どんどん広がる…大規模漏水発生した用水等の取水施設 水位が普段より5メートル程低下

 18日朝、川の水はほとんどなくなってしまいました。

 豊田市を流れる矢作川から用水を取り込む「明治用水頭首工」で発生した、大規模な漏水の現場です。

 漏水が起きた「頭首工」とは、川の流れをせき止めることで水位を上昇させ、取水口に流し込み水を取り入れる施設のこと。今回、上流部の川底に空いた穴から水が下流に流れ出し、水位が下がることで水を引くことができなくなっています。

 水は川の底が見えてしまうほど減っていて、復旧のめどは立っていないといいます。周辺地域には様々な影響が及んでいます。

 通常、明治用水頭首工で取り込まれた水は、周辺の工場などで使えるよう安城浄水場へと送られますが、漏水によって必要な水量の確保が困難に。

 この影響で、豊田市や岡崎市などにある131の事業者への工業用水の供給が停止する見通しとなっているのです。

 トヨタ自動車では、井戸水を活用しながら全工場で通常稼働を継続。豊田自動織機では対象地域の5つの工場で自主的に給水を止め、当面は各工場にある貯水を活用するなど対応に追われています。

 製造業を中心に大きな影響が及んでいますが、さらに深刻なのが「農業」です。

農家の牧さん:
「昨日までは水が出ていたんだよね。ちょっとは水がついているんだけど、たぶん一晩ぐらいで引いてっちゃった。農家さんにとって一番水を使う時で、一番深刻な時期に用水から水が出てこない。この状況はちょっと経験したことがない」

 干上がった田んぼで嘆くのは、23年にわたり豊田市で農業を営む牧和範さん(43)。今回の漏水で農業用水の供給もストップしてしまい、頭を抱えていました。

牧さん:
「これは給水バルブで、普段ならここから水が出てるんですけど、今は全く水が出てこない」

 牧さんが稲を育てるのは、田んぼに直接種籾をまく「直播き」という方法。4月種籾をまき、16日に水を張ったばかりです。

 水田にするには深さ5センチから10センチほどの水が必要で、今はかろうじて水が残っている田んぼも、明治用水が復活しない限りはあと数日もすれば干上がってしまうといいます。

牧さん:
「バケツで(水を)組んできて入れるというわけにもいかんので。正直2週間ぐらい待って、稲が枯れてきていたらもうアウト。それ以降は稲をあきらめて、次の策を練るか…」

 復旧のメドが立たない中、行政に望むことは…。

牧さん:
「『どのくらいの工期で』という情報をもう少し流してくれると、対策が立てられるかなと思う」

 早期の復旧と迅速な対応が待たれる今回の大規模漏水。東海農政局は十分な量の水の確保に向け、仮設のポンプを投入するなどしています。

 東海農政局は18日に会見し、5月15日の時点で現場で漏水が確認されていたことを明らかにしました。

東海農政局の担当者:
「漏水があったのは15日の日曜日に確認したわけでございますが、正直に言って、これほど急激に水が抜けるということは想定しておりませんでした。対応が結果的に後手に回って、結果的に少し遅くなってしまったように見える点につきましては、申し訳ないと思っております」

 漏水に至った原因はまだわからないまま。愛知県は事業者に節水を呼びかけるなどしていますが、一般家庭への影響はないとしています。